追放されたので、心置きなく発酵ライフ始めます〜外れスキル【万能発酵】で荒野を極上の美食国家に作り変えてたら、いつの間にか独立してました〜

黒崎隼人

文字の大きさ
3 / 15

第02話「発酵スキルで、ふかふかの土を作ります」

しおりを挟む
 嘆きの荒野での生活が始まった。まずは拠点となる場所の確保だ。幸いなことに、少し歩き回ると風をしのげる手頃な岩壁のくぼみを見つけることができた。当面はここを寝床にしよう。
 さて、次はいよいよ、この荒れ果てた大地を生き返らせる作業だ。僕は追放されるときに持たされた粗末な袋から、シャベルとクワを取り出した。こんなものを持たせてくれたのは、最後の情けか、それとも嫌がらせか。まあ、どちらでもいい。今は非常に役立つ。
「さて、と。まずは材料集めだな」
 僕はクワを肩に担ぎ、あたりを散策し始めた。目的は、堆肥の材料となる有機物だ。
 見渡す限りの荒野だが、よく見れば枯れ草はいたるところに生えている。僕はそれを手当たり次第に集め、岩壁の前に積み上げていく。それから、周辺に生息しているらしい小動物や魔物のフン。これも貴重な窒素源だ。見つけるたびに、ありがたく頂戴する。
 半日ほど歩き回り、かなりの量の枯れ草とフンが集まった。小高い丘のようになったそれを前に、僕は満足げにうなずく。
『通常なら、これを何度も切り返して、空気を送り込み、微生物が活動しやすい環境を整えて……完成まで数ヶ月はかかるんだよな』
 でも、僕には【万能発酵】がある。
 僕は堆肥の山にそっと手をかざした。そして、スキルを発動させる。
「――【万能発酵】」
 僕の意識が、枯れ草やフンの中に存在する無数の微生物へと伸びていく。好気性菌、嫌気性菌、糸状菌、放線菌……。様々な菌たちの存在を、僕は肌で感じることができた。
『まずは、分解が得意な菌たち、仕事の時間だ!』
 僕が心の中で命じると、手のひらから淡い緑色の光が放たれ、堆肥の山へと吸い込まれていった。
 途端に、奇跡のような光景が目の前で繰り広げられる。
 堆肥の山が、もこもこと内側から動き始めたのだ。まるで生きているかのように脈動し、湯気のようなものが立ち上る。これは、微生物たちが一斉に活動を開始し、有機物を分解する際に発生する発酵熱だ。通常ならゆっくりと進むこのプロセスが、僕のスキルによって数千、数万倍に加速されている。
 枯れ草の硬い繊維がみるみるうちにほぐれ、フンの塊が崩れていく。様々な菌たちがそれぞれの役割を果たし、複雑に絡み合いながら、有機物をより単純な物質へと分解していく。その様子が、僕には手に取るように分かった。
「すごい……まさに生命の営みそのものだ」
 前世では顕微鏡を覗きながら想像するしかなかったミクロの世界が、今、僕の力でダイナミックに動いている。感動で、少しだけ目頭が熱くなった。
 ものの数時間も経っただろうか。堆肥の山の動きが止まり、立ち上っていた湯気も消えた。目の前には、さっきまでのガサガサした枯れ草の山とは似ても似つかない、黒々として、いかにも栄養満点といった感じの土の塊が出来上がっていた。
 僕はためらうことなくその中に手を入れる。ほんのりと温かく、ふかふかとした感触。鼻を近づけると、森の土のような、豊かで芳しい香りがした。未熟な堆肥にありがちなアンモニア臭は一切しない。完璧な、極上の完熟堆肥だ。
「大成功だ!」
 僕は思わずガッツポーズをした。これさえあれば、土壌改良はうまくいったも同然だ。
 僕は早速、拠点近くの地面をクワで耕し始めた。しかし、地面は石ころだらけで、クワの刃が通らない。ガキン、ガキンと硬い音が響くだけだ。
「やっぱり、一筋縄ではいかないか。でも、こういう時こそ君たちの出番だ」
 僕はニヤリと笑うと、再びスキルに意識を集中した。今度のターゲットは、土の中にいる微生物だ。
『岩を分解する力を持つ菌、地衣類や一部の細菌たちよ、目覚めろ!』
 僕は完成したばかりの堆肥を、石ころだらけの地面に薄くまいた。そして、その上から【万能発酵】を発動する。
 すると、堆肥に含まれていた微生物たちが、まるで水を得た魚のように活性化し、周囲の土へと広がっていく。彼らは岩の表面に取り付き、酸を分泌して少しずつその表面を溶かし始めた。気の遠くなるような時間をかけて行われる風化作用が、僕のスキルの前では一瞬の出来事となる。
 ゴツゴツとした岩が、まるで砂の城のようにほろほろと崩れていく。分解された岩のミネラルは、堆肥の有機物と結びつき、土の栄養となる。さらに、微生物たちが出す粘液が土の粒子をつなぎ合わせ、水や空気を保持しやすい「団粒構造」を形成していく。
 地面の色が、乾いた茶色から、しっとりとした黒へと変わっていくのが目に見えて分かった。
「よし……!」
 僕はもう一度クワを振り下ろす。今度は、さっきまでの硬い感触が嘘のように、サクッと刃が深く突き刺さった。
 わずか一日。誰もが見捨てた嘆きの荒野に、生命を育むことのできる小さな畑が誕生した瞬間だった。
 喉がカラカラに乾いていることに気づき、僕は近くの岩陰から染み出しているわずかな湧き水へと向かった。これが、このあたりで唯一の水源らしい。
 ごくごくと水を飲むと、少し鉄臭い味がした。まあ、飲めないことはない。
『この水も、もっと良くできるはずだ』
 僕は水筒に水を汲むと、再びスキルを発動した。今度は、水の中にいる微生物に働きかける。光合成細菌や酵母菌といった、有用な菌だけを選んで増殖させるイメージだ。
 すると、水筒の中の水がわずかに発光し、鉄臭さが消えてまろやかな味に変化した。
「うん、これならいける」
 僕は改良した水を、出来上がったばかりの畑に丁寧にまいた。これで、土の中の微生物たちはさらに元気になるだろう。
 夕日が荒野を茜色に染め始めていた。一日中働きづめだったが、不思議と疲れは感じない。むしろ、充実感で満たされていた。
 僕は自分の手で作り出した、黒々とした土をそっと握りしめる。
 ここから、すべてが始まる。
 前世では叶えられなかった、自分だけの理想の農園。そして、最高の食材作り。
 胸の高鳴りを抑えながら、僕は持ってきた荷物の中から、大切に包んでおいた小さな布袋を取り出した。中には、前世の知識を元に、この世界でなんとか手に入れた数種類の作物の種が入っている。
「さて、記念すべき最初の作物は、何にしようかな」
 僕の独り言は、心地よい風に乗って、生まれ変わった大地へと吸い込まれていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~

Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。 三男。継承権は遠い。期待もされない。 ——最高じゃないか。 「今度こそ、のんびり生きよう」 兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。 静かに暮らすつもりだった。 だが、彼には「構造把握」という能力があった。 物事の問題点が、図解のように見える力。 井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。 作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。 気づけば——領地が勝手に発展していた。 「俺ののんびりライフ、どこ行った……」 これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

追放先の辺境で前世の農業知識を思い出した悪役令嬢、奇跡の果実で大逆転。いつの間にか世界経済の中心になっていました。

緋村ルナ
ファンタジー
「お前のような女は王妃にふさわしくない!」――才色兼備でありながら“冷酷な野心家”のレッテルを貼られ、無能な王太子から婚約破棄されたアメリア。国外追放の末にたどり着いたのは、痩せた土地が広がる辺境の村だった。しかし、そこで彼女が見つけた一つの奇妙な種が、運命を、そして世界を根底から覆す。 前世である農業研究員の知識を武器に、新種の果物「ヴェリーナ」を誕生させたアメリア。それは甘美な味だけでなく、世界経済を揺るがすほどの価値を秘めていた。 これは、一人の追放された令嬢が、たった一つの果実で自らの運命を切り開き、かつて自分を捨てた者たちに痛快なリベンジを果たし、やがて世界の覇権を握るまでの物語。「食」と「経済」で世界を変える、壮大な逆転ファンタジー、開幕!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

騎士団長を追放した平和ボケ王国は、七日で滅びました

藤原遊
ファンタジー
長らく戦のなかった王国で、 騎士団長の父を病で失った令嬢は、その座を引き継いだ。 だが王城に呼び出された彼女に告げられたのは、 騎士団の解体と婚約破棄。 理由はただ一つ―― 「武力を持つ者は危険だから」。 平和ボケした王子は、 非力で可愛い令嬢を侍らせ、 彼女を“国の火種”として国外追放する。 しかし王国が攻められなかった本当の理由は、 騎士団長家が持つ“戦況を覆す力”への恐れだった。 追放された令嬢は、即座に隣国帝国へ迎えられ、 軍人として正当に評価され、安泰な地位を得る。 ――そして一週間後。 守りを捨てた王国は、あっけなく陥落した。 これは、 「守る力」を理解しなかった国の末路と、 追放された騎士団長令嬢のその後の物語。

処理中です...