追放された鉄道オタクの俺、悪役令嬢と辺境で蒸気機関車を作ったら王国最強になってた件。

黒崎隼人

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第5話:辺境の地と小さな一歩

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 僕たちが領主代行として赴いた村は、「グライフェン村」と名付けられていた。岩だらけの荒れ地に、風化した木造の家が十数軒。村人たちの顔には疲労と諦めが色濃く刻まれている。彼らは突然現れた若い貴族の男女を、警戒心と好奇の入り混じった目で遠巻きに眺めているだけだった。

 村長だという白髪の老人が、おずおずと僕たちの前に進み出た。
「…新しい領主様でございますか? 何もない村ですが、どうぞお見知りおきを」

 彼の言葉には、貴族に対する不信感が滲んでいた。どうせまた重い税を取り立て、自分たちのことなど顧みないのだろう。そんな声が聞こえてくるようだった。

 僕とセレスは、まず村の現状を見て回ることにした。話を聞けば、この土地は鉄鉱石や木材といった資源には恵まれているらしい。しかし、問題は輸送手段だった。最も近い町まで、険しい山道と森を抜けて馬車で三日もかかる。時間と費用がかかりすぎるため、資源を切り出しても採算が合わず、村は慢性的な貧困に喘いでいた。

「これだ」
 僕は確信した。この村こそ、僕の夢を実現するための最高の舞台だ。

 その日の夕方、僕は村人たちをささやかな広場に集めた。焚き火の炎が、集まった人々の不安げな顔を照らし出す。僕は、少し高い岩の上に立ち、彼らに向かって宣言した。

「グライフェン村の皆さん。僕はアスター・フォン・アイゼンローデ。そして、こちらはセレスティーナ。今日から、皆さんと共にこの村を発展させていく者です」

 村人たちは静まり返り、僕の次の言葉を待っている。
「皆さんが貧しいのは、皆さんが怠けているからではない。この土地に価値がないからでもない。ただ一つ、産物を『運ぶ力』が足りないからです」

 僕は一呼吸おいて、続けた。
「そこで、僕は皆さんに提案したい! この地に『鉄の道』を敷こう!」

「てつの…みち?」村人の一人が、訝しげに呟いた。

「そうだ。鉄でできた二本のレールを、この村から近くの町まで敷く。そして、その上を走る『鉄の馬車』を開発する! それは蒸気の力で走り、馬は要らない。一度に馬車十台分以上の荷物を、今までの何分の一かの時間で町まで運べるようになる!」

 僕の言葉に、広場は水を打ったように静かになった。村人たちは、僕が何を言っているのか理解できず、顔を見合わせている。夢物語だ、頭がおかしくなった貴族様だ、そんな囁きが聞こえてくる。

 当然の反応だった。彼らが今まで見たこともない、想像もつかないような話なのだから。

 その時、一人の屈強な男が前に進み出た。
「旦那様、そりゃあ一体どういう仕組みなんで?」

 僕は待ってましたとばかりに、前世の知識と、この世界に来てから描き溜めた設計図の一部を、地面を羊皮紙代わりにして説明し始めた。蒸気圧、ピストン、車輪への動力伝達。僕の説明は熱を帯びていった。

 村人たちの多くはまだ半信半疑だった。しかし、僕の目を見て、その熱意を感じ取ってくれた者もいた。何より、僕の隣で静かに頷き、僕の言葉を信じているセレスの存在が、彼らに不思議な説得力を与えていた。

「もし…もし本当にそんなものが出来たら、俺たちの暮らしは変わるのか…?」
 誰かがぽつりと呟いた。

「変わる。必ず変えてみせる」僕は力強く断言した。「鉄鉱石も木材も、高値で売れるようになる。町の物資も安く手に入るようになる。この村は、物流の拠点として生まれ変わるんだ。そのために、皆の力を貸してほしい。これは僕一人の夢じゃない。皆の未来を賭けた、大きな一歩だ!」

 沈黙が続く。誰もが固唾を飲んで、僕の顔と、村長の顔を交互に見ている。全ての決定は、この老人に委ねられていた。

 村長は、じっと僕の目を見つめた後、ゆっくりと口を開いた。
「…今まで、俺たちにてめえの夢を語った貴族様はいなかった。どうせまともじゃねえ話だ。だが…」

 彼は深く、長い溜め息をついた。そして、決心したように顔を上げた。
「あんたの目には、嘘はねえようだ。どうせ俺たちは、このままじゃ飢え死にするだけだ。だったら、あんたのその突拍子もねえ夢に、賭けてみるのも面白いかもしれねえな」

 その言葉を皮切りに、「そうだ、やってみよう!」「どうせ失うものなんてねえ!」と、村人たちの中から次々と賛同の声が上がった。彼らの目に、諦めではない、新しい光が灯り始めていた。

 僕とセレスは顔を見合わせ、微笑んだ。
 辺境の地での、僕たちの挑戦。それは、村人たちの心を動かすという、小さく、しかし何よりも重要な一歩から始まったのだった。
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