追放悪役令嬢、辺境の荒れ地を楽園に!元夫の求婚?ざまぁ、今更遅いです!

黒崎隼人

文字の大きさ
6 / 17

第5章:魔物の襲撃と皇太子の確信

しおりを挟む
 カイルが農園に居座り始めてから、私の日常は少しだけ騒がしくなった。彼は宣言通り、「カイルという一人の男」として農作業を手伝おうとするのだが、その手つきは相変わらず危なっかしい。鍬の使い方はなっていないし、作物を雑草と間違えて抜きそうになる。私はため息をつきながら、彼に一から農業を教える羽目になった。
「これは苗だ!抜くな!」
「す、すまん……」
「なぜ、あなたがここにいるの……」
 そんな私のぼやきを、彼は聞こえないふりをした。フェンリルはカイルが私に近づくたびに唸り声をあげ、二人の間には常に火花が散っているようだった。
 しかし、そんな奇妙で平和な日々は、突如として破られた。
 原因は、王都で力を増していた魔術師ギルドだった。彼らは「辺境の奇跡の作物」の源泉が、私の持つ神獣の力にあると突き止めた。そして、その力を独占しようと、卑劣な手段に打って出たのだ。
 ある夜、月が雲に隠れ、農園が深い闇に包まれた時だった。
 けたたましい地響きと共に、森の奥からおびただしい数の魔物が姿を現した。ゴブリンの群れ、巨大な猪の姿をしたオーク、空には翼を持つガーゴイル。その目は赤く爛々と輝き、明らかに何者かに操られていた。
「……来たか」
 フェンリルが低い声で呟き、私の前に立ちはだかる。その体は普段よりも大きく見え、神々しい魔力のオーラが立ち上っていた。
「レイナ、小屋の中に!」
 カイルが剣を抜き放ち、叫ぶ。彼の剣捌きはさすが皇太子と言うべきもので、流れるようにゴブリンを数体斬り伏せた。
 しかし、敵の数が多すぎる。次から次へと魔物が農園になだれ込み、丹精込めて育てた作物を踏み荒らしていく。
「私の……畑が……!」
 その光景に、私の心に怒りの炎が灯った。ここは私が生きると決めた場所。誰にも、荒らすことなど許さない。
「フェンリル、行くわよ!」
「応!」
 私が叫ぶと、フェンリルは雄叫びを上げた。その声は聖域全体に響き渡り、魔物たちの動きを鈍らせる。私は鍬を固く握りしめた。これはただの農具ではない。この聖域においては、私の意思を伝える杖でもある。
「この土地から、出ていきなさい!」
 地面に鍬を突き立てると、私の魔力が大地を伝わり、無数の蔓や木の根が生き物のように伸びて、魔物たちに絡みついていく。
 天と地で、壮絶な戦いが始まった。空ではフェンリルがガーゴイルをその爪で引き裂き、地上ではカイルが剣で道を切り拓き、私が聖域の力で魔物の群れを食い止める。
 だが、敵の猛攻は止まらない。一体の巨大なオークが、カイルの死角から襲いかかった。
「危ない!」
 私が叫んだ時にはもう遅い。そう思った瞬間、カイルは驚くべき反射神経で身を翻し、オークの棍棒を剣で受け止めた。しかし、その衝撃で体勢を崩してしまう。
「カイル!」
 私は咄嗟に彼の前に駆け寄り、両手を広げた。――守らなければ。
 その時、私の中から温かい光が溢れ出し、目に見えない障壁となってオークの追撃を防いだ。
「なっ……!?」
 驚くカイル。私自身も、自分の中にこんな力が眠っていたことに驚いていた。
 戦いは夜明け前にようやく終わりを告げた。操られていた魔物たちは、主を失ったかのように森の奥へと退いていき、農園には静寂が戻った。畑は一部が荒らされてしまったが、壊滅的な被害は免れた。
 夜が明けた農園で、私たちは息を切らしながら互いの無事を確認した。
 カイルは、傷だらけになりながらも、畏敬の念のこもった瞳で私とフェンリルを見ていた。彼は魔物の襲撃を前に、私がただ守られるだけの存在ではないことを、そして私の持つ力が、単なる農業の範疇を遥かに超えていることを、その身をもって知ったのだ。
「レイナ……君のその力は……」
 彼は警戒するように呟いた。その力は、使い方を間違えれば、王国にとって計り知れない脅威となる。
 しかし、彼の瞳の奥には、警戒だけではない、別の光が宿っていた。
「……いや、違う」
 彼は首を振った。
「その力こそが、この王国を……魔物との終わらない争いから救う、鍵になるのかもしれない」
 カイルは、私の持つ力の本当の価値に気づき始めていた。そして、それは彼自身が皇太子として成すべきことへの、新たな決意を固めさせるきっかけとなったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!

向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。 土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。 とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。 こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。 土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど! 一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~

夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」 婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。 「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」 オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。 傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。 オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。 国は困ることになるだろう。 だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。 警告を無視して、オフェリアを国外追放した。 国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。 ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。 一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。

婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?

向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。 というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。 私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。 だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。 戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

婚約破棄されたので聖獣育てて田舎に帰ったら、なぜか世界の中心になっていました

かしおり
恋愛
「アメリア・ヴァルディア。君との婚約は、ここで破棄する」 王太子ロウェルの冷酷な言葉と共に、彼は“平民出身の聖女”ノエルの手を取った。 だが侯爵令嬢アメリアは、悲しむどころか—— 「では、実家に帰らせていただきますね」 そう言い残し、静かにその場を後にした。 向かった先は、聖獣たちが棲まう辺境の地。 かつて彼女が命を救った聖獣“ヴィル”が待つ、誰も知らぬ聖域だった。 魔物の侵攻、暴走する偽聖女、崩壊寸前の王都—— そして頼る者すらいなくなった王太子が頭を垂れたとき、 アメリアは静かに告げる。 「もう遅いわ。今さら後悔しても……ヴィルが許してくれないもの」 聖獣たちと共に、新たな居場所で幸せに生きようとする彼女に、 世界の運命すら引き寄せられていく—— ざまぁもふもふ癒し満載! 婚約破棄から始まる、爽快&優しい異世界スローライフファンタジー!

悪役令嬢扱いで国外追放?なら辺境で自由に生きます

タマ マコト
ファンタジー
王太子の婚約者として正しさを求め続けた侯爵令嬢セラフィナ・アルヴェインは、 妹と王太子の“真実の愛”を妨げた悪役令嬢として国外追放される。 家族にも見捨てられ、たった一人の侍女アイリスと共に辿り着いたのは、 何もなく、誰にも期待されない北方辺境。 そこで彼女は初めて、役割でも評価でもない「自分の人生」を生き直す決意をする。

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~

綾雅(りょうが)今年は7冊!
ファンタジー
 婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!  ――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。 「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」  すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。  婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。  最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2022/02/14  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2022/02/13  小説家になろう ハイファンタジー日間59位 ※2022/02/12  完結 ※2021/10/18  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2021/10/19  アルファポリス、HOT 4位 ※2021/10/21  小説家になろう ハイファンタジー日間 17位

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

処理中です...