悪役令嬢の役割を演じきり、婚約破棄で自由を手に入れた私。一途な騎士の愛に支えられ、領地経営に専念していたら、元婚約者たちが後悔し始めたようで

黒崎隼人

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第06話「王都への召喚、迫りくる影」

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 ヴァイス領での改革が順調に進み、私とレオンの関係が深まりつつあった頃、突如として王都からの使者が訪れた。彼らが携えてきたのは、国王陛下からの召喚状だった。

「侯爵令嬢エルザ・ヴァイス殿。国王陛下が、あなたに謁見を望んでおられます」

 使者の言葉に、私はかすかに眉をひそめた。なぜ今、私が王都に呼び戻される必要があるのか。
 ヴァイス領の改革はまだ道半ばであり、私自身もこの地に腰を据えて、本格的に領地経営に力を注ぎたいと考えていたところだった。しかし、国王陛下からの命となれば、断ることはできない。

「承知いたしました。すぐに準備を整えます」

 私がそう答えると、使者は一礼して館を後にした。隣に控えていたレオンの顔には、はっきりと不安の色が浮かんでいた。
「エルザ様、これは罠かもしれません。王都にはまだ、あなたを陥れようとする者がいるはずです」

 レオンの心配はもっともだった。あの断罪劇の後、私は「呪われた令嬢」という汚名を着せられ、社会的に抹殺されそうになった。その裏には、私の失脚を望む貴族派の存在があったことは想像に難くない。
 今回、国王陛下からの召喚という形で私を呼び戻すのは、何か別の意図があるに違いない。

「ええ、レオン。わたくしもそう考えています。ですが、だからこそ、私は行かなければなりません。このままヴァイス領に留まっていては、向こうの思うつぼです」

 私は静かにそう告げた。そして、レオンの瞳を真っ直ぐに見つめる。
「わたくしの護衛として、貴方も共に来ていただけますか?」

「もちろん、喜んで。エルザ様をお一人にはさせません」

 レオンの言葉に、私の心は温かくなった。彼がいる。それだけで、私はどんな困難にも立ち向かえる気がした。
 私たちはすぐに王都へ向かう準備を始めた。ヴァイス領の今後の運営については、父である侯爵と、信頼できる使用人たちに託すことにした。

 王都へと向かう馬車の中、レオンは常に私の傍らに控え、周囲の様子を警戒していた。道中、彼は私の心を落ち着かせようと、ヴァイス領での出来事を話題にした。

「エルザ様が考案された水車を使った灌漑システムは、画期的でした。あの発想は、一体どこから?」

「幼い頃、父の書斎で古い建築書を見つけたのです。そこに、かつて存在したとされる灌漑の仕組みが記されていました」

 私たちは、他愛もない会話を交わしながら、次第に王都へと近づいていった。しかし、私の心の中には、不安と緊張が渦巻いていた。
 国王陛下は一体、私に何を求めているのだろうか。そして、あの貴族派は、新たなどんな陰謀を企んでいるのだろうか。

 王都の門が見えてくると、レオンは表情を引き締めた。
「エルザ様、ここからは、一層警戒が必要です。どうか、お気をつけください」

 彼の言葉に、私も深くうなずいた。王都の賑わいは、ヴァイス領のそれとは比べ物にならない。
 華やかな通りを多くの貴族や市民が行き交い、その中には、私に敵意を向ける者たちが紛れ込んでいる可能性も否定できない。

 馬車が王宮の門をくぐり、庭園を進む。久しぶりに見る王宮は、以前と変わらぬ荘厳さを保っていた。
 しかし、その華やかさの裏には、様々な思惑と陰謀が渦巻いていることを、私は肌で感じていた。まるで、美しいヴェールに隠された毒のように。

 王宮に到着し、私たちは謁見の間に通された。国王陛下は玉座に座し、その隣には、意外なことにルキウス殿下と、そしてリアナ嬢の姿もあった。
 二人の顔には、以前よりも深い影が差しているように見えた。

「エルザ・ヴァイス侯爵令嬢。よくぞ参った」

 国王陛下の声は重々しく、しかしどこか疲れているようにも聞こえた。私は深く一礼し、陛下を仰ぎ見た。彼の表情は、私の予想していたよりも穏やかだった。

「お呼び立てし、済まなかったな。しかし、そなたの力が必要となる事態が持ち上がったのだ」

 国王陛下の言葉は、私にとってさらに予想外だった。私を陥れようとする陰謀ではない、というのだろうか? それとも、これは新たな策略の一環なのか?
 私の心の中では、警戒の鐘が鳴り響いていた。

 国王陛下が語り始めたのは、隣国との関係を揺るがす外交問題だった。アードラー王国と隣国レヴィアンス王国との間で、国境付近の資源の権利を巡る争いが激化しているという。

「レヴィアンス王国は、長らくヴァイス侯爵家と交易関係を結んでおったな。そなたの父も、長年、隣国との友好関係を築いてきた。そこで、エルザ。そなたにレヴィアンス王国との交渉役を任せたい」

 国王陛下の言葉に、私は驚きを隠せなかった。私に外交交渉を? それも、隣国との緊迫した問題を解決するための大役に。
 だが、その背後には、やはり何か別の意図が隠されているのではないかという疑念が、私の心から離れなかった。
 王宮に立ち込める不穏な空気は、まるで私を待ち受ける影のように、静かに、しかし確実に迫ってきているのを感じた。
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