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第6話:頑固なドワーフとの出会い
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蒸気機関車を造るには、高度な鉄の加工技術が不可欠だ。特に、高圧の蒸気に耐える強靭なボイラーや、精密なピストンとシリンダーは、並の鍛冶師では到底作ることができない。
村長に相談すると、彼は村の近くにある岩山を指差した。
「あの山の奥深くに、ドワーフたちが住んでる。気難しくて人間嫌いだが、鍛冶の腕は天下一品だ。彼らの力を借りられれば、あるいは…」
僕とセレスは、村の男を道案内に、そのドワーフの集落へと向かった。山道は険しく、獣道をかき分けるように進むと、やがて巨大な岩壁に掘られた、屈強な門が現れた。
「何者だ、人間!」
門番をしていた斧持ちのドワーフが、地鳴りのような声で僕たちを威嚇した。
僕が来訪の目的を告げると、彼は鼻で笑った。
「鉄の馬車だと? 寝言は寝て言え。親方に会わせろ? 親方は人間なんぞに会うか。とっとと帰りな!」
交渉は最初から難航した。どれだけ説明しても、彼らは僕の話を全く信じようとしない。それどころか、僕たちをからかい、嘲笑する始末だ。セレスが公爵令嬢としての威厳を見せようとしても、「ここは王宮じゃねえ」と一蹴されてしまう。
何日も通い詰めたが、門前払いが続く。僕の情熱も、さすがに空回りし始めていた。
その夜、僕は野営の焚き火の前で、一枚の大きな羊皮紙を広げた。もう言葉で説明するのは無理だ。ならば、見せるしかない。僕が持つ、唯一にして最大の武器を。
僕は寝食も忘れ、羊皮紙に向かった。前世で培った製図の知識を総動員し、蒸気機関の構造を、寸分の狂いもなく描き上げていく。ボイラーの断面図、ピストンの連結構造、弁装置の複雑な動き。部品の一つ一つに至るまで、寸法と材質を細かく書き込んでいく。セレスは、そんな僕の姿を心配そうに見守りながら、温かい飲み物を差し入れてくれた。
そして三日後、ついに蒸気機関の精密な設計図が完成した。それは、この世界の誰も見たことがない、科学技術の結晶だった。
僕とセレスは、再びドワーフの門を訪れた。
「また来たのか、しつこい人間め!」
門番はうんざりした顔で言った。
「これを見てほしい。話はそれからだ」
僕は、言葉少なに設計図を広げて見せた。
最初、門番のドワーフは馬鹿にしたような目でそれを見ていた。だが、図面に描かれた複雑で合理的な構造を追ううちに、彼の表情が険しくなっていく。
「…なんだ、こりゃあ…」
彼は設計図を掴むと、慌てたように集落の奥へと走っていった。しばらくして、彼は息を切らしながら戻ってきた。その後ろには、他のドワーフたちよりも一回り大きく、長く白い髭をたくわえた、威厳のあるドワーフが立っていた。彼こそが、鍛冶師の親方、バルド・アイアンハンマーだった。
バルドは、僕から設計図をひったくるように受け取ると、岩の上に広げ、食い入るように見つめ始めた。彼の鋭い目は、設計図の隅々までを舐めるように追い、時折「ほう…」「なるほど…」と感嘆の声を漏らした。他のドワーフたちも、親方の周りに集まり、図面を覗き込んでいる。彼らの嘲笑の色は完全に消え、そこにあるのは純粋な技術者としての驚嘆と興奮だった。
長い沈黙の後、バルドは顔を上げ、初めて僕の目をまっすぐに見た。
「…小僧。この図面は、お前が描いたのか?」
その声には、もう侮蔑の色はなかった。
「はい。この設計図通りに作れば、鉄の馬車は必ず走ります」
僕は力強く答えた。
バルドは、ごしごしと己の髭を撫で、唸るような声で言った。
「…こんな無茶苦茶なもん、見たことがねえ。高圧のボイラーだと? ミクロン単位の精密加工だと? 正気の沙汰じゃねえ…」
彼は一度言葉を切り、そして、ニヤリと口の端を吊り上げた。その顔は、まるで面白い玩具を見つけた子供のようだった。
「…だが、面白え! 血が騒ぐぜ! 俺たちドワーフの腕が、どこまで通用するか試してみたくなった!」
バルドは設計図を拳でトンと叩き、高らかに宣言した。
「いいだろう、人間! そのふざけた夢、このバルド・アイアンハンマーと、我が一族が形にしてやる! 代わりに、最高の酒と鉄を用意しやがれ!」
「「「オオオオォォォ!!」」」
親方の言葉に、周りのドワーフたちが鬨(とき)の声を上げた。彼らの目には、職人としての誇りと、新たな挑戦への喜びの炎が燃え上がっていた。
