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第9章:新たな関係、夫婦ではない特別な絆
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辺境が「聖域の自治領」となってから、私たちの生活は新たな局面を迎えた。私は名実ともにこの土地の領主となり、村の運営や、移住を希望する人々の受け入れ、そして魔物との共存ルール作りといった仕事に追われるようになった。
驚くべきことに、聖域の結界内では、一部の知性ある魔物たちが、人間との対話を望むようになったのだ。彼らと話し合い、互いの縄張りを尊重し、時には協力し合う。それは、この国の誰もが成し遂げえなかった偉業だった。
そして、そんな私の隣には、いつもカイルがいた。
彼は王都に戻ることをせず、自治領の「相談役」という、何とも都合のいい肩書きを自称してここに留まった。しかし、彼の政治的手腕や知識は本物で、領主としては新米の私にとって、彼の助言は非常に大きな助けとなった。
彼はもはや、不器用な農作業を手伝うだけの男ではなかった。私が立てた共存政策の草案を法的な観点から修正してくれたり、王都との折衝役を担ってくれたり、時には押し寄せる移民たちの対応で混乱する役場を、見事なリーダーシップでまとめあげたりした。
私たちは、いつしか「離婚した元夫婦」という過去を忘れ、国の未来を共に創る「対等なパートナー」となっていた。
「レイナ、この移住計画だが、食料の備蓄量を考えると、一度に受け入れる人数を絞った方がいい」
「でも、外で苦しんでいる人たちを見捨てるわけにはいかないわ」
「分かっている。だから、周辺の森で採取可能な食料リストと、短期的に収穫できる作物の栽培計画を立てた。これなら、あと五十人は受け入れ可能だ」
執務室でのそんなやり取りが、私たちの日常になった。互いに意見をぶつけ合い、より良い解決策を探す。それは、皇太子妃時代には決してなかった、充実した時間だった。
そんなある月の綺麗な夜。仕事を終え、二人で丘の上に立ち、結界に守られた穏やかな領地の夜景を眺めていた時のことだった。
「……レイナ」
カイルが、不意に私の名前を呼んだ。
「君とこうしていると、まるで夫婦のようだなと思うことがある」
その言葉に、私は少しだけ心臓が跳ねたのを感じた。
「私たちは、もう夫婦ではないわ」
「分かっている。だが……」
彼は私のほうに向き直り、真剣な瞳で私を見つめた。
「もう一度、やり直せないだろうか。私は……君と、復縁したい。今度こそ、君を隣で支え、共に生きていきたいんだ。夫として」
彼の告白は、まっすぐで、誠実だった。かつて私を庇って矢を受けた時のように、彼の本心からの言葉だと分かった。
昔の私なら、泣いて喜んだかもしれない。
でも、今の私は違った。
私は、彼の言葉に静かに首を振り、そして、ふわりと微笑んだ。
「カイル。あなたの気持ちは嬉しいわ。ありがとう。……でも、私は、今の関係が一番好きよ」
「……レイナ?」
「私たちは、夫婦ではないわ。でも、誰よりもお互いを理解し、信頼し合えるパートナーでしょう?時には喧嘩もするけれど、同じ未来を目指して、隣で支え合っている。私は、この『特別な絆』が、とても大切で、心地いいの」
復縁してしまえば、また「皇太子妃」という役割が生まれる。王国のしがらみに囚われる。でも、今の私たちは自由で、対等だ。
離婚したからこそ、手に入った、この唯一無二の関係。
私の答えを聞いたカイルは、一瞬、寂しそうな顔をした。しかし、すぐに彼は諦めたように、そしてどこか安堵したように、苦笑いを浮かべた。
「……そうか。君らしい答えだ。分かった。なら、これからも君の『最高のパートナー』でいさせてもらうよ」
彼はそう言って、私の隣に再び並んだ。
私たちは、夫婦には戻らない。それでも、私たちの間には、どんな夫婦よりも強く、そして確かな絆が結ばれていた。月明かりの下、二つの影は静かに寄り添い、同じ未来を見つめていた。
驚くべきことに、聖域の結界内では、一部の知性ある魔物たちが、人間との対話を望むようになったのだ。彼らと話し合い、互いの縄張りを尊重し、時には協力し合う。それは、この国の誰もが成し遂げえなかった偉業だった。
そして、そんな私の隣には、いつもカイルがいた。
彼は王都に戻ることをせず、自治領の「相談役」という、何とも都合のいい肩書きを自称してここに留まった。しかし、彼の政治的手腕や知識は本物で、領主としては新米の私にとって、彼の助言は非常に大きな助けとなった。
彼はもはや、不器用な農作業を手伝うだけの男ではなかった。私が立てた共存政策の草案を法的な観点から修正してくれたり、王都との折衝役を担ってくれたり、時には押し寄せる移民たちの対応で混乱する役場を、見事なリーダーシップでまとめあげたりした。
私たちは、いつしか「離婚した元夫婦」という過去を忘れ、国の未来を共に創る「対等なパートナー」となっていた。
「レイナ、この移住計画だが、食料の備蓄量を考えると、一度に受け入れる人数を絞った方がいい」
「でも、外で苦しんでいる人たちを見捨てるわけにはいかないわ」
「分かっている。だから、周辺の森で採取可能な食料リストと、短期的に収穫できる作物の栽培計画を立てた。これなら、あと五十人は受け入れ可能だ」
執務室でのそんなやり取りが、私たちの日常になった。互いに意見をぶつけ合い、より良い解決策を探す。それは、皇太子妃時代には決してなかった、充実した時間だった。
そんなある月の綺麗な夜。仕事を終え、二人で丘の上に立ち、結界に守られた穏やかな領地の夜景を眺めていた時のことだった。
「……レイナ」
カイルが、不意に私の名前を呼んだ。
「君とこうしていると、まるで夫婦のようだなと思うことがある」
その言葉に、私は少しだけ心臓が跳ねたのを感じた。
「私たちは、もう夫婦ではないわ」
「分かっている。だが……」
彼は私のほうに向き直り、真剣な瞳で私を見つめた。
「もう一度、やり直せないだろうか。私は……君と、復縁したい。今度こそ、君を隣で支え、共に生きていきたいんだ。夫として」
彼の告白は、まっすぐで、誠実だった。かつて私を庇って矢を受けた時のように、彼の本心からの言葉だと分かった。
昔の私なら、泣いて喜んだかもしれない。
でも、今の私は違った。
私は、彼の言葉に静かに首を振り、そして、ふわりと微笑んだ。
「カイル。あなたの気持ちは嬉しいわ。ありがとう。……でも、私は、今の関係が一番好きよ」
「……レイナ?」
「私たちは、夫婦ではないわ。でも、誰よりもお互いを理解し、信頼し合えるパートナーでしょう?時には喧嘩もするけれど、同じ未来を目指して、隣で支え合っている。私は、この『特別な絆』が、とても大切で、心地いいの」
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私の答えを聞いたカイルは、一瞬、寂しそうな顔をした。しかし、すぐに彼は諦めたように、そしてどこか安堵したように、苦笑いを浮かべた。
「……そうか。君らしい答えだ。分かった。なら、これからも君の『最高のパートナー』でいさせてもらうよ」
彼はそう言って、私の隣に再び並んだ。
私たちは、夫婦には戻らない。それでも、私たちの間には、どんな夫婦よりも強く、そして確かな絆が結ばれていた。月明かりの下、二つの影は静かに寄り添い、同じ未来を見つめていた。
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