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第03話「採れたて野菜と、スローライフの始まり」
畑を作ってから数日。僕は前世で愛してやまなかった作物の種をまいた。まずは、どんな環境でも比較的育ちやすいジャガイモ。それから、スープにしたら美味しいだろうと思って、カブとニンジン。そして、主食になる小麦も試験的にまいてみた。
結果は、僕の想像をはるかに超えるものだった。
種をまいた翌日にはもう芽を出し、三日も経つと、青々とした葉が畑を覆い尽くさんばかりに生い茂ったのだ。
「いくら発酵土壌がすごいからって、この成長速度は異常だろ……」
あまりのことに、僕は自分の畑の前で呆然とつぶやいてしまった。まるで、植物の成長を早送りで見ているかのようだ。【万能発酵】スキルで活性化した土壌中の微生物たちが、植物の成長に必要な栄養素を、最高の形で供給し続けているのだろう。植物と微生物の、完璧な共生関係がこの小さな畑で成立しているのだ。
そして、種まきからわずか一週間。ジャガイモの葉が少し黄色くなり始め、収穫の合図を示していた。
『早すぎる! 普通なら三ヶ月はかかるのに!』
僕は興奮を抑えきれず、クワを手に畑へと駆け込んだ。試しに一つの株の根元を掘り返してみると、土の中からゴロゴロと、まるまると太ったジャガイモが姿を現した。一つ一つが、僕の握りこぶしよりも大きい。
「うおお……!」
思わず歓声が上がる。僕は夢中で土を掘り、次々と現れるジャガイモを収穫していった。カブもニンジンも同様だった。カブは赤ん坊の頭ほどもある大きさで、ずっしりと重い。ニンジンは土から引っこ抜くと、甘くて瑞々しい香りがふわりと広がった。
あっという間に、収穫物で足の踏み場もないほどの山ができた。
「さて、お待ちかねの実食タイムだ」
僕はニヤリと笑い、一番おいしそうなジャガイモをいくつか拾い上げた。今日の昼食は、採れたてのジャガイモを使った焚き火焼きだ。
拠点にしている岩壁の前に、石を組んで簡易的なかまどを作る。集めておいた枯れ木で火をおこし、ジャガイモを濡れた布で包んでから、さらに泥で全体を塗り固めていく。これを熾火になった焚き火の中に放り込むだけ。原始的だが、素材の味を一番楽しめる調理法だ。
待っている間、収穫したばかりのニンジンをかじってみる。ポリっと小気味よい音がして、口の中に驚くほどの甘みが広がった。
「うまっ! なんだこれ、果物か?」
えぐみや土臭さは一切なく、ただひたすらに甘くてジューシーだ。これだけで立派なごちそうになる。土の力が、作物の味をここまで引き出すとは。僕の予想をはるかに上回る成果に、笑いが止まらない。
やがて、焚き火の中から香ばしい匂いが漂ってきた。泥団子が焼き上がった合図だ。火から取り出し、石で泥を叩き割ると、湯気と共にほっくほくに蒸しあがったジャガイモが姿を現した。
「おお……完璧な火の通り具合」
熱々のジャガイモを二つに割ると、断面は美しい黄金色に輝いている。僕はふーふーと息を吹きかけながら、大口でかぶりついた。
その瞬間、口の中に広がったのは、濃厚なバターのようなコクと、なめらかな舌触り。そして、噛むほどに増していく、しっかりとした甘み。調味料なんて何もつけていないのに、信じられないくらい美味しい。
「うますぎる……! これが、俺の作ったジャガイモか……!」
夢中で、あっという間に一つを平らげてしまった。喉が渇いたので、スキルで浄化した水を飲む。この水も、心なしか前よりまろやかで美味しくなっている気がした。
腹が満たされると、言いようのない幸福感が全身を包み込んだ。
思えば、前世では食事なんてただの栄養補給だった。仕事に追われ、コンビニ弁当や栄養ドリンクを胃に流し込むだけの日々。最後に、美味しいものを美味しいと感じて食べたのは、いつだっただろうか。
貴族の家に生まれてからも、食事はマナーや作法に縛られた息苦しい時間でしかなかった。外れスキルの三男坊が、兄たちと同じテーブルにつくこと自体、針の筵に座っているようなものだった。
でも、今は違う。
誰にも気兼ねすることなく、自分で育てた最高の食材を、一番美味しい方法で味わう。
吹き抜ける風は心地よく、空はどこまでも青い。
「ああ……なんて自由なんだ」
これこそが、僕の求めていたスローライフだ。
僕は空になった胃袋をさすりながら、次の食事に思いを馳せる。
『明日はカブとニンジンのスープを作ろう。塩だけで、きっと極上の味になるはずだ。それから、そろそろ本格的に、味噌と醤油の仕込みも始めないとな』
味噌と醤油。日本の食卓に欠かせない、発酵が生み出した偉大な調味料。この世界にはまだ存在しない、未知の味だ。それを自分の手で生み出せると思うと、研究者としての血が騒ぐ。
幸い、原料となる大豆と小麦の種も持ってきている。まずはそれらを育てるための、もっと広い畑を開墾する必要があるだろう。
やるべきことは、まだまだ山積みだ。
でも、それは前世で感じていたような、プレッシャーや義務感とは全く違う。未来への希望と、純粋な好奇心に満ちた、わくわくするような「やることリスト」だった。
僕は大きく伸びをすると、再びクワを手に立ち上がった。
