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第1話「定義上、これは追放劇の始まりらしい」
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「本日をもって、カイリ・フォン・アルクライトを我がアルクライト家より勘当する。未来永劫、その名を名乗ることも、我が家の敷居をまたぐことも許さん」
荘厳にして壮麗、悪趣味なまでに豪華絢爛な謁見の間で、僕の父親――便宜上そう呼んでおくべき男、アルクライト公爵は、まるで芝居の台詞みたいにそう言い放った。感情の欠片も乗っていない、マニュアルを読み上げるような声だった。
その声を聞きながら、僕は床に敷かれた、やたらと毛足の長い絨毯の模様を数えていた。赤と金の糸で織られた、獅子だか何だかの紋様。17個目の獅子のたてがみの部分に、小さなほつれがあるのを見つけた。
『ああ、あのほつれ、半年くらい前からずっとあるな。誰も気にしないんだろうか。それとも、気にしないんじゃなくて、気づいてすらいないのか。いや、あるいは、気づいた上で放置するという高等戦術か。完璧なものより、少し欠点がある方が愛嬌がある、みたいな』
そんな、心底どうでもいい思考を巡らせていた。だってそうでもしないと、やっていられなかったから。
僕の目の前には、父親だけじゃない。母親、そして僕より2つ年上の兄が、まるで裁判官みたいにずらりと並んでいる。彼らの顔は、能面のように無表情だ。いや、よく見れば、その瞳の奥には侮蔑と、ほんの少しの安堵みたいな色が滲んでいる。
面倒払いができてよかった、と。
出来損ないを処分できてよかった、と。
そう言いたげな顔だった。
まあ、無理もない。この世界において、15歳で授かるスキルこそが、その人間の価値を決定づける。絶対的な指標であり、揺るぎない身分証だ。
アルクライト家は代々、強力な攻撃魔法の使い手を輩出してきたエリート魔術師の家系。炎を操る【紅蓮の支配者】、氷を統べる【絶対零度】、雷を呼び寄せる【万雷の王】。兄のアルフレッドが授かったのは、その中でも特に希少とされる【時空干渉】だった。時間の流れを緩め、空間を歪める、まさに規格外のスキル。
対して、僕が授かったスキルは、【再翻訳(リ・トランスレート)】。
スキルの名前を聞いた鑑定士は首をひねり、父親は眉をひそめ、兄はあからさまに鼻で笑った。
その効果は、「ある言葉を、別の言葉に置き換える」というもの。例えば、頭の中で「リンゴ」を「ミカン」に再翻訳すると、僕が「リンゴ」と言っても、相手には「ミカン」と聞こえる。それだけ。
ただそれだけの、意味不明で、役立たずで、戦闘にも生産にも何の役にも立たない、ゴミみたいなスキル。それが、僕という人間の価値だった。
「カイリ。何か言うことはあるか」
父親が、最後の慈悲とでも言いたげな口調で尋ねる。
僕は絨毯の模様から視線を上げ、彼らの顔を順番に眺めた。誰も僕の目を見ようとはしない。まるで、汚物でも見るかのような視線だ。
『言うこと、ねえ。例えば?「今まで育ててくれてありがとうございました」とか?あるいは「どうか考え直してください、この通りです」と泣いて命乞いでもしろと?冗談じゃない』
僕はゆっくりと立ち上がり、服についた埃を払うふりをした。
「いえ、特に何も。定義上、これは追放劇ということになるんでしょうから、僕はそれに従うだけです」
僕の言葉に、兄の眉がぴくりと動いた。
「カイリ、貴様、その態度は何だ。自分がどういう状況か分かっているのか」
「分かっていますよ、兄さん。僕は出来損ないで、アルクライト家の恥だ。だから、こうして捨てられる。至極真っ当な、論理的な帰結じゃないですか」
僕は笑ってみせた。多分、ひどく歪んだ、醜い笑顔だったと思う。
