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序章:追放
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神々の祝福が降り注ぐとされる、壮麗な大聖堂。
年に一度、十五歳になった貴族の子弟たちが神からスキルを授かる「授与の儀」が、厳かに執り行われていた。
きらびやかな衣装に身を包んだ少年少女たちが、緊張と期待の入り混じった面持ちで、祭壇の前に立つ神官の言葉を待っている。
僕、アッシュ・ウォーカーもその一人だった。ウォーカー子爵家の次男として生まれた僕は、今日この日まで、ただただ真面目に生きてきた。兄ほど剣の才能はないけれど、きっと人の役に立つスキルが授かるはずだ。そう信じていた。
「――アイリス・クラインフェルト!」
神官の張りのある声が響く。呼ばれたのは、僕の幼馴染で、公爵家の一人娘であるアイリスだ。金色の髪を揺らし、誰もが見惚れるほどの美貌を持つ彼女は、自信に満ちた足取りで前へ進む。
祭壇の水晶に手をかざすと、水晶は眩いばかりの黄金色の光を放った。
「おお……! これは……伝説の【大聖癒(だいせいゆ)】! 国に聖女の誕生だ!」
神官が驚愕と歓喜の声を上げる。周囲からは、どよめきと賞賛の嵐が巻き起こった。【大聖癒】は、どんな傷も、果ては呪いすら癒すと言われる最高位の回復スキルだ。
アイリスは誇らしげに胸を張り、僕の方を一瞥した。その瞳には、憐れみのような色が浮かんでいた。僕たちは、もう住む世界が違うのだと、そう言われているようだった。
やがて、僕の番が来た。
「――アッシュ・ウォーカー」
緊張で震える手で、水晶に触れる。しかし、水晶が放ったのは、まるで消え入りそうな、ぼんやりとした鈍い光だけだった。
「……む? これは……【アイテム分解】……か。ふむ」
神官は興味なさそうにそう告げると、すぐに次の者の名前を呼んだ。
【アイテム分解】。その名の通り、ただアイテムを元の素材に戻すだけのスキル。壊れた木の椅子を木材に戻したり、錆びた鉄屑を鉄鉱石に戻したり。鍛冶職人の下働きくらいしか使い道のない、いわゆるハズレスキルだ。
周囲から聞こえてくるのは、あからさまな嘲笑と失望のため息だった。父と兄の冷たい視線が、僕の心に突き刺さる。
儀式が終わり、僕は誰からも声をかけられることなく、一人廊下を歩いていた。
「アッシュ」
背後からかけられた声に、僕は少しだけ期待して振り返る。そこに立っていたのは、聖女として称賛の輪の中心にいたはずのアイリスだった。
「アイリス……」
「……本当にがっかりしたわ」
しかし、彼女の口から出たのは、氷のように冷たい言葉だった。
「【アイテム分解】ですって? そんなスキル、何の役にも立たないじゃない。わたくしは聖女として、これから国を支えていくの。あなたの様な出来損ないが幼馴染だなんて……正直、迷惑だわ」
「そん、な……」
「ああ、アイリス。こんな奴と話す必要はない」
アイリスの隣には、いつの間にかこの国の王太子、ギルバート殿下が立っていた。彼は僕を汚物でも見るかのような目で見下している。
「ウォーカー子爵。貴様の次男は、我が国の恥だ。スキルを持たぬ平民以下よ。国庫から金を出すのも惜しい。よって、アッシュ・ウォーカーを王都から追放する。異論はないな?」
王太子の言葉に、父は深々と頭を下げた。
「はっ。我が家の恥を処分していただき、感謝の念に堪えません」
「父さん……!」
僕の叫びは、誰の耳にも届かなかった。
こうして僕は、たった一つのスキルによって、家族からも、幼馴染からも、国からも、すべてを奪われた。
