無自覚チートで無双する気はなかったのに、小石を投げたら山が崩れ、クシャミをしたら魔王が滅びた。俺はただ、平穏に暮らしたいだけなんです!

黒崎隼人

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第10章:忍び寄る魔王の影と世界の危機

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 俺が王都で知らず知らずのうちに大改革を成し遂げていた頃、世界には不穏な空気が満ち始めていた。
「報告します!各地で、これまで確認されていなかった強力な魔物が出現!」
「南方の大陸で、火山が一斉に噴火!空が闇に覆われています!」
「古文書によれば、これは……魔王復活の兆し……!」
 王宮の賢者たちが、深刻な顔で議論を交わしている。数千年前、当時の勇者によって封印されたはずの魔王が、長い眠りから覚め、再びこの世界を恐怖に陥れようとしているというのだ。
 魔物の異常な活発化は、その前兆に過ぎない。
「このままでは、世界は魔王軍によって蹂躏され、滅びるだろう……」
 絶望的な空気が、賢者たちの間に広がる。
「待て。一つだけ、希望がある」
 一番年嵩の賢者が、震える手で一枚の予言の石版を指差した。
「『天より堕ちし星、人ならざる力をその身に宿し、世界の理を覆す。彼こそが、闇を払う唯一の光なり』……」
 賢者たちは、一斉にハッとした顔で互いを見合わせた。
 天より堕ちし星。人ならざる力。世界の理を覆す存在。
 それは、まさしく、今の王都にいる一人の男を指し示していた。
「ユウキ殿……!」
「彼ならば、あるいは魔王を……!」
 賢者たちは、藁にもすがる思いで、俺に世界の命運を託すことを決意した。

 その頃、俺はといえば。
「へえ、魔王ですか。RPGみたいで、なんだかワクワクしますね」
 王宮のテラスで、アイリス王女から世界の危機について説明を受けながら、俺は呑気に紅茶を飲んでいた。
 俺にとって魔王なんて、ゲームの中のラスボスみたいな存在だ。現実味がない。
「ワクワクしますね、ではないわ、この朴念仁!世界の存亡がかかっているのだぞ!」
 アイリス王女が、俺の額をピシャリと叩く。最近、彼女の俺に対する態度が、どんどんぞんざいになってきている気がする。
「すみません。でも、俺に何ができるって言うんですか?ただの冒険者ですよ?」
 俺が心底そう思って言うと、横にいたリリアとガレスが深いため息をついた。
「ユウキさん(殿)……ご自分のことを、まだそのように……」
「ユウキ、そなたは自分が何者か、全く理解しておらぬようだな」
 アイリス王女は呆れたように言い、そして真剣な表情で俺の目を見つめた。
「賢者たちの予言は、そなたを指し示している。そなたこそが、この世界を魔王の手から救うことができる、唯一の希望なのだ」
「はあ……」
 なんだか、すごい話になってきた。俺、ただ平凡に暮らしたいだけなんだけどな。
「正直、俺にはそんな大役、務まらないと思いますけど」
「謙遜は聞き飽きた。これは命令だ。勇者ユウキよ、仲間たちと共に、魔王を討伐せよ」
 アイリス王女は、有無を言わせぬ口調でそう告げた。こうして、俺は本人の意思を完全に無視する形で、公式に「勇者」という肩書を与えられてしまった。
 正直なところ、実感は全くない。
「なんだかすごい敵がいるらしいから、倒しに行かないといけないのか」
 俺の認識は、その程度だった。
 しかし、この時初めて、俺は少しだけ、自分の置かれた状況の異常さを自覚し始めていたのかもしれない。元の世界にいた、ただのサラリーマンだった俺が、なぜこんな世界の命運を背負わされているのか。
 まあ、考えても仕方ないか。
 俺は残りの紅茶を飲み干し、立ち上がった。
「分かりました。とりあえず、行ってみますよ。その、魔王がいるっていうところに」
 軽い返事だったが、その一言に、その場にいた全員が救われたような顔をした。
 世界の危機?魔王の復活?
 そんなことより、俺は一緒に旅をしてくれる仲間がいることの方が、よっぽど心強く、そして嬉しかった。
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