「まあ、安心してください。僕はもう2度とあなた方の前に姿を現しません。アルクライトの名も使いません。ただのカイリとして、どこかでのたれ死にますから」
「……」
兄は何か言いたげに口を開きかけたが、結局、忌々しげに顔を背けた。父親は、そんな僕の言葉に満足したのか、小さく頷いた。
「よかろう。衛兵、こいつを屋敷から叩き出せ。持ち物は、今着ている服だけで十分だ」
「はっ」
左右に控えていた鎧姿の衛兵が、無言で僕の両腕を掴む。抵抗する気も起きなかった。ただ、引きずられるままに、僕は謁見の間を後にした。
最後に1度だけ振り返ると、母親が初めて僕の方を見ていた。その目に浮かんでいたのは、憐憫でも悲しみでもなく、ただ、得体の知れないものを見るような、そんな冷たい色だった。
『ああ、そっか。僕はもう、息子ですらないんだな』
その事実が、やけにすとんと胸に落ちた。
屋敷の重厚な扉が、僕の背後で無慈悲な音を立てて閉まる。衛兵たちは僕を地面に突き飛ばすと、さっさと門の内側に戻っていった。
僕はしばらくの間、地面に突っ伏したまま、空を眺めていた。貴族街の、切り取られたような四角い空。ついさっきまで僕がいた世界と、今僕がいる世界を隔てる、絶対的な壁。
ポケットを探ると、幸運なことに、銅貨が数枚だけ入っていた。今日の昼食を抜いて、こっそり買ったお菓子の残りだ。こんなことなら、もっと高いお菓子を買っておけばよかった。
『さて、どうしたものか』
立ち上がり、服の汚れを払う。当てもなく歩き出す。貴族街のきらびやかな街並みが、やけに目に痛い。すれ違う人々が、汚れた僕を見て、ひそひそと何かを噂している。その視線が、針のように突き刺さる。
僕には何もない。家も、家族も、金も、そして価値のあるスキルも。
あるのは、この役立たずな【再翻訳】のスキルと、着の身着のままのこの身体だけ。
***
王都の門をくぐり、僕は振り返らなかった。もう、振り返るべき場所など、どこにもないのだから。
日が暮れ、夜になり、また日が昇る。
僕はただひたすら、街道を歩き続けた。時々、親切な行商人の荷馬車に乗せてもらうこともあったが、ほとんどは自分の足で歩いた。
***
銅貨は3日目になくなった。そこからは、地獄だった。
空腹が、身体の内側から僕を蝕んでいく。最初は胃がキリキリと痛むだけだったのが、やがて思考そのものを鈍らせていく。
『ああ、これが飢えか。なるほど、理性が削られていく感じがする。思考が「食べ物」という一点に収束していく。面白い。面白くはないけど』
森に入り、食べられそうな木の実を探したが、知識のない僕に見つけられるはずもなかった。川の水を飲んで腹を膨らませるが、すぐにまた空腹が襲ってくる。
***
追放されてから、1週間が経った頃だろうか。
僕はもう、自分がどこにいるのかも分からなかった。ただ、獣道をふらふらと歩いていた。足は鉛のように重く、視界は霞んでいる。
ごろり、と無様に転んだ。地面に転がっていた、ただの石ころにつまずいて。
「……あ、はは」
乾いた笑いが漏れた。もう、起き上がる気力もなかった。仰向けに倒れたまま、木々の隙間から見える空を見上げる。青い空に、白い雲がゆっくりと流れていく。
『ああ、ここで終わりか。まあ、悪くない終わり方かもしれないな。誰にも看取られず、静かに、世界の部品に還っていく。うん、詩的だ』
空腹で、もう何も考えられない。意識が遠のいていく。
その、本当に最後の瞬間に、ふと、僕のスキル【再翻訳】のことが頭をよぎった。
『役立たずスキル。ゴミスキル。でも、僕に与えられた、たった1つの力。最後に、何か面白いことでもやってみるか』
僕は霞む目で、すぐそばに転がっている石ころを見た。僕をつまずかせた、憎き石ころ。
『例えば、そうだ。「石ころ」を、「焼きたてのパン」に……再翻訳』
