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第11話「王国の影とは、巨大な理不尽の象徴である」
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王国の軍隊が、谷の入り口に布陣した。その数、およそ500。
先頭に立つのは、父であるアルクライト公爵と、兄のアルフレッド。彼らの顔には、僕を、そしてこの村を力でねじ伏せようという、傲慢な決意が浮かんでいた。
「カイリ!聞こえているか!今からでも遅くはない!大人しく投降し、我々に従え!」
父が、拡声の魔道具を使って、大声で呼びかけてきた。
その声は、かつて僕を勘当した時と同じ、冷たく、感情の乗らない声だった。
「さすれば、お前の罪は許し、村の者たちの命も保証しよう。だが、もし我々に逆らうというのなら……この谷を、血の海に変えることになるぞ!」
典型的な、脅迫文句だ。
僕は、城壁の上から、彼らを静かに見下ろした。
「お断りします、公爵閣下」
僕も、村に1つだけあった拡声の魔道具を使い、答えた。
「僕は、あなた方に従うつもりはありません。そして、この村を、あなた方の好きにはさせません」
「……愚かな。ならば、力を持って、その間違いを教えてやるまでだ」
父は、それだけを言うと、全軍に攻撃開始の合図を送った。
「魔術師部隊、詠唱開始!あの忌々しい壁を、粉々に打ち砕け!」
アルフレッドの号令一下、軍の後方に控えていた魔術師たちが、一斉に杖を構え、呪文を唱え始めた。
大気中のマナが、彼らの元へと収束していくのが、肌で感じられた。
やがて、彼らの杖の先に、いくつもの巨大な火球が生成される。
「放て!」
号令と共に、灼熱の火球が、轟音を立てて、僕たちの村の城壁へと殺到した。
一つ一つが家を一軒、軽く吹き飛ばすほどの威力を持っているだろう。
あれが直撃すれば、いくら僕が再翻訳した城壁でも、ただでは済まない。
城壁の上の村人たちから、悲鳴が上がった。
「落ち着いてください。計画通りに」
僕は、冷静に指示を出す。
そして、僕自身も、スキルを発動させた。
対象は、こちらに向かって飛んでくる、数十の火球。
『【再翻訳】、発動!対象、あの「灼熱の攻撃魔法」。翻訳後の概念は……「祝福を運ぶ、無害な光の玉」!』
僕のスキルが、飛来する火球の「概念」に干渉する。
その効果は、劇的だった。
城壁に激突する寸前、あれほど猛威を振るっていた火球が、ふっと、その勢いを失った。
灼熱の炎は、色とりどりの柔らかな光へと変わり、まるでシャボン玉のように、ぽわん、ぽわんと、城壁に当たって弾けていく。
弾けた光の玉は、キラキラとした光の粒子となって、戦場に降り注いだ。
まるで、ファンタジー映画のワンシーンのような、幻想的な光景。
攻撃魔法が、ただの美しいイルミネーションに変わってしまったのだ。
「……は?」
王国軍の兵士たちは、一斉に疑問の声を漏らした。何が起きたのか理解できず、あんぐりと口を開けて、その光景を眺めている。
魔術師たちも、自分たちが放った魔法が、なぜあんなものに変わってしまったのか分からず、混乱しているようだった。
「な、なんだ、今の現象は……!?妨害魔法か!?いや、しかし、そんな術式は見たことがない!」
アルフレッドが、狼狽した声で叫んでいる。
「怯むな!第二射、用意!今度こそ、打ち砕け!」
魔術師たちは、再び火球を放つ。
しかし、結果は同じだった。
灼熱の塊は、美しい光の玉へと姿を変え、戦場を彩るだけだった。
「……面白い」
僕は、城壁の上で、小さく笑った。
僕のスキルは、やはり、彼らの常識を遥かに超えている。
「魔法が効かぬのなら、力押しまでだ!全軍、突撃!門を打ち破れ!」
父の、怒りに満ちた声が響き渡った。
歩兵たちが、雄叫びを上げて、城門へと殺到する。
先頭集団は、巨大な破城槌を担いでいた。
「来るぞ!みんな、準備はいいか!」
リリアが、城壁の上から、大声で叫んだ。
村人たちが頷き、城壁の縁に用意していた、大きな樽を構える。
「それっ!」
リリアの合図で、樽が一斉に傾けられた。
中から流れ出したのは、熱湯でも、油でもない。
粘り気の強い、どろりとした、茶色の液体。
