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第1話「鑑定スキルと追放令嬢」
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「うーん、やっぱりこの土じゃジャガイモもどきの育ちが悪いな……」
俺、カインは目の前の畑の土を手に取り、眉をひそめた。さらさらと指の間からこぼれ落ちていく土は、明らかに栄養が足りていない。
俺の前世は、日本のしがない農家の息子、大地。トラクターの事故であっけなく死んだと思ったら、こんな剣と魔法のファンタジー世界に転生していた。神様っぽい光の玉に「新しい世界で好きに生きるがいい。オマケもつけておこう」とか言われて授かったのが、この【万物鑑定】スキルだ。
【痩せた土:土壌改良が必要。腐葉土や家畜の糞を混ぜ込むことで、保水力と栄養価が向上する】
脳内に直接響く、無機質なテキスト。これが俺のスキル。一見地味だが、農業をする上ではこれ以上ない神スキルだった。おかげで、この貧しい村でもなんとか食いつなげている。
「カイン、また畑と睨めっこしてるの?」
声をかけてきたのは、村長の娘のアンナだ。快活な笑顔が可愛い、俺の幼馴染。
「ああ。もう少し収穫量を上げたいんだけど、なかなかうまくいかなくてさ」
「あなたのおかげで、うちの村の食卓はすっかり豊かになったじゃない。あまり根を詰めすぎないでよ」
アンナの言う通り、俺が転生してから数年、鑑定スキルを駆使して作物の品種改良や効率的な栽培方法を村に広めてきた。昔は黒パンと塩気の強いスープだけだった食卓が、今では色とりどりの野菜が並ぶようになった。
それでも、俺にはどうしても叶えたい夢があった。
それは、前世でこよなく愛した、あの料理――『すき焼き』をこの世界で再現することだ。
甘辛い割り下が染み込んだ柔らかい牛肉。シャキシャキのネギに、味の染みた焼き豆腐としらたき。そして、それらを溶き卵にくぐらせて口いっぱいに頬張る、あの至福の瞬間。
(牛肉、ネギ、春菊、豆腐、しらたき、醤油、砂糖、みりん、卵……道のりは果てしなく遠いな)
ため息をついた、その時だった。
***
村の入り口がにわかに騒がしくなった。
村人たちが遠巻きに何かを噂している。その中心にいたのは、豪華だが所々が泥で汚れた馬車と、横柄な態度の騎士たち。そして、その騎士たちに腕を引かれ、無理やり馬車から降ろされた一人の少女だった。
歳は俺と同じくらいだろうか。陽の光を反射して輝く美しい銀髪に、宝石のような翠の瞳。着ているドレスは上質だが、彼女の表情は疲れと絶望で凍り付いていた。
「本日より、セレスティーナ・フォン・リヒトベルク嬢の身柄をこの村で預かることになった。彼女は我が国を追放された罪人だ。決して村から出すな。もし逃がすようなことがあれば、この村がどうなるか分かっているな?」
騎士は威圧的にそう告げると、少女を突き飛ばし、さっさと馬車で去っていった。
残されたのは、地面に倒れ込んだまま動かない少女と、戸惑う村人たちだけ。
追放された罪人。その言葉に、村人たちの視線が冷たくなる。この厳しい辺境の地では、厄介事はごめんだ。誰もがそう思っているのが空気で分かった。
俺は、思わず彼女に駆け寄った。
「だ、大丈夫か? 立てるか?」
手を差し伸べると、彼女は鋭い視線で俺を睨みつけた。
「……触るな、平民が」
か細いけれど、芯のある声。その瞳には、深い絶望と、それでも折れないプライドが宿っていた。
俺は構わず、彼女の腕に【万物鑑定】を発動させた。
スキルで人を視るのは気が引けるが、何か事情があるのかもしれない。
【名前:セレスティーナ・フォン・リヒトベルク
種族:人間
状態:魔力過多(暴走寸前)、栄養失調、極度の精神的疲労
スキル:豊穣の祝福(未覚醒)
詳細:リヒトベルク公爵家令嬢。強大すぎる魔力を制御できず、周囲に魔力をまき散らしてしまう体質。そのせいで植物が異常成長したり、小動物が寄り付かなくなったりしたため、「呪われた令嬢」として忌み嫌われ、無実の罪を着せられて追放された。彼女の魔力は本来、大地を豊かにする祝福の力だが、本人も周囲もそれに気づいていない】
――なんだ、これ。
呪いなんかじゃない。むしろ、とんでもない祝福じゃないか。
魔力過多で暴走寸前? だからあんなに消耗しているのか。
俺は彼女の瞳をまっすぐ見つめ返した。
「あんた、呪われてなんかないぞ」
「……何を知ったような口を」
セレスティーナは、俺の手を振り払おうとする。だが、その力は弱々しかった。
「俺には分かる。あんたの力は、きっとすごい力だ。使い方を間違えてるだけだ」
「戯言を……!」
信じられないのも無理はない。ずっと呪いだと言われ続けてきたんだろうから。
でも、俺には確信があった。この出会いは、運命だと。
俺の鑑定スキルと、彼女の『豊穣の祝福』。この二つが合わされば、俺の夢が、そしてこの村の未来が、大きく変わるかもしれない。
「とりあえず、腹が減ってるだろ。うちに来いよ。温かいスープくらいならご馳走する」
俺はもう一度、今度はもっと優しく手を差し伸べた。
セレスティーナはしばらく俺の手と顔を交互に見ていたが、やがて諦めたように、小さく震えるその手で、俺の手を掴んだ。
冷たくて、か弱い手だった。
この手で、とんでもない奇跡を起こせるなんて、まだ誰も知らない。俺と、俺のスキルだけが、その可能性をはっきりと視ていた。