スキルを発動する。いつもなら、ただ頭の中で言葉が置き換わるだけ。何の現象も起きないはずだった。
なのに。
ふわり、と。
香ばしい、小麦の焼ける匂いが鼻をくすぐった。
『……幻覚、か。いよいよだな』
しかし、匂いは消えない。それどころか、どんどん強くなっていく。
僕は最後の力を振り絞って、首を動かした。
そして、見た。
さっきまでそこにあったはずの、灰色で、冷たくて、無価値な石ころが、こんがりと焼き色のついた、ほかほかと湯気の立つ、丸いパンに変わっているのを。
「…………は?」
声にならない声が、喉から漏れた。
何かの間違いだ。疲労と空腹が見せる、都合のいい夢だ。
僕は震える手で、そのパンを掴んだ。
温かい。柔らかい。間違いなく、パンの感触だ。
おそるおそる、それを口に運ぶ。
ちぎって、口の中に入れる。
「……う、ま……」
サクッとした歯ごたえの後に、ふんわりとした甘みが口いっぱいに広がる。
涙が、ぼろぼろとこぼれた。空腹のせいか、安堵のせいか、それとも別の何かなのか、自分でも分からなかった。
僕は夢中で、そのパンをむさぼり食った。
今まで食べたどんなご馳走よりも、それは美味しかった。
胃に食べ物が収まると、鈍っていた思考が少しずつクリアになっていく。
そして、ようやく、僕は理解した。
『まさか。僕のスキルは、言葉を置き換えるだけじゃなかったのか?「石ころ」という『存在』そのものを、「パン」という『存在』に、その『概念』ごと書き換えた?』
だとしたら。
だとしたら、なんだ?
この力は。
この、世界中の誰もがゴミだと笑ったスキルは、本当は。
『世界の理そのものに干渉する、とんでもない力なんじゃないのか……?』
僕は、自分の手のひらを見つめた。
追放され、全てを失ったと思っていたこの手の中に、とてつもない可能性が眠っていることに、今、ようやく気づいたのだ。
まあ、定義上、これは追放劇の始まりだったのかもしれない。
でも、あるいは。
これは、僕という人間の、本当の人生の始まり、なのかもしれない。
荘厳にして壮麗、悪趣味なまでに豪華絢爛な謁見の間で、僕の父親――便宜上そう呼んでおくべき男、アルクライト公爵は、まるで芝居の台詞みたいにそう言い放った。感情の欠片も乗っていない、マニュアルを読み上げるような声だった。
その声を聞きながら、僕は床に敷かれた、やたらと毛足の長い絨毯の模様を数えていた。赤と金の糸で織られた、獅子だか何だかの紋様。17個目の獅子のたてがみの部分に、小さなほつれがあるのを見つけた。
『ああ、あのほつれ、半年くらい前からずっとあるな。誰も気にしないんだろうか。それとも、気にしないんじゃなくて、気づいてすらいないのか。いや、あるいは、気づいた上で放置するという高等戦術か。完璧なものより、少し欠点がある方が愛嬌がある、みたいな』
そんな、心底どうでもいい思考を巡らせていた。だってそうでもしないと、やっていられなかったから。
僕の目の前には、父親だけじゃない。母親、そして僕より2つ年上の兄が、まるで裁判官みたいにずらりと並んでいる。彼らの顔は、能面のように無表情だ。いや、よく見れば、その瞳の奥には侮蔑と、ほんの少しの安堵みたいな色が滲んでいる。
面倒払いができてよかった、と。
出来損ないを処分できてよかった、と。
そう言いたげな顔だった。
まあ、無理もない。この世界において、15歳で授かるスキルこそが、その人間の価値を決定づける。絶対的な指標であり、揺るぎない身分証だ。
アルクライト家は代々、強力な攻撃魔法の使い手を輩出してきたエリート魔術師の家系。炎を操る【紅蓮の支配者】、氷を統べる【絶対零度】、雷を呼び寄せる【万雷の王】。兄のアルフレッドが授かったのは、その中でも特に希少とされる【時空干渉】だった。時間の流れを緩め、空間を歪める、まさに規格外のスキル。
