役立たずと村を追い出された俺が、現代の農業知識を駆使して砂漠を緑に変え、伝説の聖女に溺愛されながら世界一の食料大国を作るまで

黒崎隼人

文字の大きさ
2 / 11

第1話「役立たずの異邦人」

しおりを挟む
 見慣れない、三つの月が夜空に浮かんでいた。
「……どこだ、ここ」
 俺、藤堂拓海は、土の匂いがやけに濃い草原の上で、呆然と呟いた。さっきまで、実家の畑でジャガイモの収穫をしていたはずだ。軽トラのラジオから流れる演歌をBGMに、汗を流していた。それがどうして、こんなファンタジー映画のセットみたいな場所にいるのか。
 状況が全く飲み込めないまま数時間。夜の冷気と空腹に耐えかねて歩き出すと、か細い灯りが見えた。藁と土壁で作られたような、素朴な家々が集まる小さな村。藁にもすがる思いで、一番大きな家の扉を叩いた。
 出てきたのは、屈強な髭面の男だった。俺の姿を見るなり、眉間に深いシワを刻む。
「なんだ、お前は。旅人か?こんな夜更けに」
「あ、あの、道に迷ってしまって……。一晩でいいので、どこか休ませてはもらえませんか」
 男は俺を値踏みするように上から下まで眺めると、ため息混じりに家の中へ招き入れた。彼がこのミスト村の村長、ギルマスさんだと知ったのは、硬い黒パンと塩辛い干し肉を恵んでもらった後のことだった。
 事情を話しても、もちろん信じてもらえるわけがない。「別の世界から来た」なんて、頭がおかしいと思われるのが関の山だ。記憶喪失の旅人ということにして、しばらく村に置いてもらうことになった。
 しかし、異世界は甘くなかった。この村はひどく貧しい。畑を見せてもらったが、土は痩せこけ、作物はひょろひょろと頼りなく育っているだけ。石が多く、色も薄い。これじゃあ、まともな収穫は期待できないだろう。
「うちの村は土地に恵まれなくてな。毎年、冬を越すのがやっとだ」
 ギルマスさんは悔しそうに言った。
 何か手伝えることはないか。俺には、じいちゃんから叩き込まれた農業の知識がある。この状況、見て見ぬふりはできなかった。
「あの、俺、少しだけ畑仕事の心得があります。何か手伝わせてください」
「ほう?お前のようなひょろっとした男が?」
 村人たちの視線は冷ややかだった。よそ者で、得体の知れない俺が信頼されるはずもない。それでも、何かせずにはいられなかった。
 俺はまず、土の改良から始めようと考えた。雑草や家畜の糞、調理で出た野菜くずなどを集めて、堆肥を作ることを提案した。
「なんだそりゃ?ゴミを集めてどうするんだ」
「腐ったものを畑に入れたら、作物まで腐っちまう!」
「そんなことをしたら、土地が病気になっちまうぞ!」
 村人たちは口々に罵り、誰も協力してくれない。それどころか、「役立たずの異邦人が、余計なことをするな」と石を投げられそうになる始末だ。
 そんな中、ただ一人、俺の話に耳を傾けてくれる人がいた。
「あの……それ、どういう仕組みなんですか?」
 村長の娘のリナさんだった。亜麻色の髪を揺らし、心配そうに俺を見つめている。
 俺は彼女に、堆肥が土の中の微生物を増やし、作物が育ちやすいふかふかの土を作ることを、できるだけ分かりやすく説明した。日本の農業では当たり前の知識だ。
「すごい……!そんな方法があったんですね!」
 リナさんは目を輝かせた。彼女のその純粋な反応が、孤立無援だった俺の心の支えになった。
「もし、誰も手伝ってくれないなら、私が手伝います!父さんにも、私が話してみますから!」
 彼女はそう言って、俺の汚れた手をぎゅっと握りしめてくれた。その温もりが、冷え切った心にじんわりと染み渡っていく。
 役立たずの異邦人。それが、この世界での俺の最初の呼び名だった。だが、今は違う。たった一人でも、信じてくれる人がいる。それだけで、まだ頑張れる気がした。俺はリナさんの手を取り、力強く頷いた。この村を、この世界で俺が最初に根を下ろす場所にするために。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!

