11 / 17
第10章:王国の変革、聖域の女領主
しおりを挟む
私が領主となった辺境の自治領は、王国における「希望の地」として、その名を急速に広めていった。
聖域の結界に守られた土地では、魔力に満ちた作物が豊富に実り、食糧難とは無縁だった。さらに、人間と魔物が争うことなく共存するという信じがたい事実が、王都の学者や心ある貴族たちの注目を集めた。
私の農業技術――前世の知識にフェンリルの加護を組み合わせた独自の農法――は、カイルの尽力によって体系化され、王国の食糧難に苦しむ他の地域にも応用され始めた。もちろん、聖域ほどの奇跡は起こらないが、土壌改良や効率的な栽培計画は、各地の生産量を着実に向上させた。
王国の方針は、大きく変わろうとしていた。
長年続いてきた「魔物との戦争」一辺倒の政策から、「共存の可能性を探る」という新たな道へ。その転換を主導したのは、言うまでもなく皇太子カイルだった。
彼は辺境の成功例を盾に、王城で頑固な貴族たちを粘り強く説得した。
「見ろ、これが辺境の現実だ!魔物はただ討伐すべき敵ではない。彼らにも意思があり、掟がある。我々が彼らの領域を尊重すれば、無用な争いは避けられるのだ!」
彼の言葉は、宰相ゲルハルトの失脚で揺れていた貴族社会に、新たな価値観をもたらした。ゲルハルトに連なる好戦的な派閥は力を失い、カイルを中心とする穏健派が王国の実権を握りつつあったのだ。
辺境は、そんな新しい時代を象徴する場所となった。
豊かな土地と平和を求め、王国中から多くの移民がやってきた。職を失った者、戦争で家族を亡くした者、新しい生き方を模索する者。私は彼らを受け入れ、それぞれに適した仕事を与え、自治領は日に日に活気を増していった。
かつては「呪われた土地」と蔑まれた辺境が、今や王国で最も豊かで平和な土地へと変わり果てたのだ。
そして、私に対する人々の評価も、百八十度変わっていた。
王都から追放された「悪役令嬢」。傲慢でわがままな女の末路だと、誰もが嘲笑っていた。
しかし今、人々は私のことを、畏敬の念を込めてこう呼んだ。
「聖域の女領主」
「奇跡の地を治める賢君」
彼らは、私が自らの手で運命を切り拓き、荒れ地を楽園に変えたことを知っていた。そして、その強さと優しさを心から尊敬してくれていた。
ある日、領地の視察を終えて館に戻ると、カイルが王都から届いた一通の手紙を手に、複雑な顔で待っていた。
「レイナ、君の……実家からだ。ヴァインベルク公爵から」
手紙には、かつて私を見捨てた父からの、和解を望む言葉と、私の功績を讃える言葉が綴られていた。
「……どう思う?」
カイルが私の反応を窺うように尋ねる。
私は手紙を一読すると、静かに暖炉の火にくべた。
「もう、終わったことよ」
私には、ヴァインベルク公爵令嬢でも、皇太子妃でもない、新しい名前と居場所がある。過去に囚われるつもりはなかった。
その様子を見て、カイルは安心したように微笑んだ。
「そうだな。君はもう、誰のものでもない。君は君だ」
彼のその言葉が、人々が与えてくれたどんな称号よりも、私にとっては誇らしかった。悪役令嬢と呼ばれた私が、ようやく手に入れた、本当の自分。その実感に、私の胸は温かい満足感で満たされていた。
聖域の結界に守られた土地では、魔力に満ちた作物が豊富に実り、食糧難とは無縁だった。さらに、人間と魔物が争うことなく共存するという信じがたい事実が、王都の学者や心ある貴族たちの注目を集めた。
私の農業技術――前世の知識にフェンリルの加護を組み合わせた独自の農法――は、カイルの尽力によって体系化され、王国の食糧難に苦しむ他の地域にも応用され始めた。もちろん、聖域ほどの奇跡は起こらないが、土壌改良や効率的な栽培計画は、各地の生産量を着実に向上させた。
王国の方針は、大きく変わろうとしていた。
長年続いてきた「魔物との戦争」一辺倒の政策から、「共存の可能性を探る」という新たな道へ。その転換を主導したのは、言うまでもなく皇太子カイルだった。
彼は辺境の成功例を盾に、王城で頑固な貴族たちを粘り強く説得した。
「見ろ、これが辺境の現実だ!魔物はただ討伐すべき敵ではない。彼らにも意思があり、掟がある。我々が彼らの領域を尊重すれば、無用な争いは避けられるのだ!」
彼の言葉は、宰相ゲルハルトの失脚で揺れていた貴族社会に、新たな価値観をもたらした。ゲルハルトに連なる好戦的な派閥は力を失い、カイルを中心とする穏健派が王国の実権を握りつつあったのだ。
辺境は、そんな新しい時代を象徴する場所となった。
豊かな土地と平和を求め、王国中から多くの移民がやってきた。職を失った者、戦争で家族を亡くした者、新しい生き方を模索する者。私は彼らを受け入れ、それぞれに適した仕事を与え、自治領は日に日に活気を増していった。
かつては「呪われた土地」と蔑まれた辺境が、今や王国で最も豊かで平和な土地へと変わり果てたのだ。
そして、私に対する人々の評価も、百八十度変わっていた。
王都から追放された「悪役令嬢」。傲慢でわがままな女の末路だと、誰もが嘲笑っていた。
しかし今、人々は私のことを、畏敬の念を込めてこう呼んだ。
「聖域の女領主」
「奇跡の地を治める賢君」
彼らは、私が自らの手で運命を切り拓き、荒れ地を楽園に変えたことを知っていた。そして、その強さと優しさを心から尊敬してくれていた。
ある日、領地の視察を終えて館に戻ると、カイルが王都から届いた一通の手紙を手に、複雑な顔で待っていた。
「レイナ、君の……実家からだ。ヴァインベルク公爵から」
手紙には、かつて私を見捨てた父からの、和解を望む言葉と、私の功績を讃える言葉が綴られていた。
