無能と蔑まれ追放寸前の俺、実は徳川吉宗。非効率な魔法社会を江戸の知恵で改革し、最強の国家を作り上げます

黒崎隼人

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第5話『揺らぐ価値観』

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 年に一度の「魔法実技大会」。
 王侯貴族や国の重鎮も観覧に訪れるこの大会は、生徒たちが魔法の腕を披露し、将来を嘱望されるための重要な舞台だ。
 大会の華は、個人戦トーナメント。ギデオン・シュヴァルツは、その圧倒的な魔力量と攻撃魔法で対戦相手を次々と打ち破っていく。彼の放つ極大火球魔法「プロミネンス・バースト」は、闘技場の分厚い防護結界を揺るがすほどの威力を見せ、観客席から万雷の拍手を浴びた。

「素晴らしい! シュヴァルツ侯爵家も安泰だな!」
「あれこそ、我が国を守る力だ!」

 貴族たちは口々に彼を称賛する。
 決勝戦で、ギデオンは宣言通り相手を瞬殺して優勝を決めた。彼は勝ち誇ったようにマントを翻し、貴賓席のエリアーナに挑戦的な視線を送る。
 エリアーナは儀礼的に拍手を送りながらも、心は晴れなかった。ギデオンの魔法は確かに凄まじい。だが、その力はあまりにも暴力的で、破壊のためだけに存在しているように見えた。

 大会には「魔法応用研究発表」という部門もあった。そこで、誰もが予想しなかった人物が登壇する。
 ヨシムネである。
 彼が持ち込んだのは、派手な魔法の祭具ではない。改良かまどの模型と、風車の設計図、そして一袋の米だった。

「何だあれは?」
「“魔力なし”が、何を始めるつもりだ?」

 会場がざわつく中、ヨシムネは落ち着き払った声で語り始めた。
「私が本日、皆様にご覧に入れるのは、破壊の魔法ではありません。生み出し、育み、暮らしを豊かにするための、魔法のもう一つの可能性です」

 彼は、いかに少ない魔力で高い熱効率を生むか、いかに自然の風を利用して動力を得るか、そして、いかに土地の理を読み解き豊かな実りを得るかを、淡々と、しかし論理的に説明した。
 彼の言葉は、多くの生徒や貴族には退屈な講義にしか聞こえなかった。あちこちから、失笑やあくびが漏れる。

「馬鹿馬鹿しい! 我ら魔術師が、農夫や職人の真似事をしてどうするのだ!」

 ギデオンが観客席から野次を飛ばし、会場は同調する空気に包まれた。
 だが、その時、静かに拍手を送る者がいた。学園長のアルフレッド・ヴァイスマン。彼の隣に座る国王もまた、退屈そうな顔をしながらも、財務大臣に何かを耳打ちしている。彼ら為政者にとって、燃料費の削減や食料の増産は、派手な攻撃魔法よりもよほど現実的な国益に繋がる話だったからだ。
 発表を終えたヨシムネは、一礼して静かに壇上を去った。結果は当然のように最下位。しかし、彼の心は凪いでいた。種は蒔かれた。理解する者には、必ず届いたはずだ。

 大会の後、エリアーナはヨシムネを呼び止めた。
「ヨシムネ君」
「エリアーナ殿。何か用かな」
「あなたの発表……馬鹿げていると思いましたわ。でも……あの風車が人々の役に立っているのも事実。私は、分からなくなってしまったのです。私たちが信じてきたこの強大な魔力は、一体何のためにあるのかと」
 彼女の声は、か細く震えていた。エリートとしての自信と目の前の現実との間で、彼女の心は引き裂かれそうになっていた。

 ヨシムネは、彼女の目をまっすぐに見つめて言った。
「力そのものに、善悪はない。それを何のために使うか。それだけのことだ。破壊のために使うもよし、民の暮らしを支えるために使うもよし。選ぶのは、力を持つ者、そなた自身だ」

 その言葉は、鋭い刃のようにエリアーナの心の奥深くに突き刺さった。
 彼女は返す言葉を見つけられず、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
 ギデオンの絶対的な「力」と、ヨシムネの静かなる「理」。二つの全く異なる価値観が、今、学園の中で、そしてエリアーナの心の中で、激しく衝突しようとしていた。
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