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第7章:凋落する勇者
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その頃、王都の勇者ガイウス・ブレイブハートは、焦りの淵にいた。
アルトを追放してからというもの、何もかもが上手くいかない。「太陽の槍」は、ダンジョンの浅い階層ですら苦戦を強いられていた。
「くそっ!また罠か!」
ガイウスは、足に刺さった毒矢を引き抜き、悪態をついた。アルトがいれば、この手の隠し罠の存在を事前に「物語」から察知できた。彼のポエムと罵っていた忠告が、どれほど貴重だったか。今になって骨身に染みていた。
「ガイウス、この宝箱もダメだ。開けたら呪いの霧が噴き出して、騎士のダントンが三日も動けなくなった」
パーティーの弓使いが報告する。以前なら、アルトが「この箱からは邪悪な気配がする」と言って、未然に被害を防いでくれていた。
彼らは、アルトのスキルの本質を何も理解していなかったのだ。戦闘力やステータス鑑定能力がないという一点だけで、「役立たず」の烙印を押した。だが、パーティーの生命線とも言えるリスク管理は、すべてアルトの「物語鑑定」に依存していたのだ。
ギルドからの評価は急落し、依頼も減った。高ランクのパーティーからは嘲笑され、かつての栄光は見る影もない。メンバーの不満は募り、ついに離反者まで出始めた。
「なぜだ……!俺は【勇者】だぞ!大陸最強のパーティーリーダーだったはずだ!」
自室で荒れるガイウスの耳に、街で囁かれる噂が入ってきた。
「おい、聞いたか?辺境のルーンっていう寂れた街に、とんでもない鑑定士がいるらしいぜ」
「ああ、どんな呪いのアイテムも浄化しちまうって話だろ?ガラクタ同然の剣を、伝説級の武具に変えちまったとか」
辺境の街。鑑定士。そのキーワードが、ガイウスの脳裏にある男の顔を浮かび上がらせた。
「……まさか」
ガイウスは部下に命じ、その鑑定士の素性を徹底的に調べさせた。結果は、彼の最悪の予想を肯定するものだった。
「報告します!その鑑定士の名は、アルト・グレイラット。間違いなく、我々が追放したあのアルトです!」
報告を聞いた瞬間、ガイウスの顔が怒りと屈辱に歪んだ。
自分がゴミのように捨てた男が、辺境で「伝説の鑑定士」として名を馳せ、成功を収めている。それは、ガイウスのプライドを粉々に打ち砕くには十分すぎる事実だった。
(あいつの力は、俺のものだったはずだ……!)
嫉妬の炎が、彼の心を黒く塗りつ潰していく。
(そうだ、あいつの力は、俺のような【勇者】が使ってこそ意味がある。あんな辺境でくすぶらせておくなど、宝の持ち腐れだ)
歪んだ思考が、正当化の衣を纏う。
「……ルーンの街へ行くぞ。俺の『所有物』を、取り返しにな」
ガイウス・ブレイブハートの瞳から、かつての英雄の輝きは完全に消え失せていた。
アルトを追放してからというもの、何もかもが上手くいかない。「太陽の槍」は、ダンジョンの浅い階層ですら苦戦を強いられていた。
「くそっ!また罠か!」
ガイウスは、足に刺さった毒矢を引き抜き、悪態をついた。アルトがいれば、この手の隠し罠の存在を事前に「物語」から察知できた。彼のポエムと罵っていた忠告が、どれほど貴重だったか。今になって骨身に染みていた。
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彼らは、アルトのスキルの本質を何も理解していなかったのだ。戦闘力やステータス鑑定能力がないという一点だけで、「役立たず」の烙印を押した。だが、パーティーの生命線とも言えるリスク管理は、すべてアルトの「物語鑑定」に依存していたのだ。
ギルドからの評価は急落し、依頼も減った。高ランクのパーティーからは嘲笑され、かつての栄光は見る影もない。メンバーの不満は募り、ついに離反者まで出始めた。
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「おい、聞いたか?辺境のルーンっていう寂れた街に、とんでもない鑑定士がいるらしいぜ」
「ああ、どんな呪いのアイテムも浄化しちまうって話だろ?ガラクタ同然の剣を、伝説級の武具に変えちまったとか」
辺境の街。鑑定士。そのキーワードが、ガイウスの脳裏にある男の顔を浮かび上がらせた。
「……まさか」
ガイウスは部下に命じ、その鑑定士の素性を徹底的に調べさせた。結果は、彼の最悪の予想を肯定するものだった。
「報告します!その鑑定士の名は、アルト・グレイラット。間違いなく、我々が追放したあのアルトです!」
報告を聞いた瞬間、ガイウスの顔が怒りと屈辱に歪んだ。
自分がゴミのように捨てた男が、辺境で「伝説の鑑定士」として名を馳せ、成功を収めている。それは、ガイウスのプライドを粉々に打ち砕くには十分すぎる事実だった。
(あいつの力は、俺のものだったはずだ……!)
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(そうだ、あいつの力は、俺のような【勇者】が使ってこそ意味がある。あんな辺境でくすぶらせておくなど、宝の持ち腐れだ)
歪んだ思考が、正当化の衣を纏う。
「……ルーンの街へ行くぞ。俺の『所有物』を、取り返しにな」
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