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第6話「エルフの商人と伝説の秘薬」
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リゼを農園の小屋に招き入れ、詳しい話を聞くことにした。
彼女はこの北の地にあると言われる「幻の薬草」を探して旅をしていたらしい。
だが、薬草は見つからず、食料も尽き、行き倒れていたところを俺に発見されたというわけだ。
「まさか、薬草以上のものが、こんな荒野のど真ん中にあるなんて……」
リゼはテーブルに並べられた野菜たちを見て、溜息をついた。
俺が出したのは、魔蜜トマトのサラダ、爆裂ポテトのスープ、そしてデザートのクリスタル・メロンだ。
どれも俺の自慢の品々である。
「食べてみてくれ。味には自信がある」
リゼはおずおずとスプーンを手に取り、スープを一口飲んだ。
瞬間、彼女の長い耳がピーンと立った。
「……っ! 美味しい……! なにこれ、体がポカポカして、疲れが溶けていくみたい……」
次々と料理を口に運ぶリゼ。
その表情は恍惚としており、見ているこっちが照れるくらいだ。
完食した後、彼女は居住まいを正して俺に向き直った。
「カイさん。単刀直入に言います。これらは『野菜』ではありません」
「え? いや、野菜だろ」
「いいえ。これは『秘薬』です。それも、国宝級の」
リゼは真剣な表情で説明を始めた。
彼女によると、俺の作った野菜に含まれる魔力濃度は、最高級のエリクサーに匹敵するか、それ以上だという。
トマト一つで魔力枯渇が治り、ポテト一つで瀕死の重傷者が回復する可能性がある。
しかも、エリクサーのような副作用(飲みすぎると魔力中毒になる等)がなく、ただ美味しい食事として摂取できる。
「もしこれを市場に出せば、金貨一枚……いえ、白金貨でも買う人はいます」
「はあ? トマト一個が白金貨?」
白金貨といえば、平民が一生遊んで暮らせる額だ。
さすがにそれは大げさだろうと思ったが、リゼの目は本気だった。
「私は商人として、多くの品を見てきました。でも、こんな規格外の商品は初めてです。カイさん、私と契約してください。私がこの野菜の価値を正しく理解し、適切な場所に、適切な価格で流通させます」
「うーん……」
俺は腕を組んだ。
金にはあまり執着がない。
ここで静かに暮らせればそれでいい。
だが、作りすぎた野菜を無駄にするのも心が痛む。
それに、多少の資金があれば、農具を新調したり、新しい種を買ったりできる。
「わかった。余った分を売ってもらうのは構わない。だが、条件がある」
「はい、何でも言ってください!」
「俺の平穏を乱さないこと。俺がどこに住んでいるか、誰が作っているかは極力秘密にしてほしい。面倒な奴らが押し寄せてくるのは御免だからな」
「承知しました。『謎の生産者』としてブランディングしましょう。その方が希少価値も上がります」
リゼは悪い笑顔を浮かべた。
さすが商人だ。
こうして、リゼとの専属契約が結ばれた。
彼女は持っていたマジックバッグ(容量無限の魔法鞄)に、ありったけの野菜を詰め込んだ。
「では、早速近くの街で市場調査をしてきます! 必ず良い報告を持って帰ってきますから!」
リゼは元気よく手を振り、荒野を駆けていった。
その背中には、行き倒れていた時の弱々しさは微塵もない。
俺の野菜パワー、恐るべし。
数日後。
リゼが戻ってきた。
その表情は、興奮と困惑が入り混じった奇妙なものだった。
「カイさん……大変なことになりました」
「どうした? 売れなかったか?」
「逆です。売れすぎました。というか、騒ぎになりました」
リゼの話によると、街の冒険者ギルドに持ち込んだところ、鑑定士が腰を抜かしたらしい。
トマトの鑑定結果は『SSSランク・生命の実』。
食べた冒険者の古傷が完治し、引退寸前だった老剣士が全盛期の力を取り戻したという噂が広まり、ギルドがパニックになったそうだ。
「とりあえず、競売にかけて法外な値段がつきました。これが今回の売り上げです」
リゼが袋を差し出す。
中には、ずっしりと重い金貨と白金貨が詰まっていた。
「……これ、城が建つんじゃないか?」
「建ちますね。しかも、国王陛下がお忍びで欲しがっているという情報も入っています」
「王様まで……?」
「はい。なんでも、王都では食糧不足が深刻化していて、栄養価の高い保存食を求めているとか。それに、最近は魔物の活性化で兵士の負傷も増えているそうです」
王都。
そこには俺を追放した実家、アルト辺境伯家も関わりがあるはずだ。
食糧不足か。
俺がいた頃はそんな話はなかったが、何かあったのだろうか。
「まあ、俺には関係ない話だがな」
俺はこの荒野で、自分の好きなように生きる。
そう決めたはずだ。
だが、リゼが持ち帰った新聞の片隅に、気になる記事があった。
『アルト領、凶作により飢饉の危機。領主ガルド氏、王家に支援を要請』
兄貴の名前だ。
俺を追い出した後、領地経営に失敗したのか?
