役立たずと村を追い出された俺が、現代の農業知識を駆使して砂漠を緑に変え、伝説の聖女に溺愛されながら世界一の食料大国を作るまで

黒崎隼人

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第3話「小さな奇跡と、村人の変化」

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 ポチが仲間に加わってから、俺たちの畑は見違えるように活気づいた。
 堆肥が完成し、それを畑にたっぷりとすき込む。ポチが畑を駆け回ると、地面が淡い光を帯び、土は見事にふかふかの黒土へと生まれ変わった。これぞ、作物が喜ぶ理想の土壌だ。
「すごい……。うちの村の畑じゃないみたいです」
 リナさんは、生まれ変わった土を両手ですくい上げ、感嘆の声を漏らした。
 俺は日本から持ってきた知識を総動員した。作物の種類ごとに畝(うね)の高さや幅を変え、水はけを調整する。異なる種類の作物を一緒に植える「コンパニオンプランツ」で、病気や害虫を防ぐ。どれもこの世界では誰も知らない、魔法のような技術だった。
 そして、種をまいてから数週間後。俺たちの畑で、最初の奇跡が起きた。
「タ、タクミさん!これ……!」
 リナさんの声に振り向くと、彼女は目を丸くして、一本の野菜を指さしていた。それは、この世界で「ポルポ」と呼ばれている、大根に似た根菜だった。しかし、彼女が指さす一本は、明らかに様子が違う。通常、大人の腕くらいの太さのものが、赤ん坊の胴体ほどもある巨大なサイズに育っていたのだ。
 抜いてみると、ずっしりと重い。二人で力を合わせ、ようやく引き抜くことができた。
「でかい……!」
 俺も思わず声を上げた。土壌改良とポチの力が合わされば、これほどのものができるとは。
 その巨大ポルポが、村人たちの態度を変えるきっかけとなった。
 噂はあっという間に広まった。最初は「まぐれだ」「何か妖術でも使ったに違いない」と遠巻きに見ていた村人たちも、俺たちの畑に次々と現れる規格外の作物を見て、次第にその考えを改めていった。
 葉は青々と茂り、実は大きく、色つやもいい。素人目に見ても、他の畑とは全く違うことが一目瞭然だった。
 ある日、一人の若い男が、おずおずと話しかけてきた。
「あ、あの……異邦人さん。どうして、あんたの畑だけそんなに作物が育つんだ?」
 彼は、最初に俺に「役立たず」と罵った男の一人だった。
 俺は待ってましたとばかりに、堆肥作りから畝の立て方まで、自分がやってきたことを丁寧に説明した。
「ゴミを……発酵させる……?」
 男はきょとんとしていたが、目の前にある結果が何よりの証拠だ。
「もしよかったら、あんたの畑でもやってみないか?手伝うぜ」
 俺がそう言うと、男はしばらくためらった後、深々と頭を下げた。
「……頼む!俺にも教えてくれ!」
 それを皮切りに、一人、また一人と、俺に教えを乞う村人が増え始めた。俺は自分の畑作業の合間を縫って、村中の畑を回り、堆肥作りや土壌改良の指導をした。
 もちろん、最初はうまくいかないこともあった。だが、リナさんやポチも手伝ってくれ、村全体で農業改革に取り組むという、不思議な一体感が生まれていった。
 変化は、食卓にも現れた。
 収穫したばかりの新鮮な野菜を使って、俺は簡単な料理を振る舞った。ただ塩で茹でただけのジャガイモ、薄切りにして焼いたポルポ。それだけなのに、村人たちは「こんなに甘い野菜は初めてだ!」「味が濃い!」と、次々と歓声が上がった。
「素材がいいと、シンプルな調理法が一番美味いんだよ」
 俺は得意げに笑った。これも、じいちゃんの受け売りだけど。
 特に、俺が即席で作った「ポテトサラダ」は、村に衝撃を与えた。茹でて潰したジャガイモに、刻んだ野菜と、鳥の卵と油で作ったマヨネーズもどきを和えただけの簡単な料理。だが、この世界にはない調理法と味付けに、子供も大人も夢中になった。
「タクミ!なんだこの美味い食い物は!?」
 ギルマスさんまでが、髭にマヨネーズをつけながら、興奮気味に叫んでいる。
 小さな奇跡は、人々の胃袋を掴み、心を解きほぐしていった。
 役立たずの異邦人。そう呼ばれていた俺は、いつしか村人たちから「タクミ先生」とか「豊穣の神の使い」なんて、少し気恥ずかしい名前で呼ばれるようになっていた。
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