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第8話「私の天職は悪役令嬢ではなく」
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クーデターは、こうして鎮圧された。王都を包んだ戦火は、まるで悪夢だったかのように消え去り、王国には再び平和が戻ってきた。
最大の功労者は、言うまでもなく、私と私の生徒たちだった。後日、王宮で開かれた祝賀会で、国王は私の手を取り、心からの感謝の言葉を述べた。
「ユイ・フォン・アークライト嬢。君と、君の育てた素晴らしい若者たちがいなければ、この国は今頃、闇に沈んでいただろう。本当に、感謝の言葉もない」
そして国王は、私に破格の褒賞を提示した。
「国を売ろうとした裏切り者、宰相の席は、今空いている。君が望むなら、その席を君に与えよう。あるいは、望むだけの領地と富を。国を救った英雄に、相応しいものを何でも約束しよう」
その申し出に、会場にいた貴族たちは息をのんだ。十六歳で国政の頂点に立つ。それは、前代未聞の、まさに最高の栄誉だった。誰もが、私がそれを受け入れるものだと信じて疑わなかっただろう。
しかし、私は、にっこりと微笑んで、首を横に振った。
「陛下、そのお言葉だけで、充分でございます。ですが、そのお話は、お断りさせていただきますわ」
「な…なぜだね!?不満があるとでもいうのか!」
「いいえ、とんでもございません。ただ…」
私は、少しだけ間を置いて、きっぱりと告げた。
「私には、辺境第三魔法学園の、校長という大切な仕事がありますので」
私のその答えに、国王も、周りの貴族たちも、呆気にとられたような顔をしていた。
彼らには、理解できないのかもしれない。私が本当に欲しかったのは、権力や名声、富といった、形あるものではなかったから。
生徒たちの成長を、すぐ側で見守ることができる、あの場所。彼らの笑い声が響く、あの穏やかな日常。それこそが、私にとって、何物にも代えがたい宝物なのだ。
私が悪役令嬢としての破滅の運命を回避するために始めた、このセカンドライフ。その中で、私は、思いがけず見つけてしまったのだ。経営者でも、悪役令嬢でもない、「教育者」という、私の本当の天職を。
数日後。王都の喧騒を離れた私は、再び辺境の学園へと戻っていた。学園には、以前と何も変わらない、平和な日常が流れていた。
校長室の窓からグラウンドを眺めると、在校生たちが元気に訓練に励んでいるのが見える。クーデターの鎮圧に参加した生徒たちは、あの王都決戦での経験を通じて、一回りも二回りも大きく、たくましく成長していた。その姿を、私は目を細めながら、満足げに見つめる。
悪役令嬢としての破滅の運命は、もう、完全に書き換えられた。乙女ゲームのシナリオなど、もはやどこを探しても見当たらない。今や私は、悪役令嬢ユイ・フォン・アークライトではなく、誰からも尊敬され、慕われる、辺境学園の偉大な教育者、ユイ校長なのだから。
コンコン、と。校長室のドアがノックされた。
「どうぞ」と声をかけると、一人の教師が、数人の少年少女を連れて入ってきた。
「先生、新しい入学希望者の方々です」
その言葉に、私は顔を上げた。そして、そこに立っていた顔ぶれを見て、思わずクスリと笑ってしまった。
そこにいたのは、かつてのゲームの主人公である、あの可憐な聖女。そして、彼女に付き添うように立つ、第一王子をはじめとする、見覚えのある眉目秀麗な攻略対象たちだった。
彼らは、王立第一学園を自主退学し、私の学園の門を叩きに来たのだという。
「ここが、あの伝説の学園…!」
「あなた様が、ユイ校長先生ですね!どうか、僕たちを、この学園に入れてください!先生の元で、本当の強さを学びたいんです!」
目をキラキラと輝かせ、深々と頭を下げる彼らを見て、私は静かに呟いた。