対して、僕が授かったスキルは、【再翻訳(リ・トランスレート)】。
スキルの名前を聞いた鑑定士は首をひねり、父親は眉をひそめ、兄はあからさまに鼻で笑った。
その効果は、「ある言葉を、別の言葉に置き換える」というもの。例えば、頭の中で「リンゴ」を「ミカン」に再翻訳すると、僕が「リンゴ」と言っても、相手には「ミカン」と聞こえる。それだけ。
ただそれだけの、意味不明で、役立たずで、戦闘にも生産にも何の役にも立たない、ゴミみたいなスキル。それが、僕という人間の価値だった。
「カイリ。何か言うことはあるか」
父親が、最後の慈悲とでも言いたげな口調で尋ねる。
僕は絨毯の模様から視線を上げ、彼らの顔を順番に眺めた。誰も僕の目を見ようとはしない。まるで、汚物でも見るかのような視線だ。
『言うこと、ねえ。例えば?「今まで育ててくれてありがとうございました」とか?あるいは「どうか考え直してください、この通りです」と泣いて命乞いでもしろと?冗談じゃない』
僕はゆっくりと立ち上がり、服についた埃を払うふりをした。
「いえ、特に何も。定義上、これは追放劇ということになるんでしょうから、僕はそれに従うだけです」
僕の言葉に、兄の眉がぴくりと動いた。
「カイリ、貴様、その態度は何だ。自分がどういう状況か分かっているのか」
「分かっていますよ、兄さん。僕は出来損ないで、アルクライト家の恥だ。だから、こうして捨てられる。至極真っ当な、論理的な帰結じゃないですか」
僕は笑ってみせた。多分、ひどく歪んだ、醜い笑顔だったと思う。
「まあ、安心してください。僕はもう2度とあなた方の前に姿を現しません。アルクライトの名も使いません。ただのカイリとして、どこかでのたれ死にますから」
「……」
兄は何か言いたげに口を開きかけたが、結局、忌々しげに顔を背けた。父親は、そんな僕の言葉に満足したのか、小さく頷いた。
「よかろう。衛兵、こいつを屋敷から叩き出せ。持ち物は、今着ている服だけで十分だ」
「はっ」
左右に控えていた鎧姿の衛兵が、無言で僕の両腕を掴む。抵抗する気も起きなかった。ただ、引きずられるままに、僕は謁見の間を後にした。
最後に1度だけ振り返ると、母親が初めて僕の方を見ていた。その目に浮かんでいたのは、憐憫でも悲しみでもなく、ただ、得体の知れないものを見るような、そんな冷たい色だった。
『ああ、そっか。僕はもう、息子ですらないんだな』
その事実が、やけにすとんと胸に落ちた。
屋敷の重厚な扉が、僕の背後で無慈悲な音を立てて閉まる。衛兵たちは僕を地面に突き飛ばすと、さっさと門の内側に戻っていった。
僕はしばらくの間、地面に突っ伏したまま、空を眺めていた。貴族街の、切り取られたような四角い空。ついさっきまで僕がいた世界と、今僕がいる世界を隔てる、絶対的な壁。
ポケットを探ると、幸運なことに、銅貨が数枚だけ入っていた。今日の昼食を抜いて、こっそり買ったお菓子の残りだ。こんなことなら、もっと高いお菓子を買っておけばよかった。
『さて、どうしたものか』
立ち上がり、服の汚れを払う。当てもなく歩き出す。貴族街のきらびやかな街並みが、やけに目に痛い。すれ違う人々が、汚れた僕を見て、ひそひそと何かを噂している。その視線が、針のように突き刺さる。
僕には何もない。家も、家族も、金も、そして価値のあるスキルも。
あるのは、この役立たずな【再翻訳】のスキルと、着の身着のままのこの身体だけ。
***
王都の門をくぐり、僕は振り返らなかった。もう、振り返るべき場所など、どこにもないのだから。
日が暮れ、夜になり、また日が昇る。
僕はただひたすら、街道を歩き続けた。時々、親切な行商人の荷馬車に乗せてもらうこともあったが、ほとんどは自分の足で歩いた。