わずかな金貨と着の身着のまま、魔物が蔓延るという辺境の地へ。誰一人見送る者もいないまま、僕は王都を追われたのだった。
年に一度、十五歳になった貴族の子弟たちが神からスキルを授かる「授与の儀」が、厳かに執り行われていた。
きらびやかな衣装に身を包んだ少年少女たちが、緊張と期待の入り混じった面持ちで、祭壇の前に立つ神官の言葉を待っている。
僕、アッシュ・ウォーカーもその一人だった。ウォーカー子爵家の次男として生まれた僕は、今日この日まで、ただただ真面目に生きてきた。兄ほど剣の才能はないけれど、きっと人の役に立つスキルが授かるはずだ。そう信じていた。
「――アイリス・クラインフェルト!」
神官の張りのある声が響く。呼ばれたのは、僕の幼馴染で、公爵家の一人娘であるアイリスだ。金色の髪を揺らし、誰もが見惚れるほどの美貌を持つ彼女は、自信に満ちた足取りで前へ進む。
祭壇の水晶に手をかざすと、水晶は眩いばかりの黄金色の光を放った。
「おお……! これは……伝説の【大聖癒(だいせいゆ)】! 国に聖女の誕生だ!」
神官が驚愕と歓喜の声を上げる。周囲からは、どよめきと賞賛の嵐が巻き起こった。【大聖癒】は、どんな傷も、果ては呪いすら癒すと言われる最高位の回復スキルだ。
アイリスは誇らしげに胸を張り、僕の方を一瞥した。その瞳には、憐れみのような色が浮かんでいた。僕たちは、もう住む世界が違うのだと、そう言われているようだった。
やがて、僕の番が来た。
「――アッシュ・ウォーカー」
緊張で震える手で、水晶に触れる。しかし、水晶が放ったのは、まるで消え入りそうな、ぼんやりとした鈍い光だけだった。
「……む? これは……【アイテム分解】……か。ふむ」
神官は興味なさそうにそう告げると、すぐに次の者の名前を呼んだ。
【アイテム分解】。その名の通り、ただアイテムを元の素材に戻すだけのスキル。壊れた木の椅子を木材に戻したり、錆びた鉄屑を鉄鉱石に戻したり。鍛冶職人の下働きくらいしか使い道のない、いわゆるハズレスキルだ。
周囲から聞こえてくるのは、あからさまな嘲笑と失望のため息だった。父と兄の冷たい視線が、僕の心に突き刺さる。
儀式が終わり、僕は誰からも声をかけられることなく、一人廊下を歩いていた。
「アッシュ」
背後からかけられた声に、僕は少しだけ期待して振り返る。そこに立っていたのは、聖女として称賛の輪の中心にいたはずのアイリスだった。
「アイリス……」
「……本当にがっかりしたわ」
しかし、彼女の口から出たのは、氷のように冷たい言葉だった。
「【アイテム分解】ですって? そんなスキル、何の役にも立たないじゃない。わたくしは聖女として、これから国を支えていくの。あなたの様な出来損ないが幼馴染だなんて……正直、迷惑だわ」
「そん、な……」
「ああ、アイリス。こんな奴と話す必要はない」
アイリスの隣には、いつの間にかこの国の王太子、ギルバート殿下が立っていた。彼は僕を汚物でも見るかのような目で見下している。
「ウォーカー子爵。貴様の次男は、我が国の恥だ。スキルを持たぬ平民以下よ。国庫から金を出すのも惜しい。よって、アッシュ・ウォーカーを王都から追放する。異論はないな?」
王太子の言葉に、父は深々と頭を下げた。
「はっ。我が家の恥を処分していただき、感謝の念に堪えません」
「父さん……!」
僕の叫びは、誰の耳にも届かなかった。
こうして僕は、たった一つのスキルによって、家族からも、幼馴染からも、国からも、すべてを奪われた。
わずかな金貨と着の身着のまま、魔物が蔓延るという辺境の地へ。誰一人見送る者もいないまま、僕は王都を追われたのだった。
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