「……どう思う?」
カイルが私の反応を窺うように尋ねる。
私は手紙を一読すると、静かに暖炉の火にくべた。
「もう、終わったことよ」
私には、ヴァインベルク公爵令嬢でも、皇太子妃でもない、新しい名前と居場所がある。過去に囚われるつもりはなかった。
その様子を見て、カイルは安心したように微笑んだ。
「そうだな。君はもう、誰のものでもない。君は君だ」
彼のその言葉が、人々が与えてくれたどんな称号よりも、私にとっては誇らしかった。悪役令嬢と呼ばれた私が、ようやく手に入れた、本当の自分。その実感に、私の胸は温かい満足感で満たされていた。
35
あなたにおすすめの小説
大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!
向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。
土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。
とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。
こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。
土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど!
一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~
夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」
婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。
「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」
オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。
傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。
オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。
国は困ることになるだろう。
だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。
警告を無視して、オフェリアを国外追放した。
国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。
ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。
一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。
婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?
向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。
というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。
私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。
だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。
戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
婚約破棄されたので聖獣育てて田舎に帰ったら、なぜか世界の中心になっていました
かしおり
恋愛
「アメリア・ヴァルディア。君との婚約は、ここで破棄する」
王太子ロウェルの冷酷な言葉と共に、彼は“平民出身の聖女”ノエルの手を取った。
だが侯爵令嬢アメリアは、悲しむどころか——
「では、実家に帰らせていただきますね」
そう言い残し、静かにその場を後にした。
向かった先は、聖獣たちが棲まう辺境の地。
かつて彼女が命を救った聖獣“ヴィル”が待つ、誰も知らぬ聖域だった。
魔物の侵攻、暴走する偽聖女、崩壊寸前の王都——
そして頼る者すらいなくなった王太子が頭を垂れたとき、
アメリアは静かに告げる。
「もう遅いわ。今さら後悔しても……ヴィルが許してくれないもの」
聖獣たちと共に、新たな居場所で幸せに生きようとする彼女に、
世界の運命すら引き寄せられていく——
ざまぁもふもふ癒し満載!
婚約破棄から始まる、爽快&優しい異世界スローライフファンタジー!
悪役令嬢扱いで国外追放?なら辺境で自由に生きます
タマ マコト
ファンタジー
王太子の婚約者として正しさを求め続けた侯爵令嬢セラフィナ・アルヴェインは、
妹と王太子の“真実の愛”を妨げた悪役令嬢として国外追放される。
家族にも見捨てられ、たった一人の侍女アイリスと共に辿り着いたのは、
何もなく、誰にも期待されない北方辺境。
そこで彼女は初めて、役割でも評価でもない「自分の人生」を生き直す決意をする。
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(りょうが)今年は7冊!
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる