31 / 66
第1部 双子の恋愛感情
第29夜 爽side
しおりを挟む彗が家の中に戻っても黒崎は帰る気配がない。仕方なく、牽制のためにも僕は彼と向き合った。
「なぁ、あんたに聞きたいことがあんねんけど」
最初に口を開いたのは黒崎だった。
「何?」
同族嫌悪とも言うべきなのか、どうしても彼とは仲良く出来ないと感じてしまう。
普段なら愛想笑いの一つでもするのだが、そんなものは必要ないと素で対応した。
そんな僕の様子に苦笑し「王子の素顔を見た気分やわ」と茶化される。
「用がないならさっさと一人で学校に行ったら?」
「そう怒るなや。彗くんのことなんやけど」
彗の名前に反応する。
黒崎は一拍置いて、先ほどまでとは違う真面目な顔で告げた。
「彼が嫌われ者なのは……あんたのせいだろ?」
何を言うかと思えば、その事か。
「そう、だと言ったら?」
「やっぱりなぁ」
僕の答えに納得がいったように何度も頷いた。一瞬、雰囲気がガラリと変わった黒崎だったがすぐに元の調子に戻っていた。
「それがどうかした?」
「前から不思議やったさかい。彗くんは確かに一見恐いし、不良とも喧嘩してるんやろうけど、本人は至って良い子やん?」
ギリっと爽は歯を食い縛る。
まだ出会って数日の男に何が分かる、と。僕はずっと彗だけを見てきたんだ、とそう叫んでしまいたい。
けれどそれを理性で抑え、一つ深呼吸をして落ち着かせる。
「それで?そんなこと君には関係ないよね」
「それはそうなんやけどなんや真実を知ってしまった身としては彗くんが可哀想に思えてなぁ」
新しいオモチャをどう調理しようか、そんな心内が窺える態度で黒崎は応えた。
「顔も良くて、身長も高め。頭もホンマはそう悪くないんちゃうかな、今は下から数えた方が早い順位におるけど」
黒崎は爽には構わず、つらつらと彗の情報をあげていく。
「喧嘩も強くて、せやけど絶対に己から手を出さない堅気気質。一般の生徒が絡まれている所を何度も助けている。見た目によらず家事が得意でしかも料理の腕は中々のもの」
「……何が言いたいの?」
「これだけでもカナリの優良物件やで、あんたの兄ちゃん。それやのに、実際の彗くんの評価は不良、恐い、絡まれたら終わりだの、我らが王子様を奪った悪人だのと勝手なもんや」
お陰で今の彗くんに近づく物好きは一部を除いておらんようになってる、と彼は続ける。
そんな事は分かっている。
彗に不利になる情報は何を隠そう、この僕自身が流しているんだから。
(……それくらい、分かっている……)
彗は放っておけば人に好かれるタイプだ。
しかもそれは僕のような八方美人の築く薄っぺらい関係ではない、心から仲良くなれる奴だ。
普通に優しいし、頼られたら断れない良い子でだからこそ独り占めしたかった。
あの頃は自分に素直になれず距離を置くしかなかったけれど、僕の代わりに誰かが彗と仲良くしている姿は見たくなかった。
ただの醜い嫉妬。
けれど、どうしようもなく黒い欲に動かされたのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる