過労死した俺、異世界で最強農業チートに目覚める。神農具で荒野を楽園に変えたら、エルフや獣人が集まって最高の国ができました

黒崎隼人

文字の大きさ
2 / 13

第1話「転生先はド級の荒野。女神様、チート農具は嬉しいけど、まず水と食料を下さい!」

しおりを挟む
「う……」

 意識が戻ってくる。

 瞼に感じるのは、やけに眩しい光。そして、全身を撫でる乾いた風。

 昨日は確か、締切三日前のデスマーチで、会社の床で……あれ?

 俺、相川大地、二十八歳。しがないゲームグラフィッカー。連日の徹夜作業で意識が途切れたところまでは覚えている。

「……天井じゃなくて、空?」

 ゆっくりと目を開けると、そこに広がっていたのは、雲一つない真っ青な空だった。

 体を起こす。ざらりとした砂のような感触。見渡す限り、赤茶けた大地と、ところどころに転がる岩。植物らしいものは、枯れ草がわずかに見えるだけ。

 要するに、荒野だ。見渡す限りの、ド級の荒野。

「は? どこだよここ……っていうか、俺の体……」

 自分の手を見下ろして、さらに驚いた。昨日までカフェインと疲労でむくんでいたはずの手が、すっきりと健康的な色艶を取り戻している。服装も、よれよれのTシャツとジーンズではなく、麻でできたような簡素な貫頭衣とズボンに変わっていた。

 何が何だか分からない。パニックになりかけた俺の頭の中に、唐突に声が響いた。

『――こんにちは、地球の魂よ』

 透き通るような、それでいてどこかおっとりとした女性の声。

「だ、誰だ!?」

『わたくしはセレスティア。この世界で豊穣を司る女神です』

 女神? なんだその、ラノベみたいな展開は。

 混乱する俺をよそに、声は呑気に続ける。

『単刀直入に申し上げますと、あなた、過労で死んでしまいました』

「……マジか」

 まあ、薄々そんな気はしていた。あの働き方で、いつまでもつか自分でも分からなかったし。

『あなたの魂は、その勤勉さと、植物を愛でる優しい心根から、わたくしの世界に招かれたのです。どうか、あなたの力で、この荒れ果てた大地を、かつての緑豊かな姿に戻してはもらえないでしょうか?』

「いや、無茶言わないでください。俺、ゲームの背景で森を描くのは得意ですけど、リアルで森を作るなんて……」

『ふふふ、もちろん、手ぶらでお願いするわけではありません。あなたに、わたくしの力を込めた三つの神器を授けましょう』

 その言葉と共に、俺の目の前に、ぽん、ぽん、ぽんと光が現れ、実体化した。

 一つは、柄の長い頑丈そうなクワ。

 一つは、刃が鈍い銀色に輝くカマ。

 そしてもう一つは、土を掘り起こすためのスキ。

 見慣れた農具だが、どれも不思議な神々しいオーラを放っている。

『左から順に、『開墾のクワ』『豊穣のカマ』『潤水のスキ』です』

 女神の説明が頭に流れ込んでくる。

『開墾のクワ』は、どんな荒れ地も一振りで極上の畑に変える。土壌の栄養バランスを最適化し、害虫や雑草の発生も防ぐらしい。

『豊穣のカマ』は、作物の成長を自由自在に操れる。種をまいた直後に使えば、数秒で収穫期まで成長させることも可能だとか。

 そして『潤水のスキ』は、地面に突き立てれば自動で水脈を探し当て、最適な形で畑に水を引く灌漑設備を構築してくれるという。

「……え、これ、チートすぎません?」

 思わず心の声が漏れた。これさえあれば、どんな場所でも農業やり放題じゃないか。

『それこそが、わたくしの狙いです。さあ、相川大地さん。あなたの第二の人生、この世界で始めてみてください。目指すは、すべての民が飢えることのない、緑豊かな楽園です!』

「いや、スケールでかすぎ!」

 俺のツッコミも虚しく、女神の声はそれきり聞こえなくなった。

 後に残されたのは、俺と、三本の神農具、そしてどこまでも続く荒野だけ。

「……はあ」

 とりあえず、状況を受け入れるしかないらしい。

 俺は死んで、異世界に転生した。そして、この何もない場所で農業をしろ、と。

「まずは……水と食料だよな」

 喉がカラカラだ。幸い、太陽はまだ真上にはない。今のうちに行動しないと、干からびてまた死ぬ。

 俺は三つの農具の中から、『潤水のスキ』を手に取った。ずっしりと重いが、不思議と手に馴染む。

「水脈を探し当てる……だったな」

 半信半疑のまま、目の前の乾いた地面にスキの先端を突き立てる。

 すると、どうだ。

 スキがぶるぶると震えだし、まるで生き物のように地面の中へぐいぐいと潜っていく。そして数秒後、確かな手応えと共に動きを止めた。

 次の瞬間、奇跡が起きた。

 俺がスキを突き立てた場所から、こんこんと清らかな水が湧き出し始めたのだ。水はあっという間に小さな泉を作り、さらさらと音を立てて流れ始めた。

「うおっ、マジかよ……!」

 慌てて駆け寄り、両手で水をすくって口に含む。冷たくて、ほんのり甘みさえ感じる、最高の味だった。

 生き返る心地がする。これなら、とりあえず喉の渇きは凌げる。

 次は食料だ。

 幸運なことに、俺が着ていた服のポケットに、いくつか小さな種の入った袋が入っていた。女神様からのサービスだろうか。中身はカブやジャガイモっぽい。

 俺は泉の近くの地面に、『開墾のクワ』を振り下ろした。

 ガツン、と硬い感触を想像していたのに、クワはまるで豆腐を切るかのように、すっと大地に入っていく。そして、一振りしただけで、周囲五メートル四方が、ふかふかの黒土に変わってしまった。石ころ一つない、完璧な畑だ。

