『冷酷な悪役令嬢』と婚約破棄されましたが、追放先の辺境で領地経営を始めたら、いつの間にか伝説の女領主になっていました。

黒崎隼人

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第十章:名誉の回復、そして独立領主の誕生

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 裁判は、私の完全勝利で幕を閉じた。
 ミレーユは“聖女”の称号を剥奪され、王太子妃殺害未遂、詐欺、国家への背信行為など、数々の罪状により、国境の最果てにある修道院への終身幽閉が言い渡された。彼女の一族もまた、不正に得た財産をすべて没収された上で、王都から追放された。
 そして、アルベルト王太子。彼はミレーユの罪を見抜けず、国政を混乱させた監督責任を問われ、王太子位を剥奪されることこそ免れたものの、今後一年間の謹慎と、王政への関与を厳しく制限されるという、事実上の権力剥奪処分を受けた。彼が再び王国の中心に返り咲くことは、もうないだろう。
 すべての裁定が下された後、国王陛下は私を玉座の前に呼び寄せた。
「クラリス・エルヴェール。そなたには、多大な苦労をかけた。王家として、心から詫びる」
 深く頭を下げる国王陛下に、私は静かに首を横に振った。
「陛下、お顔をお上げください。私は、エルヴェール辺境伯家の娘として、なすべきことをなしたまでです」
「うむ……。そなたの気高さ、そしてその手腕、見事というほかない。追放先のエルヴェール領を、あれほど短期間で立て直した功績は、王国全土に賞賛されておる」
 国王陛下は、高らかに宣言した。
「よって、クラリス・エルヴェールに、新たな称号を与える! これよりエルヴェール領を、王家の干渉を受けない“独立自治領”とし、クラリスをその終身領主と認める!」
 法廷に、どよめきが起こる。独立領主。それは、国王に次ぐほどの強大な権力と、自らの領地を自由に統治する権利を持つ、特別な地位だった。国王が、私の能力を最大限に評価し、与えてくれた最高の栄誉だ。
 さらに、国王はもう一枚の羊皮紙を取り出した。
「そして、これはそなたが最も望むものであろう。アルベルトとの婚姻を、正式に無効とする。これはただの離縁ではない。そなたの今後の人生を縛るいかなる制約も取り払う、“再婚不可の離縁令”の撤回を認めるものだ。そなたは、完全に自由だ」
 通常、王族と離婚した女性は、国の機密保持のため再婚を禁じられる。だが、その軛(くびき)さえも、陛下は取り払ってくれたのだ。
 私は、万感の思いを込めて、深く頭を下げた。
「陛下、そのご温情、生涯忘れません」
 名誉は回復され、私はかつてないほどの力と自由を手に入れた。悪役令嬢と呼ばれた過去は、もはや遠い昔の物語のようだ。
 法廷を後にする私の背中に、かつて向けられたような侮蔑の視線はもうない。そこにあるのは、畏敬と、称賛の眼差しだった。
 だが、私の心は不思議と浮ついてはいなかった。これから始まる、本当の私の人生。この手で掴んだ自由を、私は何のために使うべきか。答えは、もう決まっている。
 私の帰りを待つ、愛すべき領地と民のために。
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