それは、僕が【再翻訳】で作り出した、超強力な接着剤だった。
液体は、滝のように、城壁の下にいる兵士たちに降り注いだ。
「うわっ!?なんだ、これ!?」
「べとべとする!体が、動かせん!」
接着剤を浴びた兵士たちは、その場で身動きが取れなくなってしまった。鎧と地面が、あるいは兵士同士が、がっちりとくっついてしまったのだ。
破城槌を担いでいた兵士たちも、破城槌もろとも、地面に固定されてしまった。
後続の兵士たちは、前方の異変に気づき、慌てて足を止めるが、もはや手遅れだった。
次々と、前の兵士に追突し、将棋倒しになっていく。
あっという間に、城門の前は、身動きの取れない兵士たちで、団子状態になってしまった。
「な、何をしている!早く進め!」
後方から、アルフレッドの怒声が飛ぶが、どうしようもない。
「ふふふ、面白いように引っかかったね、カイリ」
リリアが、楽しそうに笑っている。
「ああ。第一段階は、成功だ」
僕は、頷いた。
しかし、まだ油断はできない。
敵の数は、まだ圧倒的に、こちらを上回っている。
「弓兵部隊!城壁の上の者どもを狙え!」
父が、次の指示を出した。
弓兵たちが、一斉に矢をつがえる。
「カイリ!」
リリアが、僕の名を叫んだ。
「大丈夫だ」
僕は、静かに、スキルを発動する。
対象は、兵士たちが構えている、全ての「矢」。
『【再翻訳】、発動。対象、あの「鋭い鉄の矢」。翻訳後の概念、「柔らかくて、よくしなるゴムの矢」』
ヒュン、という音と共に、無数の矢が放たれた。
しかし、城壁に到達した矢は、1本もなかった。
全ての矢が、まるで力のないゴムのように、ぐにゃりと途中でしなり、ぽとり、ぽとりと、地面に落ちていく。
「……矢が、飛ばん……だと……?」
弓兵たちが、自分の目を疑うように、手にした弓と矢を見比べている。
何度、放ち直しても、結果は同じだった。
矢は、殺傷能力を完全に失い、ただの玩具と化してしまったのだ。
王国軍の兵士たちの間に、動揺が広がっていく。
魔法は、効かない。
物理攻撃も、通じない。
遠距離攻撃も、無力化される。
自分たちが、まるで、見えない壁に阻まれているかのような、得体の知れない恐怖。
それが、じわじわと、彼らの士気を蝕んでいく。
「……一体、何が起きているのだ……」
父が、呆然とつぶやくのが、遠眼鏡越しに見えた。
彼の顔から、いつもの自信と傲慢さが、消え失せている。
「父上、これは、奴のスキルです!カイリの、あの忌まわしいスキルが、この異常事態を引き起こしているに違いありません!」
アルフレッドが、叫んだ。
彼は、ようやく、この現象が僕の仕業であることに、気づいたようだ。
「……カイリ。お前は、一体、どんな力を……」
父は、僕が立つ城壁を、憎々しげに、しかし、どこか畏怖の念を込めて、見つめていた。
戦いは、完全に膠着状態に陥った。
王国軍は、僕たちを攻めあぐね、ただ遠巻きに、村を包囲しているだけ。
僕たちも、打って出るほどの戦力はない。
***
日が暮れ、夜になると、彼らは野営の準備を始めた。
どうやら、長期戦の構えらしい。
「カイリ、これからどうするの?このまま、ずっと籠城を続けるの?」
夜、見張り台で、リリアが僕に尋ねてきた。
「いや、それじゃ、いずれジリ貧になる。決着は、明日つける」
僕は、野営地で揺らめく、無数の焚き火の光を見つめながら、言った。
「明日?」
「ああ。今夜、彼らに、最後の『仕掛け』を施す。それで、全てが終わるはずだ」
僕の瞳に、静かな、しかし、確固たる決意が宿っているのを、リリアは見て取っただろう。
「……分かった。カイリの言うことを信じるよ」
彼女は、僕の隣に立ち、同じように、敵の野営地を見つめた。
***
その夜、僕は、一人で、城壁の上に立った。
目を閉じ、意識を、王国軍の野営地全体へと広げていく。
そして、僕の力の、真髄とも言える、大規模な概念の書き換えを、実行した。
対象は、500人の兵士たち、その一人一人の心の中にあるもの。
『【再翻訳】、発動。対象は、あの兵士たちの心に宿る、「戦意」「敵愾心」「故郷を離れた寂しさ」。そして、翻訳後の概念は――』
僕は、ゆっくりと、新しい概念を、紡ぎ出した。
『――「もう、戦いはうんざりだ。早く家に帰って、温かいスープが飲みたい」という、強烈な郷愁(ホームシック)』
僕の体から、膨大な魔力が、霧のように流れ出していく。
それは、目には見えない、思考の波となって、野営地全体を、優しく包み込んでいった。
先頭に立つのは、父であるアルクライト公爵と、兄のアルフレッド。彼らの顔には、僕を、そしてこの村を力でねじ伏せようという、傲慢な決意が浮かんでいた。
「カイリ!聞こえているか!今からでも遅くはない!大人しく投降し、我々に従え!」
父が、拡声の魔道具を使って、大声で呼びかけてきた。
その声は、かつて僕を勘当した時と同じ、冷たく、感情の乗らない声だった。
「さすれば、お前の罪は許し、村の者たちの命も保証しよう。だが、もし我々に逆らうというのなら……この谷を、血の海に変えることになるぞ!」
典型的な、脅迫文句だ。
僕は、城壁の上から、彼らを静かに見下ろした。
「お断りします、公爵閣下」
僕も、村に1つだけあった拡声の魔道具を使い、答えた。
「僕は、あなた方に従うつもりはありません。そして、この村を、あなた方の好きにはさせません」
「……愚かな。ならば、力を持って、その間違いを教えてやるまでだ」
父は、それだけを言うと、全軍に攻撃開始の合図を送った。
「魔術師部隊、詠唱開始!あの忌々しい壁を、粉々に打ち砕け!」
アルフレッドの号令一下、軍の後方に控えていた魔術師たちが、一斉に杖を構え、呪文を唱え始めた。
大気中のマナが、彼らの元へと収束していくのが、肌で感じられた。
やがて、彼らの杖の先に、いくつもの巨大な火球が生成される。
「放て!」
号令と共に、灼熱の火球が、轟音を立てて、僕たちの村の城壁へと殺到した。
一つ一つが家を一軒、軽く吹き飛ばすほどの威力を持っているだろう。
あれが直撃すれば、いくら僕が再翻訳した城壁でも、ただでは済まない。
城壁の上の村人たちから、悲鳴が上がった。
「落ち着いてください。計画通りに」
僕は、冷静に指示を出す。
そして、僕自身も、スキルを発動させた。
対象は、こちらに向かって飛んでくる、数十の火球。
『【再翻訳】、発動!対象、あの「灼熱の攻撃魔法」。翻訳後の概念は……「祝福を運ぶ、無害な光の玉」!』
僕のスキルが、飛来する火球の「概念」に干渉する。
その効果は、劇的だった。
城壁に激突する寸前、あれほど猛威を振るっていた火球が、ふっと、その勢いを失った。
灼熱の炎は、色とりどりの柔らかな光へと変わり、まるでシャボン玉のように、ぽわん、ぽわんと、城壁に当たって弾けていく。
弾けた光の玉は、キラキラとした光の粒子となって、戦場に降り注いだ。
まるで、ファンタジー映画のワンシーンのような、幻想的な光景。
攻撃魔法が、ただの美しいイルミネーションに変わってしまったのだ。
「……は?」
王国軍の兵士たちは、一斉に疑問の声を漏らした。何が起きたのか理解できず、あんぐりと口を開けて、その光景を眺めている。
魔術師たちも、自分たちが放った魔法が、なぜあんなものに変わってしまったのか分からず、混乱しているようだった。
「な、なんだ、今の現象は……!?妨害魔法か!?いや、しかし、そんな術式は見たことがない!」
アルフレッドが、狼狽した声で叫んでいる。
「怯むな!第二射、用意!今度こそ、打ち砕け!」
魔術師たちは、再び火球を放つ。
しかし、結果は同じだった。
灼熱の塊は、美しい光の玉へと姿を変え、戦場を彩るだけだった。
「……面白い」
僕は、城壁の上で、小さく笑った。
僕のスキルは、やはり、彼らの常識を遥かに超えている。
「魔法が効かぬのなら、力押しまでだ!全軍、突撃!門を打ち破れ!」
父の、怒りに満ちた声が響き渡った。
歩兵たちが、雄叫びを上げて、城門へと殺到する。
先頭集団は、巨大な破城槌を担いでいた。
「来るぞ!みんな、準備はいいか!」
リリアが、城壁の上から、大声で叫んだ。
村人たちが頷き、城壁の縁に用意していた、大きな樽を構える。
「それっ!」
リリアの合図で、樽が一斉に傾けられた。
中から流れ出したのは、熱湯でも、油でもない。
粘り気の強い、どろりとした、茶色の液体。
それは、僕が【再翻訳】で作り出した、超強力な接着剤だった。
液体は、滝のように、城壁の下にいる兵士たちに降り注いだ。
「うわっ!?なんだ、これ!?」