「はは……笑うしかないな、これ」

 乾いた笑いを漏らしながら、俺はポケットの種をぱらぱらと蒔いた。

 そして仕上げに、『豊穣のカマ』を畑の上で軽く一振り。

 カマから放たれた柔らかな緑色の光が、畑全体を包み込む。

 すると、信じられない光景が目の前で繰り広げられた。

 種を蒔いた場所から、にょきにょきと芽が出て、ぐんぐん伸びていく。葉が茂り、あっという間に立派なカブとジャガイモが、土の上から顔を覗かせた。

 あまりの出来事に、俺はしばらく呆然と立ち尽くしていた。

 ゲームの世界じゃない。これが、俺の新しい現実。

 腹が、ぐぅっと鳴った。

 俺は土からカブを一つ引き抜き、泉の水で泥を洗い落とす。そして、思いっきりかじりついた。

 シャクっとした歯ごたえと共に、みずみずしい甘さが口いっぱいに広がる。

「……うまい」

 涙が出そうなくらい、うまかった。

 こうして、俺の異世界農業ライフは、たった一人、荒野の真ん中で幕を開けた。

 途方もない使命を背負わされた気もするけど、まあ、なんとかなるだろう。

 だって、こんなに美味いものが食えるんだから。ブラック企業より、よっぽどマシだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放悪役令嬢、辺境の荒れ地を楽園に!元夫の求婚?ざまぁ、今更遅いです!

黒崎隼人
ファンタジー
皇太子カイルから「政治的理由」で離婚を宣告され、辺境へ追放された悪役令嬢レイナ。しかし彼女は、前世の農業知識と、偶然出会った神獣フェンリルの力を得て、荒れ地を豊かな楽園へと変えていく。 そんな彼女の元に現れたのは、離婚したはずの元夫。「離婚は君を守るためだった」と告白し、復縁を迫るカイルだが、レイナの答えは「ノー」。 「離婚したからこそ、本当の幸せが見つかった」 これは、悪女のレッテルを貼られた令嬢が、自らの手で未来を切り拓き、元夫と「夫婦ではない」最高のパートナーシップを築く、成り上がりと新しい絆の物語。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

追放された悪役令嬢、農業チートと“もふもふ”で国を救い、いつの間にか騎士団長と宰相に溺愛されていました

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢のエリナは、婚約者である第一王子から「とんでもない悪役令嬢だ!」と罵られ、婚約破棄されてしまう。しかも、見知らぬ辺境の地に追放されることに。 絶望の淵に立たされたエリナだったが、彼女には誰にも知られていない秘密のスキルがあった。それは、植物を育て、その成長を何倍にも加速させる規格外の「農業チート」! 畑を耕し、作物を育て始めたエリナの周りには、なぜか不思議な生き物たちが集まってきて……。もふもふな魔物たちに囲まれ、マイペースに農業に勤しむエリナ。 はじめは彼女を蔑んでいた辺境の人々も、彼女が作る美味しくて不思議な作物に魅了されていく。そして、彼女を追放したはずの元婚約者や、彼女の力を狙う者たちも現れて……。 これは、追放された悪役令嬢が、農業の力と少しのもふもふに助けられ、世界の常識をひっくり返していく、痛快でハートフルな成り上がりストーリー!

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

離婚と追放された悪役令嬢ですが、前世の農業知識で辺境の村を大改革!気づいた元夫が後悔の涙を流しても、隣国の王子様と幸せになります

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢リセラは、夫である王子ルドルフから突然の離婚を宣告される。理由は、異世界から現れた聖女セリーナへの愛。前世が農業大学の学生だった記憶を持つリセラは、ゲームのシナリオ通り悪役令嬢として処刑される運命を回避し、慰謝料として手に入れた辺境の荒れ地で第二の人生をスタートさせる! 前世の知識を活かした農業改革で、貧しい村はみるみる豊かに。美味しい作物と加工品は評判を呼び、やがて隣国の知的な王子アレクサンダーの目にも留まる。 「君の作る未来を、そばで見ていたい」――穏やかで誠実な彼に惹かれていくリセラ。 一方、リセラを捨てた元夫は彼女の成功を耳にし、後悔の念に駆られ始めるが……? これは、捨てられた悪役令嬢が、農業で華麗に成り上がり、真実の愛と幸せを掴む、痛快サクセス・ラブストーリー!

追放された悪役令嬢、規格外魔力でもふもふ聖獣を手懐け隣国の王子に溺愛される

黒崎隼人
ファンタジー
「ようやく、この息苦しい生活から解放される!」 無実の罪で婚約破棄され、国外追放を言い渡された公爵令嬢エレオノーラ。しかし彼女は、悲しむどころか心の中で歓喜の声をあげていた。完璧な淑女の仮面の下に隠していたのは、国一番と謳われた祖母譲りの規格外な魔力。追放先の「魔の森」で力を解放した彼女の周りには、伝説の聖獣グリフォンをはじめ、可愛いもふもふ達が次々と集まってきて……!? 自由気ままなスローライフを満喫する元悪役令嬢と、彼女のありのままの姿に惹かれた「氷の王子」。二人の出会いが、やがて二つの国の運命を大きく動かすことになる。 窮屈な世界から解き放たれた少女が、本当の自分と最高の幸せを見つける、溺愛と逆転の異世界ファンタジー、ここに開幕!

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。

黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!

処理中です...