「……皮肉なもんだな」
俺は最高級のトマトを齧りながら、新聞を閉じた。
俺が作ったこの野菜があれば、領地の危機なんて一発で解決するだろう。
だが、俺はもうあの家の人間ではない。
「リゼ、この金で頼みたいものがある」
「はい、何でしょう?」
「調理器具と、調味料だ。素材が良いからそのままでも美味いが、そろそろ料理のレパートリーを増やしたい」
「ふふ、カイさんらしいですね。わかりました、最高のものを用意します!」
リゼは嬉しそうに笑った。
外の世界がどうなろうと、俺の農園は今日も平和だ。
ベルが昼寝のいびきをかき、風が作物を揺らす。
この幸せを守るためなら、俺は何だってするつもりだ。
たとえそれが、世界経済を揺るがすことになろうとも。
彼女はこの北の地にあると言われる「幻の薬草」を探して旅をしていたらしい。
だが、薬草は見つからず、食料も尽き、行き倒れていたところを俺に発見されたというわけだ。
「まさか、薬草以上のものが、こんな荒野のど真ん中にあるなんて……」
リゼはテーブルに並べられた野菜たちを見て、溜息をついた。
俺が出したのは、魔蜜トマトのサラダ、爆裂ポテトのスープ、そしてデザートのクリスタル・メロンだ。
どれも俺の自慢の品々である。
「食べてみてくれ。味には自信がある」
リゼはおずおずとスプーンを手に取り、スープを一口飲んだ。
瞬間、彼女の長い耳がピーンと立った。
「……っ! 美味しい……! なにこれ、体がポカポカして、疲れが溶けていくみたい……」
次々と料理を口に運ぶリゼ。
その表情は恍惚としており、見ているこっちが照れるくらいだ。
完食した後、彼女は居住まいを正して俺に向き直った。
「カイさん。単刀直入に言います。これらは『野菜』ではありません」
「え? いや、野菜だろ」
「いいえ。これは『秘薬』です。それも、国宝級の」
リゼは真剣な表情で説明を始めた。
彼女によると、俺の作った野菜に含まれる魔力濃度は、最高級のエリクサーに匹敵するか、それ以上だという。
トマト一つで魔力枯渇が治り、ポテト一つで瀕死の重傷者が回復する可能性がある。
しかも、エリクサーのような副作用(飲みすぎると魔力中毒になる等)がなく、ただ美味しい食事として摂取できる。
「もしこれを市場に出せば、金貨一枚……いえ、白金貨でも買う人はいます」
「はあ? トマト一個が白金貨?」
白金貨といえば、平民が一生遊んで暮らせる額だ。
さすがにそれは大げさだろうと思ったが、リゼの目は本気だった。
「私は商人として、多くの品を見てきました。でも、こんな規格外の商品は初めてです。カイさん、私と契約してください。私がこの野菜の価値を正しく理解し、適切な場所に、適切な価格で流通させます」
「うーん……」
俺は腕を組んだ。
金にはあまり執着がない。
ここで静かに暮らせればそれでいい。
だが、作りすぎた野菜を無駄にするのも心が痛む。
それに、多少の資金があれば、農具を新調したり、新しい種を買ったりできる。
「わかった。余った分を売ってもらうのは構わない。だが、条件がある」
「はい、何でも言ってください!」
「俺の平穏を乱さないこと。俺がどこに住んでいるか、誰が作っているかは極力秘密にしてほしい。面倒な奴らが押し寄せてくるのは御免だからな」
「承知しました。『謎の生産者』としてブランディングしましょう。その方が希少価値も上がります」
リゼは悪い笑顔を浮かべた。
さすが商人だ。
こうして、リゼとの専属契約が結ばれた。
彼女は持っていたマジックバッグ(容量無限の魔法鞄)に、ありったけの野菜を詰め込んだ。
「では、早速近くの街で市場調査をしてきます! 必ず良い報告を持って帰ってきますから!」
リゼは元気よく手を振り、荒野を駆けていった。
その背中には、行き倒れていた時の弱々しさは微塵もない。
俺の野菜パワー、恐るべし。
数日後。
リゼが戻ってきた。
その表情は、興奮と困惑が入り混じった奇妙なものだった。
「カイさん……大変なことになりました」
「どうした? 売れなかったか?」
「逆です。売れすぎました。というか、騒ぎになりました」
リゼの話によると、街の冒険者ギルドに持ち込んだところ、鑑定士が腰を抜かしたらしい。
トマトの鑑定結果は『SSSランク・生命の実』。
食べた冒険者の古傷が完治し、引退寸前だった老剣士が全盛期の力を取り戻したという噂が広まり、ギルドがパニックになったそうだ。
「とりあえず、競売にかけて法外な値段がつきました。これが今回の売り上げです」
リゼが袋を差し出す。
中には、ずっしりと重い金貨と白金貨が詰まっていた。
「……これ、城が建つんじゃないか?」
「建ちますね。しかも、国王陛下がお忍びで欲しがっているという情報も入っています」
「王様まで……?」
「はい。なんでも、王都では食糧不足が深刻化していて、栄養価の高い保存食を求めているとか。それに、最近は魔物の活性化で兵士の負傷も増えているそうです」
王都。
そこには俺を追放した実家、アルト辺境伯家も関わりがあるはずだ。
食糧不足か。
俺がいた頃はそんな話はなかったが、何かあったのだろうか。
「まあ、俺には関係ない話だがな」
俺はこの荒野で、自分の好きなように生きる。
そう決めたはずだ。
だが、リゼが持ち帰った新聞の片隅に、気になる記事があった。
『アルト領、凶作により飢饉の危機。領主ガルド氏、王家に支援を要請』
兄貴の名前だ。
俺を追い出した後、領地経営に失敗したのか?
「……皮肉なもんだな」
俺は最高級のトマトを齧りながら、新聞を閉じた。
俺が作ったこの野菜があれば、領地の危機なんて一発で解決するだろう。
だが、俺はもうあの家の人間ではない。
「リゼ、この金で頼みたいものがある」
「はい、何でしょう?」
「調理器具と、調味料だ。素材が良いからそのままでも美味いが、そろそろ料理のレパートリーを増やしたい」
「ふふ、カイさんらしいですね。わかりました、最高のものを用意します!」
リゼは嬉しそうに笑った。
外の世界がどうなろうと、俺の農園は今日も平和だ。
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