「べとべとする!体が、動かせん!」
接着剤を浴びた兵士たちは、その場で身動きが取れなくなってしまった。鎧と地面が、あるいは兵士同士が、がっちりとくっついてしまったのだ。
破城槌を担いでいた兵士たちも、破城槌もろとも、地面に固定されてしまった。
後続の兵士たちは、前方の異変に気づき、慌てて足を止めるが、もはや手遅れだった。
次々と、前の兵士に追突し、将棋倒しになっていく。
あっという間に、城門の前は、身動きの取れない兵士たちで、団子状態になってしまった。
「な、何をしている!早く進め!」
後方から、アルフレッドの怒声が飛ぶが、どうしようもない。
「ふふふ、面白いように引っかかったね、カイリ」
リリアが、楽しそうに笑っている。
「ああ。第一段階は、成功だ」
僕は、頷いた。
しかし、まだ油断はできない。
敵の数は、まだ圧倒的に、こちらを上回っている。
「弓兵部隊!城壁の上の者どもを狙え!」
父が、次の指示を出した。
弓兵たちが、一斉に矢をつがえる。
「カイリ!」
リリアが、僕の名を叫んだ。
「大丈夫だ」
僕は、静かに、スキルを発動する。
対象は、兵士たちが構えている、全ての「矢」。
『【再翻訳】、発動。対象、あの「鋭い鉄の矢」。翻訳後の概念、「柔らかくて、よくしなるゴムの矢」』
ヒュン、という音と共に、無数の矢が放たれた。
しかし、城壁に到達した矢は、1本もなかった。
全ての矢が、まるで力のないゴムのように、ぐにゃりと途中でしなり、ぽとり、ぽとりと、地面に落ちていく。
「……矢が、飛ばん……だと……?」
弓兵たちが、自分の目を疑うように、手にした弓と矢を見比べている。
何度、放ち直しても、結果は同じだった。
矢は、殺傷能力を完全に失い、ただの玩具と化してしまったのだ。
王国軍の兵士たちの間に、動揺が広がっていく。
魔法は、効かない。
物理攻撃も、通じない。
遠距離攻撃も、無力化される。
自分たちが、まるで、見えない壁に阻まれているかのような、得体の知れない恐怖。
それが、じわじわと、彼らの士気を蝕んでいく。
「……一体、何が起きているのだ……」
父が、呆然とつぶやくのが、遠眼鏡越しに見えた。
彼の顔から、いつもの自信と傲慢さが、消え失せている。
「父上、これは、奴のスキルです!カイリの、あの忌まわしいスキルが、この異常事態を引き起こしているに違いありません!」
アルフレッドが、叫んだ。
彼は、ようやく、この現象が僕の仕業であることに、気づいたようだ。
「……カイリ。お前は、一体、どんな力を……」
父は、僕が立つ城壁を、憎々しげに、しかし、どこか畏怖の念を込めて、見つめていた。
戦いは、完全に膠着状態に陥った。
王国軍は、僕たちを攻めあぐね、ただ遠巻きに、村を包囲しているだけ。
僕たちも、打って出るほどの戦力はない。
***
日が暮れ、夜になると、彼らは野営の準備を始めた。
どうやら、長期戦の構えらしい。
「カイリ、これからどうするの?このまま、ずっと籠城を続けるの?」
夜、見張り台で、リリアが僕に尋ねてきた。
「いや、それじゃ、いずれジリ貧になる。決着は、明日つける」
僕は、野営地で揺らめく、無数の焚き火の光を見つめながら、言った。
「明日?」
「ああ。今夜、彼らに、最後の『仕掛け』を施す。それで、全てが終わるはずだ」
僕の瞳に、静かな、しかし、確固たる決意が宿っているのを、リリアは見て取っただろう。
「……分かった。カイリの言うことを信じるよ」
彼女は、僕の隣に立ち、同じように、敵の野営地を見つめた。
***
その夜、僕は、一人で、城壁の上に立った。
目を閉じ、意識を、王国軍の野営地全体へと広げていく。
そして、僕の力の、真髄とも言える、大規模な概念の書き換えを、実行した。
対象は、500人の兵士たち、その一人一人の心の中にあるもの。
『【再翻訳】、発動。対象は、あの兵士たちの心に宿る、「戦意」「敵愾心」「故郷を離れた寂しさ」。そして、翻訳後の概念は――』
僕は、ゆっくりと、新しい概念を、紡ぎ出した。
『――「もう、戦いはうんざりだ。早く家に帰って、温かいスープが飲みたい」という、強烈な郷愁(ホームシック)』
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