頑固なドワーフの心を動かしたのは、僕の言葉ではなく、一枚の設計図だった。国や種族を超えて、良いものを作りたいという職人の魂が、確かに共鳴した瞬間だった。僕たちの夢は、最強の技術者集団という、心強い仲間を得たのだ。
村長に相談すると、彼は村の近くにある岩山を指差した。
「あの山の奥深くに、ドワーフたちが住んでる。気難しくて人間嫌いだが、鍛冶の腕は天下一品だ。彼らの力を借りられれば、あるいは…」
僕とセレスは、村の男を道案内に、そのドワーフの集落へと向かった。山道は険しく、獣道をかき分けるように進むと、やがて巨大な岩壁に掘られた、屈強な門が現れた。
「何者だ、人間!」
門番をしていた斧持ちのドワーフが、地鳴りのような声で僕たちを威嚇した。
僕が来訪の目的を告げると、彼は鼻で笑った。
「鉄の馬車だと? 寝言は寝て言え。親方に会わせろ? 親方は人間なんぞに会うか。とっとと帰りな!」
交渉は最初から難航した。どれだけ説明しても、彼らは僕の話を全く信じようとしない。それどころか、僕たちをからかい、嘲笑する始末だ。セレスが公爵令嬢としての威厳を見せようとしても、「ここは王宮じゃねえ」と一蹴されてしまう。
何日も通い詰めたが、門前払いが続く。僕の情熱も、さすがに空回りし始めていた。
その夜、僕は野営の焚き火の前で、一枚の大きな羊皮紙を広げた。もう言葉で説明するのは無理だ。ならば、見せるしかない。僕が持つ、唯一にして最大の武器を。
僕は寝食も忘れ、羊皮紙に向かった。前世で培った製図の知識を総動員し、蒸気機関の構造を、寸分の狂いもなく描き上げていく。ボイラーの断面図、ピストンの連結構造、弁装置の複雑な動き。部品の一つ一つに至るまで、寸法と材質を細かく書き込んでいく。セレスは、そんな僕の姿を心配そうに見守りながら、温かい飲み物を差し入れてくれた。
そして三日後、ついに蒸気機関の精密な設計図が完成した。それは、この世界の誰も見たことがない、科学技術の結晶だった。
僕とセレスは、再びドワーフの門を訪れた。
「また来たのか、しつこい人間め!」
門番はうんざりした顔で言った。
「これを見てほしい。話はそれからだ」
僕は、言葉少なに設計図を広げて見せた。
最初、門番のドワーフは馬鹿にしたような目でそれを見ていた。だが、図面に描かれた複雑で合理的な構造を追ううちに、彼の表情が険しくなっていく。
「…なんだ、こりゃあ…」
彼は設計図を掴むと、慌てたように集落の奥へと走っていった。しばらくして、彼は息を切らしながら戻ってきた。その後ろには、他のドワーフたちよりも一回り大きく、長く白い髭をたくわえた、威厳のあるドワーフが立っていた。彼こそが、鍛冶師の親方、バルド・アイアンハンマーだった。
バルドは、僕から設計図をひったくるように受け取ると、岩の上に広げ、食い入るように見つめ始めた。彼の鋭い目は、設計図の隅々までを舐めるように追い、時折「ほう…」「なるほど…」と感嘆の声を漏らした。他のドワーフたちも、親方の周りに集まり、図面を覗き込んでいる。彼らの嘲笑の色は完全に消え、そこにあるのは純粋な技術者としての驚嘆と興奮だった。
長い沈黙の後、バルドは顔を上げ、初めて僕の目をまっすぐに見た。
「…小僧。この図面は、お前が描いたのか?」
その声には、もう侮蔑の色はなかった。
「はい。この設計図通りに作れば、鉄の馬車は必ず走ります」
僕は力強く答えた。
バルドは、ごしごしと己の髭を撫で、唸るような声で言った。
「…こんな無茶苦茶なもん、見たことがねえ。高圧のボイラーだと? ミクロン単位の精密加工だと? 正気の沙汰じゃねえ…」
彼は一度言葉を切り、そして、ニヤリと口の端を吊り上げた。その顔は、まるで面白い玩具を見つけた子供のようだった。
「…だが、面白え! 血が騒ぐぜ! 俺たちドワーフの腕が、どこまで通用するか試してみたくなった!」
バルドは設計図を拳でトンと叩き、高らかに宣言した。
「いいだろう、人間! そのふざけた夢、このバルド・アイアンハンマーと、我が一族が形にしてやる! 代わりに、最高の酒と鉄を用意しやがれ!」
「「「オオオオォォォ!!」」」
親方の言葉に、周りのドワーフたちが鬨(とき)の声を上げた。彼らの目には、職人としての誇りと、新たな挑戦への喜びの炎が燃え上がっていた。
頑固なドワーフの心を動かしたのは、僕の言葉ではなく、一枚の設計図だった。国や種族を超えて、良いものを作りたいという職人の魂が、確かに共鳴した瞬間だった。僕たちの夢は、最強の技術者集団という、心強い仲間を得たのだ。
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