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第1部 双子の恋愛感情
第36夜
しおりを挟む「もし、文化祭に参加せず尻尾を巻いて逃げると言うのならそれ相応のお仕置きをしなきゃね?」
なんでこいつはこんなに一生懸命なんだ!?
必死過ぎてこっちは引きまくりだし、それ以前に目が笑っていない時点でガチなのがヒシヒシと伝わるんだが!?
(俺の弟ってこんなキャラじゃねぇよな!?)
確か王子の異名で通っていた筈だ。
それがどうして変態になった!!
(俺が、悪いのか…?)
まさか黒崎に何か吹き込まれたんじゃーーいや、こいつの性格でそれはないか。
思い直して、けれどこの最悪の事態にどう対処すればいいのかは思い浮かばない。
(結局また爽の思い通りになるのか)
どんなに足掻いたところで、彼は彗が女装するまであらゆる手段を使ってくるだろう。
ヘタをすれば女装よりも酷い辱めを受けるかもしれない。
いや、むしろその可能性の方が高い。
(でももしかしたらクラスの奴らが爽の暴走を止めてくれるかもしれねぇ)
俺のメイドコスなんてただのゲテモノだと思い知れば……たぶん…きっと!
どこまで爽の息がかかっているかは分からないが、全員一致の意見の筈がない。
(反対してくれる奴を引っ張り出せれば)
おそらく、最悪の事態は免れる。
いくら爽と言えど周りに反対されれば文句もないだろう。
と、そう考えていた俺はバカだった。
爽という男の本性が見えていなかったのだ。
翌日登校すると、周りの視線が痛いほど刺さり居心地が悪かった。
(もう校内中に知れ渡ってんのかよ!)
小声で、でも確かに「メイド」「不良が女装」という単語たちが飛び交っている。
(……最悪だ)
それなのに逃げることも叶わず好奇の目に晒され怒りよりも遣る瀬無さの方が 勝った。
それでも不機嫌オーラを消す事は出来ないので、今にも人を殺しそうな人相で俺は教室の扉を開く。
すると、予想通りと言うべきか。
俺の姿を見るなりクラスメイトたちは硬直し、珍しく先にきていた蓮はニヤケ面でこちらに寄ってきた。
「今日はちゃんと来たんだな。いやぁ、残念だったね、昨日来ていれば彗ちゃんにならずに済んだかもしれないのにーー」
「黙れ」
覚悟はしていたものの、やはり現実を突きつけられるのは堪える。
キレッキレの右ストレートを蓮の耳元に放ち、俺はそいつの減らず口を強制的に閉ざした。
「っぶねー!こら、彗。もし当たってたらどうするつもりだよっ」
「当たる訳ないだろ。当てるつもりなら男の急所を躊躇わず狙ってる」
「おいこら!!」
「朝から元気だね。おはよう二人とも。スイちゃんは思っていたより元気そうで良かったよ」
背後からかけられた声に挨拶を返しながら「元気じゃねぇよ。精神が死んでる」と添えた。
「冗談じゃねぇ。何でこんな事になっているんだよ!ってか誰も反対しなかったのか!?」
溜まっていた鬱憤をそのまま秋斗にぶつける。秋斗と蓮は顔を見合わせ、
「反対した者はいなかったな。正確には反対していた奴も最終的には彗のメイドに大賛成だったぜ」
「爽くんが凄かったんだよ」
「……どういう意味だ?」
えっとねーーと秋斗が昨日の事を語り出す。
昨日HRの時間。
来月末にある文化祭の出し物についての話し合いがされた。
それぞれ定番のお化け屋敷や出店、展示も楽でいいなどと意見は出すもののバラバラでまとまらなかった。
そこで立ち上がったのが爽だ。
『みんな聞いて。文化祭は他校の女性と近づけるチャンスでもある大切な祭りだよ。どうせなら盛り上げて、色んな意味で楽しみたいとは思わないかな?』
その一言でクラスメイトの心はガッチリ掴まれた。男子校では他校の女の子と知り合う以外、恋人を作るのは難しい。
彼女が欲しい、この際に女性とお近づきになりたい、と思うのは当然の心理であり、毎年それを目標に文化祭を過ごす者は多かった。
それはここ、2年1組の男子も例外ではなく、爽のように男もイケる奴以外は彼の言葉で大いに昂ったのだ。
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