年下の彼に脅されています!

花夜

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第12話 名前で

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 悩みに悩んで、考え抜いた結果はーー。

「…わかったわ」

 という肯定だった。

「決まりだな。玖音」

「気安く名前を呼ばないで…ってどうして近づいてくるのよ!」

 ソファのある奥へと追いやるように、ジリジリと悠月が寄ってくる。

 それから逃げるように後ずさる玖音だったが、ついには壁側まで追い詰められてしまった。

(な、何!?何なの!?)

 頭の中はパニック同然、しかし態度には出さず至って平静なフリをした。

「玖音」

 高校生にしては低く艶のある声音で名を呼ばれる。

 くいっと顎を持たれ、瞬間私はようやく気がついたのだ。

 もう勝負は始まっているのだと。

 理解すれば急激に冷静な思考回路が戻ってくる。

(誰があんたのペースにハマってやるもんですか!)

 存外負けず嫌いであった玖音に謎の対抗心が生まれた。

「あら、手が早いわね。せっかちな男は嫌われるわよ」

「ふん。ビビってたクセによく言う」

「あんたなんかにーー」

「悠月だ。そう呼べ」

 言葉を遮られたと思えば、変わらない不遜な態度でそう告げる。

「あんた」

「悠月だ」

「あんたなんかあんたで十分よ」

「悠月」

 譲らない彼の顔は意地を張る子供のようで、大人ぶっても所詮は高校生なのだと思う。

(時々みせる子供っぽいところは可愛いと思うんだけどね)

 苦笑して、今回は素直に折れることにした。

「…わかった。悠月くんね」

「だから、悠月だって言ってんだろ!」

「ちゃんとそう呼んだじゃない…もしかして呼び捨てにしろってこと?」

「そう言っているだろ」

 言ってないわよ!

 心の中でツッコミを入れ、頑なに名前呼びに拘る理由でもあるのだろうかと考える。

「…面倒臭い子ね。素直にそう言えばいいのに。悠月、って呼べばいいのね」

「ガキ扱いするんじゃねぇ」

 ムスッとした表情をする悠月は最初の印象とは異なっていた。

 初めて見たときは偉そうな、自分の立場を利用するだけの嫌な奴だと思った。

 俺様で他人なんかどうでもいいとそんな冷たい態度をとるいけ好かない人だと。

 もちろん、今でもそう思っているのだが、それだけではなく年相応の一面や意外ところころ変わる表情にちょっとだけ絆される。

 などと考えていた私は甘かった。

 左腕を腰に回されたかと思えば彼の方へと抱き寄せられる。

 顔をぐいっと近づけ、唇が触れ合うまで数センチという所で止まった。

「俺様を子供扱いしたこと後悔させてやるよ」

 前言撤回!

 やっぱり全然可愛くないし、こいつは手の早い女の敵だ!!

 身体のラインをなぞるような動きに、ぞわぞわとした感覚が襲う。

「…や、」

「ふーん、やっぱり童顔だな。でも胸はまあまああるし、思っていたよりスタイルもいい」

 ニヤリと口角を上げて分析する悠月に対し、湧き上がるのは何とも言えない羞恥と怒り。

「い、いい加減にしなさい!」

 腰に回されていた腕を掴んで捻り、ソファに向かってまたもや背負い投げをかましたのだった。

「お前っ、そのすぐに手が出るのはどうにかなんねぇのか!?」

「うるさい!この変態っ!!これ以上何かするなら大事なところ潰すわよ」

「おまっ!?」

 余ほど鬼の形相をしていたのだろうか。

 本気で怖がる彼の姿に溜飲が下がる。

 してやったりと思ったところで、教室の扉が開いた。

「そこで何をしている!」

 入ってきたのは一人の男子生徒。

 そして目が合った瞬間、その子が酷く驚いた。

 いや、まぁ私もきっと同じ気持ち…ううん、それ以上の驚きと羞恥が襲う。

「九条さん…?」

「き、霧島くん?」

 彼は制服を着た私を見て、ソファに寝転ぶ(正確には投げ飛ばされたままでの)悠月に視線を移し、全てを悟ったような重いため息を吐いたのだった。

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