「さあ、次の才能を、どう磨いてやろうかしら」
悪役令嬢の物語は、ここで終わった。
しかし、教育者ユイの物語は、まだ始まったばかりだ。
最大の功労者は、言うまでもなく、私と私の生徒たちだった。後日、王宮で開かれた祝賀会で、国王は私の手を取り、心からの感謝の言葉を述べた。
「ユイ・フォン・アークライト嬢。君と、君の育てた素晴らしい若者たちがいなければ、この国は今頃、闇に沈んでいただろう。本当に、感謝の言葉もない」
そして国王は、私に破格の褒賞を提示した。
「国を売ろうとした裏切り者、宰相の席は、今空いている。君が望むなら、その席を君に与えよう。あるいは、望むだけの領地と富を。国を救った英雄に、相応しいものを何でも約束しよう」
その申し出に、会場にいた貴族たちは息をのんだ。十六歳で国政の頂点に立つ。それは、前代未聞の、まさに最高の栄誉だった。誰もが、私がそれを受け入れるものだと信じて疑わなかっただろう。
しかし、私は、にっこりと微笑んで、首を横に振った。
「陛下、そのお言葉だけで、充分でございます。ですが、そのお話は、お断りさせていただきますわ」
「な…なぜだね!?不満があるとでもいうのか!」
「いいえ、とんでもございません。ただ…」
私は、少しだけ間を置いて、きっぱりと告げた。
「私には、辺境第三魔法学園の、校長という大切な仕事がありますので」
私のその答えに、国王も、周りの貴族たちも、呆気にとられたような顔をしていた。
彼らには、理解できないのかもしれない。私が本当に欲しかったのは、権力や名声、富といった、形あるものではなかったから。
生徒たちの成長を、すぐ側で見守ることができる、あの場所。彼らの笑い声が響く、あの穏やかな日常。それこそが、私にとって、何物にも代えがたい宝物なのだ。
私が悪役令嬢としての破滅の運命を回避するために始めた、このセカンドライフ。その中で、私は、思いがけず見つけてしまったのだ。経営者でも、悪役令嬢でもない、「教育者」という、私の本当の天職を。
数日後。王都の喧騒を離れた私は、再び辺境の学園へと戻っていた。学園には、以前と何も変わらない、平和な日常が流れていた。
校長室の窓からグラウンドを眺めると、在校生たちが元気に訓練に励んでいるのが見える。クーデターの鎮圧に参加した生徒たちは、あの王都決戦での経験を通じて、一回りも二回りも大きく、たくましく成長していた。その姿を、私は目を細めながら、満足げに見つめる。
悪役令嬢としての破滅の運命は、もう、完全に書き換えられた。乙女ゲームのシナリオなど、もはやどこを探しても見当たらない。今や私は、悪役令嬢ユイ・フォン・アークライトではなく、誰からも尊敬され、慕われる、辺境学園の偉大な教育者、ユイ校長なのだから。
コンコン、と。校長室のドアがノックされた。
「どうぞ」と声をかけると、一人の教師が、数人の少年少女を連れて入ってきた。
「先生、新しい入学希望者の方々です」
その言葉に、私は顔を上げた。そして、そこに立っていた顔ぶれを見て、思わずクスリと笑ってしまった。
そこにいたのは、かつてのゲームの主人公である、あの可憐な聖女。そして、彼女に付き添うように立つ、第一王子をはじめとする、見覚えのある眉目秀麗な攻略対象たちだった。
彼らは、王立第一学園を自主退学し、私の学園の門を叩きに来たのだという。
「ここが、あの伝説の学園…!」
「あなた様が、ユイ校長先生ですね!どうか、僕たちを、この学園に入れてください!先生の元で、本当の強さを学びたいんです!」
目をキラキラと輝かせ、深々と頭を下げる彼らを見て、私は静かに呟いた。
「さあ、次の才能を、どう磨いてやろうかしら」
悪役令嬢の物語は、ここで終わった。
しかし、教育者ユイの物語は、まだ始まったばかりだ。
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