追放された植物魔法使いは、荒野で最強の農家になる ~規格外の野菜を作っていたら、伝説のドラゴンが番犬になり、実家が没落していった件~

黒崎隼人

文字の大きさ
4 / 16

第3話「多角化経営とトマトの誘惑」

しおりを挟む
 荒野での生活が一週間ほど経過した。
 俺の農園――勝手に「カイ農園」と名付けた――は、驚くべきスピードで進化を遂げていた。
 小屋の周りには、青々とした畑が広がり、様々な作物が実をつけている。
 魔力ポテト、クリスタル・メロンに加え、新しく仲間入りしたのが「ファイア・ペッパー」と「シルク・スピナッチ」だ。
 ファイア・ペッパーは、食べると体が内側から発熱し、極寒の夜でも毛布要らずになる優れもの。
 シルク・スピナッチは、葉の繊維が絹のように強靭で、編めば丈夫な布やロープになる。
 衣食住の全てを植物で賄う。
 それが俺の目指す自給自足スタイルだ。
「さて、今日のメインイベントはこいつだ」
 俺は掌に乗せた真っ赤な種を見つめた。
 トマトだ。
 前世で一番好きだった野菜であり、栽培が難しい野菜の一つでもある。
 この荒野で作るには、日光の強さは十分だが、温度管理と水やりが繊細になる。
 だが、俺が目指すのはただのトマトじゃない。
 疲労回復効果と、魔力増強効果を極限まで高めた「魔蜜トマト」。
 別名「食べるポーション」。
 これを完成させれば、作業効率はさらに上がるはずだ。
 俺は特別に配合した土――魔力ポテトの皮と枯れ葉を混ぜて発酵させた堆肥入り――を盛った畝に、種を植えた。
「品種改良・糖度極大化・魔力充填」
 イメージするのは、ルビーのような輝きと、蜂蜜のような濃厚な甘さ。
 そして、食べた瞬間に細胞が活性化するような爆発的なエネルギー。
 俺の魔力が土を通して種に流れ込む。
 今までで一番手応えがある。
 種がドクン、と大きく脈打った。
 芽が出る。
 茎が太くなり、葉が茂り、黄色い花が咲き乱れる。
 そして、たわわに実った果実が、緑から赤へと色を変えていく。
 その赤は、ただの赤ではない。
 内側から光を放っているかのような、深紅の輝きだ。
 周囲に甘く濃厚な香りが漂い始める。
 それは花の香りのようでもあり、極上のスイーツのようでもある。
「できた……!」
 俺は震える手で、一番赤く熟した実をもぎ取った。
 ずしりと重い。
 皮はパンと張り詰め、今にも弾けそうだ。
 そっと口に運ぶ。
 歯を立てた瞬間、口の中で爆発が起きた。
 ジュワッと溢れ出す果汁。
 酸味はほとんどなく、濃厚な甘みが脳髄を直撃する。
「んんっ……!」
 思わず声が漏れる。
 うまい。
 前世で食べたどんな高級フルーツよりも甘く、それでいて後味は爽やかだ。
 そして、飲み込んだ直後、体がカッと熱くなった。
 指先まで力がみなぎり、視界が一段と明るくなる。
 疲れが一瞬で吹き飛び、まるで一晩ぐっすり眠った後のような爽快感。
「これは……危険だな」
 中毒性があるレベルの美味さと効果だ。
 これを市場に出したら、間違いなく戦争が起きる。
 俺は自分だけで楽しむことを心に誓った。
 それにしても、このトマト、一つ食べただけで魔力が溢れ出して止まらない。
 余剰な魔力が体から漏れ出し、周囲の空間に漂っていくのが見えるようだ。
「ん?」
 ふと、畑の隅に目をやる。
 そこには、何も植えていないはずの荒地があった。
 だが、そこには小さな白い花が咲いていた。
「野草……?」
 この死の荒野には、雑草すら生えないはずだ。
 俺は近づいて観察する。
 どうやら、俺の作物から漏れ出した魔力が土壌を浄化し、眠っていた種を目覚めさせたらしい。
 俺の農園を中心にして、死んでいた土地が蘇りつつあるのだ。
「すごいな、植物の力は」
 俺は感動しながら、その小さな花に水をやった。
 俺一人の力は微々たるものだが、植物たちが連鎖的に環境を変えていく。
 いずれ、この荒野全体が緑の大地になる日も来るかもしれない。
 そんな壮大な夢を描き始めた時だった。
 ザワッ。
 背筋に冷たいものが走った。
 風が変わった。
 それまでの乾燥した風ではなく、生温かく、そして獣の臭いを含んだ風が吹き下ろしてきた。
 空が急に暗くなる。
 雲が出たわけではない。
 巨大な何かが、太陽を遮ったのだ。
 俺はゆっくりと空を見上げた。
 そこには、あり得ない光景があった。
 巨大な翼。
 鋼鉄のような黒銀の鱗。
 剣山のように並ぶ牙。
 そして、燃えるような金色の瞳。
 ドラゴンだ。
 しかも、ただのドラゴンではない。
 図鑑でしか見たことのない、伝説級の「天災」。
 エンシェント・ドラゴンが、俺の畑の真上に浮かんでいた。
 その巨大な体躯から放たれるプレッシャーだけで、呼吸が止まりそうになる。
『……好イ匂イガ、スル』
 頭の中に直接響くような、重低音の声。
 ドラゴンの視線が、俺の手にある食べかけのトマトに釘付けになっていた。
「……え?」
『ソレヲ、寄越セ。人間』
 圧倒的な捕食者の要求。
 俺の平穏な農家ライフに、最大級の危機が訪れた瞬間だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放されたので辺境でスローライフしてたら、いつの間にか世界最強の無自覚賢者になっていて元婚約者たちが土下座してきた件

