無能と蔑まれ追放寸前の俺、実は徳川吉宗。非効率な魔法社会を江戸の知恵で改革し、最強の国家を作り上げます

黒崎隼人

文字の大きさ
10 / 10

エピローグ『米は実り、風は歌う』

しおりを挟む
 あれから、十年の歳月が流れた。
 王都の北に広がる平野は、かつての荒れ地が嘘のように、見渡す限りの黄金色の田園風景に変わっていた。整然と区画された水田の上を心地よい風が渡り、稲穂がさわさわと歌うように揺れている。その風を受けて、あちこちに建てられた巨大な風車が、ゆっくりと、しかし力強く回り続けていた。

 その田園風景を見下ろす小高い丘の上に、一人の男が立っている。
 粗末な麻の服をまとい、腰には使い古したクワを差している。日に焼けた顔には深い皺が刻まれているが、その眼差しは十年前と変わらぬ静かな光を宿していた。
 賢者ヨシムネ。かつて徳川吉宗と呼ばれた男である。

「先生、今年の米も、見事な出来栄えです」
 背後から凛とした声がした。振り返ると、そこにはすっかり大人の女性に成長したエリアーナが、穏やかな笑みを浮かべて立っていた。彼女は今や、理魔法学における最高の権威であり、ヨシムネの右腕として王国中のインフラ整備を指導する立場にあった。

「うむ。民が腹一杯食べられる。これに勝る治世はないからな」
 ヨシムネは、満足そうにうなずいた。

「ヨシムネ先生ー! エリアーナ先生ー!」
 丘の下から、元気な声が聞こえる。リントが、新しい理魔法学の生徒たちを引率し、稲刈りの実習にやってきたのだ。彼は今や、学園で最も人気のある教官の一人となっていた。生徒たちの顔は、皆、希望と探究心に満ち溢れている。

 ヨシムネは、その光景を眩しそうに目を細めて眺めた。
 彼は、この世界で将軍にはならなかった。王にも、英雄にもならなかった。ただ一人の「賢者」として、種を蒔き、道を拓いただけだ。だが、その種は確かに芽吹き、彼の教えはリントやエリアーナといった次の世代によって、見事に花開こうとしていた。

 前世で、彼は天下泰平を目指した。志半ばで倒れたが、その魂は、この異世界で別の形で結実したのかもしれない。
 破壊の連鎖を断ち切り、調和と繁栄の礎を築く。それは、彼が為したかったことの本質そのものだった。
 夕暮れの風が、実った稲穂の香りを運んでくる。それは、豊かさと平和の香りだった。
 ヨシムネは、深く、満足のため息をつくと、丘を下っていく弟子たちの背中に向かって、穏やかに微笑んだ。
 彼の二度目の人生は、確かに、満ち足りたものであった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

神具のクワで異世界開拓!〜過労死SE、呪われた荒野を極上農園に変えてエルフや獣人と美味しいスローライフ〜

黒崎隼人
ファンタジー
ブラック企業で過労死したシステムエンジニアの茅野蓮は、豊穣の女神アリアによって剣と魔法のファンタジー世界へ転生する。 彼に与えられた使命は、呪われた「嘆きの荒野」を開拓し、全ての種族が手を取り合える理想郷を築くこと。 女神から授かったチート神具「ガイアの聖クワ」を一振りすれば、枯れた大地は瞬時に極上の黒土へと変わり、前世の知識と魔法の収納空間を駆使して、あっという間に規格外の美味しい作物を育て上げていく。 絶品の「ポトフ」で飢えたエルフの少女を救ったことを皮切りに、訳ありの白狼族の女戦士、没落した元公爵令嬢、故郷を失った天狐の巫女、人間に囚われていた翼人族の少女など、行き場を失った魅力的なヒロインたちが次々と彼の農園に集まってくる。 蓮が作る「醤油」や「マヨネーズ」などの未知の調味料や絶品料理は、瞬く間に世界中の胃袋を掴み、小さな農園はいつしか巨大な経済網を持つ最強の都市国家へと発展していく! 迫り来る大商会の圧力も、大国の軍勢も、さらには魔王軍の侵攻すらも、蓮は「美味しいご飯」と「農業チート」で平和的に解決してしまう。 これは、一本のクワを握りしめた心優しい青年が、傷ついた仲間たちと共に美味しい食卓を囲みながら、世界一豊かで幸せな国家「アルカディア連邦」を創り上げるまでの、奇跡と豊穣の異世界スローライフ!

悪役令嬢は廃墟農園で異世界婚活中!~離婚したら最強農業スキルで貴族たちが求婚してきますが、元夫が邪魔で困ってます~

黒崎隼人
ファンタジー
「君との婚約を破棄し、離婚を宣言する!」 皇太子である夫から突きつけられた突然の別れ。 悪役令嬢の濡れ衣を着せられ追放された先は、誰も寄りつかない最果ての荒れ地だった。 ――最高の農業パラダイスじゃない! 前世の知識を活かし、リネットの農業革命が今、始まる! 美味しい作物で村を潤し、国を救い、気づけば各国の貴族から求婚の嵐!? なのに、なぜか私を捨てたはずの元夫が、いつも邪魔ばかりしてくるんですけど! 「離婚から始まる、最高に輝く人生!」 農業スキル全開で国を救い、不器用な元夫を振り回す、痛快!逆転ラブコメディ!

足手まといだと言われて冒険者パーティから追放されたのに、なぜか元メンバーが追いかけてきました

ちくわ食べます
ファンタジー
「ユウト。正直にいうけど、最近のあなたは足手まといになっている。もう、ここらへんが限界だと思う」 優秀なアタッカー、メイジ、タンクの3人に囲まれていたヒーラーのユウトは、実力不足を理由に冒険者パーティを追放されてしまう。 ――僕には才能がなかった。 打ちひしがれ、故郷の実家へと帰省を決意したユウトを待ち受けていたのは、彼の知らない真実だった。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...