***
銅貨は3日目になくなった。そこからは、地獄だった。
空腹が、身体の内側から僕を蝕んでいく。最初は胃がキリキリと痛むだけだったのが、やがて思考そのものを鈍らせていく。
『ああ、これが飢えか。なるほど、理性が削られていく感じがする。思考が「食べ物」という一点に収束していく。面白い。面白くはないけど』
森に入り、食べられそうな木の実を探したが、知識のない僕に見つけられるはずもなかった。川の水を飲んで腹を膨らませるが、すぐにまた空腹が襲ってくる。
***
追放されてから、1週間が経った頃だろうか。
僕はもう、自分がどこにいるのかも分からなかった。ただ、獣道をふらふらと歩いていた。足は鉛のように重く、視界は霞んでいる。
ごろり、と無様に転んだ。地面に転がっていた、ただの石ころにつまずいて。
「……あ、はは」
乾いた笑いが漏れた。もう、起き上がる気力もなかった。仰向けに倒れたまま、木々の隙間から見える空を見上げる。青い空に、白い雲がゆっくりと流れていく。
『ああ、ここで終わりか。まあ、悪くない終わり方かもしれないな。誰にも看取られず、静かに、世界の部品に還っていく。うん、詩的だ』
空腹で、もう何も考えられない。意識が遠のいていく。
その、本当に最後の瞬間に、ふと、僕のスキル【再翻訳】のことが頭をよぎった。
『役立たずスキル。ゴミスキル。でも、僕に与えられた、たった1つの力。最後に、何か面白いことでもやってみるか』
僕は霞む目で、すぐそばに転がっている石ころを見た。僕をつまずかせた、憎き石ころ。
『例えば、そうだ。「石ころ」を、「焼きたてのパン」に……再翻訳』
スキルを発動する。いつもなら、ただ頭の中で言葉が置き換わるだけ。何の現象も起きないはずだった。
なのに。
ふわり、と。
香ばしい、小麦の焼ける匂いが鼻をくすぐった。
『……幻覚、か。いよいよだな』
しかし、匂いは消えない。それどころか、どんどん強くなっていく。
僕は最後の力を振り絞って、首を動かした。
そして、見た。
さっきまでそこにあったはずの、灰色で、冷たくて、無価値な石ころが、こんがりと焼き色のついた、ほかほかと湯気の立つ、丸いパンに変わっているのを。
「…………は?」
声にならない声が、喉から漏れた。
何かの間違いだ。疲労と空腹が見せる、都合のいい夢だ。
僕は震える手で、そのパンを掴んだ。
温かい。柔らかい。間違いなく、パンの感触だ。
おそるおそる、それを口に運ぶ。
ちぎって、口の中に入れる。
「……う、ま……」
サクッとした歯ごたえの後に、ふんわりとした甘みが口いっぱいに広がる。
涙が、ぼろぼろとこぼれた。空腹のせいか、安堵のせいか、それとも別の何かなのか、自分でも分からなかった。
僕は夢中で、そのパンをむさぼり食った。
今まで食べたどんなご馳走よりも、それは美味しかった。
胃に食べ物が収まると、鈍っていた思考が少しずつクリアになっていく。
そして、ようやく、僕は理解した。
『まさか。僕のスキルは、言葉を置き換えるだけじゃなかったのか?「石ころ」という『存在』そのものを、「パン」という『存在』に、その『概念』ごと書き換えた?』
だとしたら。
だとしたら、なんだ?
この力は。
この、世界中の誰もがゴミだと笑ったスキルは、本当は。
『世界の理そのものに干渉する、とんでもない力なんじゃないのか……?』
僕は、自分の手のひらを見つめた。
追放され、全てを失ったと思っていたこの手の中に、とてつもない可能性が眠っていることに、今、ようやく気づいたのだ。
まあ、定義上、これは追放劇の始まりだったのかもしれない。
でも、あるいは。
これは、僕という人間の、本当の人生の始まり、なのかもしれない。
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