向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。 土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。 とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。 こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。 土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど! 一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

最安もふもふ三匹に名前をつける変な冒険者ですが、この子たちの力を引き出せるのは私だけです ~精霊偏愛録~

Lihito
ファンタジー
精霊に名前をつける冒険者は、たぶん私だけだ。 うさぎのノル、狐のルゥ、モモンガのピノ。三匹とも最安の契約で、手のひらに乗るサイズ。周りからは「手乗り精霊で何ができる」と笑われている。 でも、この子たちへの聞き方を変えるだけで、返ってくる答えはまるで違う。三匹の情報を重ねれば、上位の精霊一体では見えないものが見える。 上位パーティが三度失敗した大型討伐。私は戦わない。ノルに地中を、ピノに上空を、ルゥに地上を調べさせて、答えを組み上げる。 ——この世界の精霊の使い方、みんな間違ってませんか?

カタコト精霊は聞き方ひとつで最強になりました~過労死転生、もふもふ狐とのんびり暮らしたいだけなのに~

Lihito
ファンタジー
過労死の記憶だけを残して異世界に転生したミラの願いはひとつ。——穏やかに暮らすこと。 辺境の村で小さな畑を耕し、膝の上で眠るカタコトの狐を撫でる毎日。うちの子は最弱の第一段階。でも、場所を絞って一つずつ聞けば、誰よりも正確に答えてくれる。 のんびり暮らしたいだけなのに、気づけば畑は村一番の出来になり、周囲が病害で全滅しかけた年にはうちの村だけが無傷で残ってしまった。 ——面倒なことになってきた。でもまあ、膝の上のもふもふが温かくて、幼馴染の朝ごはんがおいしいうちは、もう少しだけ。

辺境薬術師のポーションは至高 騎士団を追放されても、魔法薬がすべてを解決する

鶴井こう
ファンタジー
【書籍化しました】 余分にポーションを作らせ、横流しして金を稼いでいた王国騎士団第15番隊は、俺を追放した。 いきなり仕事を首にされ、隊を後にする俺。ひょんなことから、辺境伯の娘の怪我を助けたことから、辺境の村に招待されることに。 一方、モンスターたちのスタンピードを抑え込もうとしていた第15番隊。 しかしポーションの数が圧倒的に足りず、品質が低いポーションで回復もままならず、第15番隊の守備していた拠点から陥落し、王都は徐々にモンスターに侵略されていく。 俺はもふもふを拾ったり農地改革したり辺境の村でのんびりと過ごしていたが、徐々にその腕を買われて頼りにされることに。功績もステータスに表示されてしまい隠せないので、褒賞は甘んじて受けることにしようと思う。

追放された聖女は、辺境で狼(もふもふ)とカフェを開く

橘 あやめ
ファンタジー
――もう黙らない。追放された聖女は、もふもふの白狼と温かい居場所を見つける―― 十二年間、大聖堂で祈り続けた。 病人を癒し、呪いを祓い、飢饉のときは畑に恵みの光を降ろす。 その全てを、妹の嘘泣きひとつで奪われた。 献金横領の濡れ衣を着せられ、聖女の座を追われたアーシャ。 荷物は革鞄ひとつ。行く宛てもない。 たどり着いた辺境の町で、アーシャは小さなハーブティーのカフェを開くことに。 看板は小枝の炭で手作り。 焼き菓子は四度目でようやく成功。 常連もできて、少しずつ「自分の居場所」が生まれていく――。 そんなカフェに夜ごと現れるのは、月光のように美しい銀色の狼。 もふもふで、不愛想で、でも何かとアーシャのことを助けてくれる。 やがて、穏やかな日々を壊しに――妹が現れる。 ※追放聖女のカフェ開業もの(もふもふつき)です!ハッピーエンド!

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

処理中です...