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第6話『迫りくる巨影』
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異変は、王都の北に広がる「沈黙の森」から始まった。
突如として木々が枯れ、動物が姿を消し、土地から魔力が急速に失われていく。王国の魔術師団が調査に乗り出し、森の奥で見たものは、想像を絶する存在だった。
それは、まるで大地そのものが意志を持って立ち上がったかのような、巨大な人型の魔獣。岩と土でできた体躯は小高い丘ほどもある。その魔獣――後に『アース・タイタン』と呼ばれることになる存在は、歩くだけで大地を揺るがし、周囲の生命力とマナを根こそぎ吸い上げていた。
「あれは、古代の魔法災害そのものだ……」
調査団の一人が、恐怖に顔を歪めてつぶやいた。
アース・タイタンの出現に王国は震撼した。このまま放置すれば、王都に到達するのも時間の問題だ。国王は直ちに、騎士団と、ギデオン・シュヴァルツを含む国内屈指の魔術師による討伐隊の結成を命じた。
「私の力を見せる、絶好の機会だ」
ギデオンは自信に満ちていた。自らの最強魔法をもってすれば、あのような鈍重な土くれなど、一撃で粉砕できると信じて疑わなかった。
討伐隊は、アース・タイタンが王都に続く街道に差し掛かったところで布陣を敷いた。
「全魔術師、一斉攻撃! 奴を塵も残さず吹き飛ばせ!」
ギデオンの号令一下、色とりどりの攻撃魔法がアース・タイタンに殺到した。灼熱の炎、絶対零度の吹雪、天を裂く雷撃。王国の魔法技術の粋を集めた、壮絶な光景だった。
しかし、信じられないことが起きた。
無数の魔法は、アース・タイタンの岩の体に吸い込まれるように消え、全くダメージを与えられない。それどころか、魔法を浴びた箇所はより一層硬質化し、その巨体はわずかに大きくなったようにすら見えた。
「な、なぜだ! なぜ効かん!」
ギデオンは焦燥に駆られ、己の最大魔力を込めて「プロミネンス・バースト」を放った。太陽のごとき火球がタイタンの胸部で炸裂し、凄まじい熱と光が周囲を包む。誰もが、今度こそはと固唾を呑んだ。
だが、爆炎が晴れた後、そこに立っていたのは、全くの無傷のアース・タイタンだった。その胸部は、高熱で溶けた岩が再結晶化したのか、黒曜石のように禍々しく輝いている。
「馬鹿な……あり得ない……」
ギデオンの顔から血の気が引いた。討伐隊は絶望に包まれた。最強の魔法が通用しない。それは、彼らの世界の常識が崩壊した瞬間だった。
その頃、ヨシムネは学園の図書館で、別の角度からこの異変を調査していた。魔獣の出現と、森の魔力枯渇が同時に起きていることに着目したのだ。
「これは、外部からの侵略者ではない。内なる歪みが生み出したものだ」
古い地質図と近年の魔力観測記録を照らし合わせた彼は、ある事実に気づく。アース・タイタンが出現した「沈黙の森」は、近年、貴族たちが魔法の実験場として無秩序な魔力行使を繰り返してきた場所だった。特にギデオンは、大魔法の訓練と称して、頻繁にこの森を訪れていた。
「過剰な魔力の乱用が、土地のマナ・バランスを崩壊させたのだ。大地が、そのバランスを取り戻そうとして、周囲のマナを無差別に吸収する“核”を生み出した。それが、あのアース・タイタンの正体だ」
つまり、アース・タイタンは魔力そのものを糧とする存在。攻撃魔法を撃ち込むほど、それは奴を強くするだけなのだ。
討伐隊は壊滅的な打撃を受け、撤退を余儀なくされた。アース・タイタンはその歩みを止めず、ゆっくりと、しかし確実に王都へと迫る。
街はパニックに陥り、人々は絶望に打ちひしがれた。もはや、この国を救う術はないのか。
誰もがそう思った時、一人の男が、静かに王都の門から歩み出た。
