【BL】クレッシェンド

花夜

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第1部 双子の恋愛感情

第29夜 爽side

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 彗が家の中に戻っても黒崎は帰る気配がない。仕方なく、牽制のためにも僕は彼と向き合った。

「なぁ、あんたに聞きたいことがあんねんけど」

 最初に口を開いたのは黒崎だった。

「何?」

 同族嫌悪とも言うべきなのか、どうしても彼とは仲良く出来ないと感じてしまう。

 普段なら愛想笑いの一つでもするのだが、そんなものは必要ないと素で対応した。

 そんな僕の様子に苦笑し「王子の素顔を見た気分やわ」と茶化される。

「用がないならさっさと学校に行ったら?」

「そう怒るなや。彗くんのことなんやけど」

 彗の名前に反応する。
 黒崎は一拍置いて、先ほどまでとは違う真面目な顔で告げた。

「彼が嫌われ者なのは……あんたのせいだろ?」

 何を言うかと思えば、その事か。

「そう、だと言ったら?」

「やっぱりなぁ」

 僕の答えに納得がいったように何度も頷いた。一瞬、雰囲気がガラリと変わった黒崎だったがすぐに元の調子に戻っていた。

「それがどうかした?」

「前から不思議やったさかい。彗くんは確かに一見恐いし、不良とも喧嘩してるんやろうけど、本人は至って良い子やん?」

 ギリっと爽は歯を食い縛る。

 まだ出会って数日のやつに何が分かる、と。僕はずっと彗だけを見てきたんだ、とそう叫んでしまいたい。

 けれどそれを理性で抑え、一つ深呼吸をして落ち着かせる。

「それで?そんなこと君には関係ないよね」

「それはそうなんやけどなんや真実を知ってしまった身としては彗くんが可哀想に思えてなぁ」

 新しいオモチャをどう調理しようか、そんな心内が窺える態度で黒崎は応えた。

「顔も良くて、身長も高め。頭もホンマはそう悪くないんちゃうかな、今は下から数えた方が早い順位におるけど」

 黒崎は爽には構わず、つらつらと彗の情報をあげていく。

「喧嘩も強くて、せやけど絶対に己から手を出さない堅気気質。一般の生徒が絡まれている所を何度も助けている。見た目によらず家事が得意でしかも料理の腕は中々のもの」

「……何が言いたいの?」

「これだけでもカナリの優良物件やで、あんたの兄ちゃん。それやのに、実際の彗くんの評価は不良、恐い、絡まれたら終わりだの、我らが王子様爽くんを奪った悪人だのと勝手なもんや」

 お陰で今の彗くんに近づく物好きは一部を除いておらんようになってる、と彼は続ける。

 そんな事は分かっている。
 彗に不利になる情報は何を隠そう、この僕自身が流しているんだから。

(……それくらい、分かっている……)

 彗は放っておけば人に好かれるタイプだ。
 しかもそれは僕のような八方美人の築く薄っぺらい関係ではない、心から仲良くなれる奴だ。

 普通に優しいし、頼られたら断れない良い子でだからこそ独り占めしたかった。

 あの頃は自分に素直になれず距離を置くしかなかったけれど、僕の代わりに誰かが彗と仲良くしている姿は見たくなかった。

 ただの醜い嫉妬。

 けれど、どうしようもなく黒い欲に動かされたのだ。
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