無能と追放された鑑定士、実は物の情報を書き換える神スキル【神の万年筆】の持ち主だったので、辺境で楽園国家を創ります!

黒崎隼人

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第3話「少女の涙と創生の決意」

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 カラン村への道は、想像以上に荒れていた。道は雑草に覆われ、人の往来がほとんどないことを物語っている。ようやくたどり着いた村は、正直「寂れている」という言葉が生ぬるいほど、ひどい有様だった。
 家々の壁は崩れかけ、畑は見るからに痩せ細った土がむき出しになっている。村を歩く人々も皆、生気がなく、その顔には深い疲労と諦めの色が浮かんでいた。まるで、村全体がゆっくりと死に向かっているかのようだ。
『ここなら、俺の力を試しても誰にも気づかれないかもしれないな…』
 そんなことを考えながら村の中心部へ向かっていると、井戸の周りで小さな人だかりができていた。何事かと思って近づくと、村人たちの悲痛な声が聞こえてくる。
「なんてこった、井戸が完全に枯れちまった…」
「もう何日も雨が降っていないからな…」
「これじゃあ、畑の水も飲み水も…俺たちはもう終わりだ…」
 絶望的な雰囲気がその場を支配する中、一人の少女が懸命に何かを訴えていた。歳は俺と同じくらいだろうか。日に焼けた健康的な肌に、亜麻色の髪を無造作に束ねた、素朴な印象の少女だ。
「まだ諦めちゃだめだよ! 村の東にある泉なら、まだ水が残ってるかもしれない!」
「リーシャ、よせ。あそこは魔物が出るって噂だ。お前一人で行くなんて危険すぎる」
「でも、このままじゃみんな…!」
 リーシャと呼ばれた少女は、目に涙を浮かべながらも、必死に食い下がっている。
 その姿に、俺はなぜか目を離すことができなかった。他人のために、自分の危険も顧みずに行動しようとする、その真っ直ぐな心が、打算と裏切りにまみれた王都での日々を過ごしてきた俺には、やけにまぶしく見えた。
『俺に…何かできるんじゃないか?』
 この村は、俺が新しい人生を始める場所にふさわしいかもしれない。そして、この少女の涙を、俺は見過ごしたくなかった。
 俺は人混みをかき分け、井戸の前に進み出た。
「あの…」
 突然現れた見知らぬ男に、村人たちがいぶかしげな視線を向ける。リーシャも、涙で濡れた大きな瞳で俺を見つめていた。
「旅の者かい? 残念だが、この村にはあんたにやる水も食い物もねえよ」
 年配の男性が、すまなそうに言った。
「いえ、そうじゃなくて…。この井戸、俺が何とかできるかもしれません」
「何とかするだと? 兄ちゃん、見ての通り、こいつは完全に枯れちまってるんだ。神様でもなけりゃ、どうにもならんさ」
 村人たちの嘲笑が聞こえる。無理もない。だが、今の俺は、その神様とやらと同じようなことができるのだ。
 俺は黙って井戸の縁に手を触れ、スキルを発動した。
【鑑定】
 目の前にウィンドウが浮かび上がる。
 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
【名称】枯れた井戸
【種別】建造物
【情報】長年の日照りにより、地下水脈が枯渇してしまった井戸。もはやただの穴であり、水を得ることはできない。
 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
『よし…!』
 俺は心の中で強く念じる。ウィンドウの文字が、昨日見たように揺らぎ、編集可能な状態へと変わる。
【名称】を「清水の湧く奇跡の泉」に。
 そして、【情報】を「かつて聖人が発見したとされる伝説の泉。尽きることのない清らかな水が湧き出ており、その水は人々の喉を潤すだけでなく、心をも癒やす力を持つ」と書き換えた。
 そして、確定。
 次の瞬間、ゴゴゴゴゴ…という地響きと共に、井戸の底から何かが湧き上がってくる音が聞こえた。村人たちが驚いて井戸の中を覗き込む。
「み、水だ! 水が湧いてきたぞ!」
 誰かの叫び声を皮切りに、歓声が爆発した。枯れ果てていたはずの井戸の底から、信じられないほど透き通った水が、勢いよく湧き出してきているのだ。あっという間に井戸は満たされ、清らかな水が縁からあふれ出した。
 村人たちは我先にと水に駆け寄り、手ですくって飲み、その身に浴びて喜びを分かち合っている。
 俺は、その光景をただ呆然と見ていた。自分の力が、こんなにも人を喜ばせることができるなんて。王都では、ただ蔑まれるだけだったこの力が。
「あ、あの…!」
 不意に、服の袖をくいくいと引かれた。振り返ると、リーシャがそこに立っていた。彼女の大きな瞳は、まだ少し潤んでいたが、そこには先ほどまでの絶望ではなく、驚きと感謝の色が浮かんでいた。
「あなたが…これを? 一体、どうやったんですか…?」
「えっと、その…俺のスキルは、ちょっと特殊で…」
 しどろもどろになる俺に、彼女は深く、深く頭を下げた。
「ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます! あなたは、この村の救世主です!」
 救世主。そんな大げさな言葉に、俺は戸惑うばかりだった。だが、彼女の心からの感謝の言葉は、乾ききっていた俺の心に、まるで今湧き出たばかりの清水のようにじんわりと染み渡っていった。
「リアム。俺の名前は、リアムだ」
「リアムさん…。私はリーシャです。あの、もしよかったら、今夜、私の家に来ませんか? お礼と言っても、たいしたものは出せませんけど…」
 リーシャの申し出に、俺は迷わずうなずいた。
 この村で生きていこう。そして、この【神の万年筆】の力で、この村を、リーシャや村人たちが心から笑って暮らせる場所にしてみせる。
 俺の新たな目標が決まった瞬間だった。それは、勇者になることよりも、大金持ちになることよりも、ずっと価値のあることのように思えた。
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