腰にクワを差した、場違いな農夫のような格好の、黒髪の青年だった。
突如として木々が枯れ、動物が姿を消し、土地から魔力が急速に失われていく。王国の魔術師団が調査に乗り出し、森の奥で見たものは、想像を絶する存在だった。
それは、まるで大地そのものが意志を持って立ち上がったかのような、巨大な人型の魔獣。岩と土でできた体躯は小高い丘ほどもある。その魔獣――後に『アース・タイタン』と呼ばれることになる存在は、歩くだけで大地を揺るがし、周囲の生命力とマナを根こそぎ吸い上げていた。
「あれは、古代の魔法災害そのものだ……」
調査団の一人が、恐怖に顔を歪めてつぶやいた。
アース・タイタンの出現に王国は震撼した。このまま放置すれば、王都に到達するのも時間の問題だ。国王は直ちに、騎士団と、ギデオン・シュヴァルツを含む国内屈指の魔術師による討伐隊の結成を命じた。
「私の力を見せる、絶好の機会だ」
ギデオンは自信に満ちていた。自らの最強魔法をもってすれば、あのような鈍重な土くれなど、一撃で粉砕できると信じて疑わなかった。
討伐隊は、アース・タイタンが王都に続く街道に差し掛かったところで布陣を敷いた。
「全魔術師、一斉攻撃! 奴を塵も残さず吹き飛ばせ!」
ギデオンの号令一下、色とりどりの攻撃魔法がアース・タイタンに殺到した。灼熱の炎、絶対零度の吹雪、天を裂く雷撃。王国の魔法技術の粋を集めた、壮絶な光景だった。
しかし、信じられないことが起きた。
無数の魔法は、アース・タイタンの岩の体に吸い込まれるように消え、全くダメージを与えられない。それどころか、魔法を浴びた箇所はより一層硬質化し、その巨体はわずかに大きくなったようにすら見えた。
「な、なぜだ! なぜ効かん!」
ギデオンは焦燥に駆られ、己の最大魔力を込めて「プロミネンス・バースト」を放った。太陽のごとき火球がタイタンの胸部で炸裂し、凄まじい熱と光が周囲を包む。誰もが、今度こそはと固唾を呑んだ。
だが、爆炎が晴れた後、そこに立っていたのは、全くの無傷のアース・タイタンだった。その胸部は、高熱で溶けた岩が再結晶化したのか、黒曜石のように禍々しく輝いている。
「馬鹿な……あり得ない……」
ギデオンの顔から血の気が引いた。討伐隊は絶望に包まれた。最強の魔法が通用しない。それは、彼らの世界の常識が崩壊した瞬間だった。
その頃、ヨシムネは学園の図書館で、別の角度からこの異変を調査していた。魔獣の出現と、森の魔力枯渇が同時に起きていることに着目したのだ。
「これは、外部からの侵略者ではない。内なる歪みが生み出したものだ」
古い地質図と近年の魔力観測記録を照らし合わせた彼は、ある事実に気づく。アース・タイタンが出現した「沈黙の森」は、近年、貴族たちが魔法の実験場として無秩序な魔力行使を繰り返してきた場所だった。特にギデオンは、大魔法の訓練と称して、頻繁にこの森を訪れていた。
「過剰な魔力の乱用が、土地のマナ・バランスを崩壊させたのだ。大地が、そのバランスを取り戻そうとして、周囲のマナを無差別に吸収する“核”を生み出した。それが、あのアース・タイタンの正体だ」
つまり、アース・タイタンは魔力そのものを糧とする存在。攻撃魔法を撃ち込むほど、それは奴を強くするだけなのだ。
討伐隊は壊滅的な打撃を受け、撤退を余儀なくされた。アース・タイタンはその歩みを止めず、ゆっくりと、しかし確実に王都へと迫る。
街はパニックに陥り、人々は絶望に打ちひしがれた。もはや、この国を救う術はないのか。
誰もがそう思った時、一人の男が、静かに王都の門から歩み出た。
腰にクワを差した、場違いな農夫のような格好の、黒髪の青年だった。
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