この嘆きの荒野を、世界一の穀倉地帯にしてやる。そして、世界一うまい飯を食うのだ。
僕の壮大な夢は、今、始まったばかりだった。
結果は、僕の想像をはるかに超えるものだった。
種をまいた翌日にはもう芽を出し、三日も経つと、青々とした葉が畑を覆い尽くさんばかりに生い茂ったのだ。
「いくら発酵土壌がすごいからって、この成長速度は異常だろ……」
あまりのことに、僕は自分の畑の前で呆然とつぶやいてしまった。まるで、植物の成長を早送りで見ているかのようだ。【万能発酵】スキルで活性化した土壌中の微生物たちが、植物の成長に必要な栄養素を、最高の形で供給し続けているのだろう。植物と微生物の、完璧な共生関係がこの小さな畑で成立しているのだ。
そして、種まきからわずか一週間。ジャガイモの葉が少し黄色くなり始め、収穫の合図を示していた。
『早すぎる! 普通なら三ヶ月はかかるのに!』
僕は興奮を抑えきれず、クワを手に畑へと駆け込んだ。試しに一つの株の根元を掘り返してみると、土の中からゴロゴロと、まるまると太ったジャガイモが姿を現した。一つ一つが、僕の握りこぶしよりも大きい。
「うおお……!」
思わず歓声が上がる。僕は夢中で土を掘り、次々と現れるジャガイモを収穫していった。カブもニンジンも同様だった。カブは赤ん坊の頭ほどもある大きさで、ずっしりと重い。ニンジンは土から引っこ抜くと、甘くて瑞々しい香りがふわりと広がった。
あっという間に、収穫物で足の踏み場もないほどの山ができた。
「さて、お待ちかねの実食タイムだ」
僕はニヤリと笑い、一番おいしそうなジャガイモをいくつか拾い上げた。今日の昼食は、採れたてのジャガイモを使った焚き火焼きだ。
拠点にしている岩壁の前に、石を組んで簡易的なかまどを作る。集めておいた枯れ木で火をおこし、ジャガイモを濡れた布で包んでから、さらに泥で全体を塗り固めていく。これを熾火になった焚き火の中に放り込むだけ。原始的だが、素材の味を一番楽しめる調理法だ。
待っている間、収穫したばかりのニンジンをかじってみる。ポリっと小気味よい音がして、口の中に驚くほどの甘みが広がった。
「うまっ! なんだこれ、果物か?」
えぐみや土臭さは一切なく、ただひたすらに甘くてジューシーだ。これだけで立派なごちそうになる。土の力が、作物の味をここまで引き出すとは。僕の予想をはるかに上回る成果に、笑いが止まらない。
やがて、焚き火の中から香ばしい匂いが漂ってきた。泥団子が焼き上がった合図だ。火から取り出し、石で泥を叩き割ると、湯気と共にほっくほくに蒸しあがったジャガイモが姿を現した。
「おお……完璧な火の通り具合」
熱々のジャガイモを二つに割ると、断面は美しい黄金色に輝いている。僕はふーふーと息を吹きかけながら、大口でかぶりついた。
その瞬間、口の中に広がったのは、濃厚なバターのようなコクと、なめらかな舌触り。そして、噛むほどに増していく、しっかりとした甘み。調味料なんて何もつけていないのに、信じられないくらい美味しい。
「うますぎる……! これが、俺の作ったジャガイモか……!」
夢中で、あっという間に一つを平らげてしまった。喉が渇いたので、スキルで浄化した水を飲む。この水も、心なしか前よりまろやかで美味しくなっている気がした。
腹が満たされると、言いようのない幸福感が全身を包み込んだ。
思えば、前世では食事なんてただの栄養補給だった。仕事に追われ、コンビニ弁当や栄養ドリンクを胃に流し込むだけの日々。最後に、美味しいものを美味しいと感じて食べたのは、いつだっただろうか。
貴族の家に生まれてからも、食事はマナーや作法に縛られた息苦しい時間でしかなかった。外れスキルの三男坊が、兄たちと同じテーブルにつくこと自体、針の筵に座っているようなものだった。
でも、今は違う。
誰にも気兼ねすることなく、自分で育てた最高の食材を、一番美味しい方法で味わう。
吹き抜ける風は心地よく、空はどこまでも青い。
「ああ……なんて自由なんだ」
これこそが、僕の求めていたスローライフだ。
僕は空になった胃袋をさすりながら、次の食事に思いを馳せる。
『明日はカブとニンジンのスープを作ろう。塩だけで、きっと極上の味になるはずだ。それから、そろそろ本格的に、味噌と醤油の仕込みも始めないとな』
味噌と醤油。日本の食卓に欠かせない、発酵が生み出した偉大な調味料。この世界にはまだ存在しない、未知の味だ。それを自分の手で生み出せると思うと、研究者としての血が騒ぐ。
幸い、原料となる大豆と小麦の種も持ってきている。まずはそれらを育てるための、もっと広い畑を開墾する必要があるだろう。
やるべきことは、まだまだ山積みだ。
でも、それは前世で感じていたような、プレッシャーや義務感とは全く違う。未来への希望と、純粋な好奇心に満ちた、わくわくするような「やることリスト」だった。
僕は大きく伸びをすると、再びクワを手に立ち上がった。
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僕の壮大な夢は、今、始まったばかりだった。
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