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エピローグ「陽だまりの公爵夫人」
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北の地に春が訪れ、長く厳しい冬が終わったことを告げていた。
雪解け水がきらきらと輝き、大地からは新しい命が芽吹き始めている。
ヴァルハイト城の庭園でも、色とりどりの花が咲き乱れ、甘い香りを風に乗せて運んでいた。
私は、その庭園のベンチに座り、穏やかな日差しを浴びていた。
公爵夫人となって、一年が経とうとしている。
あの日、クロードさんがプロポーズしてくれた時のことは、今でも昨日のことのように思い出せる。
「リリア、身体を冷やすといけない」
優しい声と共に、クロードさんが私の肩にそっとショールを掛けてくれた。
彼は私の隣に腰を下ろし、私の大きくなったお腹に愛おしそうに手を触れる。
「元気だったか、私のかわいい女神様と、未来の騎士殿」
彼がそう囁くと、お腹の中の赤ちゃんがぽこんと応えるように動いた。
「あら、今の分かりました? きっと、お父様にご挨拶したのですね」
「ああ、分かった。将来有望な、元気な子になりそうだ」
私たちは顔を見合わせて、微笑み合った。
こんな穏やかで、幸せな毎日が訪れるなんて、侍女だった頃の私には想像もできなかった。
クロードさんは、公爵としての仕事で忙しい合間を縫って、いつも私のことを気遣ってくれる。
私が食べたいと言った南国の果物をわざわざ商人から取り寄せてくれたり、夜中に足がつったと言えばすぐに飛んできてマッサージをしてくれたり。
その溺愛ぶりは、侍女長が呆れるほどだ。
「氷の公爵様も、すっかり形無しでございますな」
そう言いながらも、侍女長の顔はとても嬉しそうだった。
城の使用人たちは皆、私たちのことを温かく見守ってくれている。
領地の経営も、順調そのものだ。
私が始めた特産品事業はさらに拡大し、北の地は今や、国で最も豊かで活気のある場所として知られている。
領民たちは、私とお腹の子のことを「小さな幸運の女神様」と呼び、生まれてくるのを心待ちにしてくれていた。
すべてが、満ち足りている。
ふと、王都のことを思い出した。
風の噂で、アラン元王太子とアリアンヌさんのその後を耳にしたことがある。
アランさんは王位継承権を剥奪され、今は離宮でひっそりと暮らしているらしい。
アリアンヌさんのベルンシュタイン公爵家は、外交の失敗の責任を取らされる形で爵位を剥奪され、没落したと聞いた。
彼女は、遠い田舎の、名もない貴族の元へ嫁がされたそうだ。
彼らを思っても、私の心には何の感情も湧き起こらない。
怒りも、憐れみも。
彼らはもう、私の人生とは何の関係もない、遠い世界の住人だ。
私の世界は、今、ここにある。
「リリア」
クロードさんが、私の手を優しく握った。
「生まれてきてくれて、ありがとう。俺と出会ってくれて、ありがとう」
「私の方こそ、ありがとうございます。クロードさん。あなたが見つけてくださらなければ、私は今頃……」
言葉を続けようとしたら、彼の指がそっと私の唇に触れた。
「過去の話はもういい。俺たちには、これから始まる未来がある」
そうだ、私たちの物語はまだ始まったばかりなのだ。
この愛しい人と、そして、もうすぐ生まれてくる新しい家族と、たくさんの幸せな物語を紡いでいく。
私はクロードさんの肩に寄りかかった。
庭園に咲き誇る花々のように、私たちの未来も、きっと明るく、希望に満ちている。
北の地の陽だまりの中で、私は世界一の幸せを、確かにこの手の中に掴んでいた。
雪解け水がきらきらと輝き、大地からは新しい命が芽吹き始めている。
ヴァルハイト城の庭園でも、色とりどりの花が咲き乱れ、甘い香りを風に乗せて運んでいた。
私は、その庭園のベンチに座り、穏やかな日差しを浴びていた。
公爵夫人となって、一年が経とうとしている。
あの日、クロードさんがプロポーズしてくれた時のことは、今でも昨日のことのように思い出せる。
「リリア、身体を冷やすといけない」
優しい声と共に、クロードさんが私の肩にそっとショールを掛けてくれた。
彼は私の隣に腰を下ろし、私の大きくなったお腹に愛おしそうに手を触れる。
「元気だったか、私のかわいい女神様と、未来の騎士殿」
彼がそう囁くと、お腹の中の赤ちゃんがぽこんと応えるように動いた。
「あら、今の分かりました? きっと、お父様にご挨拶したのですね」
「ああ、分かった。将来有望な、元気な子になりそうだ」
私たちは顔を見合わせて、微笑み合った。
こんな穏やかで、幸せな毎日が訪れるなんて、侍女だった頃の私には想像もできなかった。
クロードさんは、公爵としての仕事で忙しい合間を縫って、いつも私のことを気遣ってくれる。
私が食べたいと言った南国の果物をわざわざ商人から取り寄せてくれたり、夜中に足がつったと言えばすぐに飛んできてマッサージをしてくれたり。
その溺愛ぶりは、侍女長が呆れるほどだ。
「氷の公爵様も、すっかり形無しでございますな」
そう言いながらも、侍女長の顔はとても嬉しそうだった。
城の使用人たちは皆、私たちのことを温かく見守ってくれている。
領地の経営も、順調そのものだ。
私が始めた特産品事業はさらに拡大し、北の地は今や、国で最も豊かで活気のある場所として知られている。
領民たちは、私とお腹の子のことを「小さな幸運の女神様」と呼び、生まれてくるのを心待ちにしてくれていた。
すべてが、満ち足りている。
ふと、王都のことを思い出した。
風の噂で、アラン元王太子とアリアンヌさんのその後を耳にしたことがある。
アランさんは王位継承権を剥奪され、今は離宮でひっそりと暮らしているらしい。
アリアンヌさんのベルンシュタイン公爵家は、外交の失敗の責任を取らされる形で爵位を剥奪され、没落したと聞いた。
彼女は、遠い田舎の、名もない貴族の元へ嫁がされたそうだ。
彼らを思っても、私の心には何の感情も湧き起こらない。
怒りも、憐れみも。
彼らはもう、私の人生とは何の関係もない、遠い世界の住人だ。
私の世界は、今、ここにある。
「リリア」
クロードさんが、私の手を優しく握った。
「生まれてきてくれて、ありがとう。俺と出会ってくれて、ありがとう」
「私の方こそ、ありがとうございます。クロードさん。あなたが見つけてくださらなければ、私は今頃……」
言葉を続けようとしたら、彼の指がそっと私の唇に触れた。
「過去の話はもういい。俺たちには、これから始まる未来がある」
そうだ、私たちの物語はまだ始まったばかりなのだ。
この愛しい人と、そして、もうすぐ生まれてくる新しい家族と、たくさんの幸せな物語を紡いでいく。
私はクロードさんの肩に寄りかかった。
庭園に咲き誇る花々のように、私たちの未来も、きっと明るく、希望に満ちている。
北の地の陽だまりの中で、私は世界一の幸せを、確かにこの手の中に掴んでいた。
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