にゃ-さん
ファンタジー
王都で「無能」と蔑まれ、婚約破棄と追放を言い渡された青年リオン。 唯一の取り柄は、古代語でびっしり書かれたボロ本を黙々と読み続けることだけ。 辺境で静かに暮らすはずが、その本が実は「失われた大魔導書」だったことから、世界の常識がひっくり返る。 本人は「ちょっと魔法が得意なだけ」と思っているのに、 ・竜を一撃で黙らせ ・災厄級ダンジョンを散歩感覚で踏破し ・国家レベルの結界を片手間で張り直し 気づけば、訳あり美少女たちに囲まれたハーレム状態に。 やがて、かつて彼を笑い、切り捨てた王都の貴族や元仲間たちが、 国家存亡の危機を前に「助けてくれ」と縋りついてくる。 だがリオンは、領民と仲間の笑顔を守るためだけに、淡々と「本気」を解放していくのだった——。 無自覚最強×追放×ざまぁ×ハーレム。 辺境から始まる、ゆるくて激しいファンタジー無双譚!

転生してきた令嬢、婚約破棄されたけど、冷酷だった世界が私にだけ優しすぎる話

タマ マコト
ファンタジー
前世の記憶を持って貴族令嬢として生きるセレフィーナは、感情を見せない“冷たい令嬢”として王都で誤解されていた。 王太子クラウスとの婚約も役割として受け入れていたが、舞踏会の夜、正義を掲げたクラウスの婚約破棄宣言によって彼女は一方的に切り捨てられる。 王都のクラウスに対する拍手と聖女マリアへの祝福に包まれる中、何も求めなかった彼女の沈黙が、王都という冷酷な世界の歪みを静かに揺らし始め、追放先の辺境での運命が動き出す。

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

追放先の辺境で前世の農業知識を思い出した悪役令嬢、奇跡の果実で大逆転。いつの間にか世界経済の中心になっていました。

緋村ルナ
ファンタジー
「お前のような女は王妃にふさわしくない!」――才色兼備でありながら“冷酷な野心家”のレッテルを貼られ、無能な王太子から婚約破棄されたアメリア。国外追放の末にたどり着いたのは、痩せた土地が広がる辺境の村だった。しかし、そこで彼女が見つけた一つの奇妙な種が、運命を、そして世界を根底から覆す。 前世である農業研究員の知識を武器に、新種の果物「ヴェリーナ」を誕生させたアメリア。それは甘美な味だけでなく、世界経済を揺るがすほどの価値を秘めていた。 これは、一人の追放された令嬢が、たった一つの果実で自らの運命を切り開き、かつて自分を捨てた者たちに痛快なリベンジを果たし、やがて世界の覇権を握るまでの物語。「食」と「経済」で世界を変える、壮大な逆転ファンタジー、開幕!

転生辺境の雑用兵、知らぬ間に世界最強になっていた件 〜追放されたけど美女たちに囲まれて安寧生活〜

eringi
ファンタジー
辺境軍の雑用兵として転生した青年・レオン。異世界に転生したのに、剣も魔法も地味でパッとしない日々。ところが彼の“地味な努力”が、実は世界の理をゆるがすほどの能力だと気づく者が次々と現れる。貴族令嬢、魔族の姫、神官少女──気づけばハーレム状態に。追放された元仲間が破滅していく流れの中、本人だけは「俺、そんな強いかな?」と首をかしげる。無自覚最強×ざまぁ×追放後スローライフ×英雄伝説が交錯する、異世界逆転ストーリー。

追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜

たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。 だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。 契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。 農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。 そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。 戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

処理中です...