こうして、俺と追放令嬢セレスティーナの、奇妙な共同生活が始まった。
俺、カインは目の前の畑の土を手に取り、眉をひそめた。さらさらと指の間からこぼれ落ちていく土は、明らかに栄養が足りていない。
俺の前世は、日本のしがない農家の息子、大地。トラクターの事故であっけなく死んだと思ったら、こんな剣と魔法のファンタジー世界に転生していた。神様っぽい光の玉に「新しい世界で好きに生きるがいい。オマケもつけておこう」とか言われて授かったのが、この【万物鑑定】スキルだ。
【痩せた土:土壌改良が必要。腐葉土や家畜の糞を混ぜ込むことで、保水力と栄養価が向上する】
脳内に直接響く、無機質なテキスト。これが俺のスキル。一見地味だが、農業をする上ではこれ以上ない神スキルだった。おかげで、この貧しい村でもなんとか食いつなげている。
「カイン、また畑と睨めっこしてるの?」
声をかけてきたのは、村長の娘のアンナだ。快活な笑顔が可愛い、俺の幼馴染。
「ああ。もう少し収穫量を上げたいんだけど、なかなかうまくいかなくてさ」
「あなたのおかげで、うちの村の食卓はすっかり豊かになったじゃない。あまり根を詰めすぎないでよ」
アンナの言う通り、俺が転生してから数年、鑑定スキルを駆使して作物の品種改良や効率的な栽培方法を村に広めてきた。昔は黒パンと塩気の強いスープだけだった食卓が、今では色とりどりの野菜が並ぶようになった。
それでも、俺にはどうしても叶えたい夢があった。
それは、前世でこよなく愛した、あの料理――『すき焼き』をこの世界で再現することだ。
甘辛い割り下が染み込んだ柔らかい牛肉。シャキシャキのネギに、味の染みた焼き豆腐としらたき。そして、それらを溶き卵にくぐらせて口いっぱいに頬張る、あの至福の瞬間。
(牛肉、ネギ、春菊、豆腐、しらたき、醤油、砂糖、みりん、卵……道のりは果てしなく遠いな)
ため息をついた、その時だった。
***
村の入り口がにわかに騒がしくなった。
村人たちが遠巻きに何かを噂している。その中心にいたのは、豪華だが所々が泥で汚れた馬車と、横柄な態度の騎士たち。そして、その騎士たちに腕を引かれ、無理やり馬車から降ろされた一人の少女だった。
歳は俺と同じくらいだろうか。陽の光を反射して輝く美しい銀髪に、宝石のような翠の瞳。着ているドレスは上質だが、彼女の表情は疲れと絶望で凍り付いていた。
「本日より、セレスティーナ・フォン・リヒトベルク嬢の身柄をこの村で預かることになった。彼女は我が国を追放された罪人だ。決して村から出すな。もし逃がすようなことがあれば、この村がどうなるか分かっているな?」
騎士は威圧的にそう告げると、少女を突き飛ばし、さっさと馬車で去っていった。
残されたのは、地面に倒れ込んだまま動かない少女と、戸惑う村人たちだけ。
追放された罪人。その言葉に、村人たちの視線が冷たくなる。この厳しい辺境の地では、厄介事はごめんだ。誰もがそう思っているのが空気で分かった。
俺は、思わず彼女に駆け寄った。
「だ、大丈夫か? 立てるか?」
手を差し伸べると、彼女は鋭い視線で俺を睨みつけた。
「……触るな、平民が」
か細いけれど、芯のある声。その瞳には、深い絶望と、それでも折れないプライドが宿っていた。
俺は構わず、彼女の腕に【万物鑑定】を発動させた。
スキルで人を視るのは気が引けるが、何か事情があるのかもしれない。
【名前:セレスティーナ・フォン・リヒトベルク
種族:人間
状態:魔力過多(暴走寸前)、栄養失調、極度の精神的疲労
スキル:豊穣の祝福(未覚醒)
詳細:リヒトベルク公爵家令嬢。強大すぎる魔力を制御できず、周囲に魔力をまき散らしてしまう体質。そのせいで植物が異常成長したり、小動物が寄り付かなくなったりしたため、「呪われた令嬢」として忌み嫌われ、無実の罪を着せられて追放された。彼女の魔力は本来、大地を豊かにする祝福の力だが、本人も周囲もそれに気づいていない】
――なんだ、これ。
呪いなんかじゃない。むしろ、とんでもない祝福じゃないか。
魔力過多で暴走寸前? だからあんなに消耗しているのか。
俺は彼女の瞳をまっすぐ見つめ返した。
「あんた、呪われてなんかないぞ」
「……何を知ったような口を」
セレスティーナは、俺の手を振り払おうとする。だが、その力は弱々しかった。
「俺には分かる。あんたの力は、きっとすごい力だ。使い方を間違えてるだけだ」
「戯言を……!」
信じられないのも無理はない。ずっと呪いだと言われ続けてきたんだろうから。
でも、俺には確信があった。この出会いは、運命だと。
俺の鑑定スキルと、彼女の『豊穣の祝福』。この二つが合わされば、俺の夢が、そしてこの村の未来が、大きく変わるかもしれない。
「とりあえず、腹が減ってるだろ。うちに来いよ。温かいスープくらいならご馳走する」
俺はもう一度、今度はもっと優しく手を差し伸べた。
セレスティーナはしばらく俺の手と顔を交互に見ていたが、やがて諦めたように、小さく震えるその手で、俺の手を掴んだ。
冷たくて、か弱い手だった。
この手で、とんでもない奇跡を起こせるなんて、まだ誰も知らない。俺と、俺のスキルだけが、その可能性をはっきりと視ていた。
こうして、俺と追放令嬢セレスティーナの、奇妙な共同生活が始まった。
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