商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

文字の大きさ
48 / 261
【カトリーヌ編】

第4話 故郷は遠くにありて思うもの ~後編~

しおりを挟む
 

「で? 何しに来たの?」
 向かいのソファにどっかり座って聞いてくる。
 視線は自分の爪に向いていた。
 質問はしているが聞く気はないらしい。

「学院を卒業しましたので、それを報告に来ただけです」
「ああ。それ」
 フンっ、と鼻で笑われた。

「何の価値もない報告ね。貴方には『男爵令嬢との婚約』以外には価値がないのよ? わからないの?」
「まぁ、そうですね」
 実家にとっては『父が他所に作った子供』でしかない。
 正妻の子である長男と次男がいる以上、必要がない。
 レッドルア商会という立場から見れば、『いらない子』だ。
 そこに価値を与えたのが『モンモラシー男爵家の令嬢の婚約者という立場』なのは間違いない。

「だからね。うちではもうあんたはいないものと思っているわ」
「なぜです?」
「なぜ? なぜですって? 『婚約破棄』されたこと、知らないとでも思っているの? どこから拾ってきたか知らないけど、それっぽい女連れてくれば誤魔化せるとでも思ったのかしら?」
 蔑むようにセザールを睨みつけ、ニヤニヤ笑う義姉。

「あー。そういうことか」
 カロスタークは頭を抱えた。

「わかった? 全部バレているの。稼ぎはないし、実家のすねをかじるしかない穀潰しってやつね」
「実家から援助なんて貰った覚えはありませんけどね」
 学院に入る前までは母が必死に働いて食べさせてくれていた。
 父から何かを貰ったことなんてない。
 そもそも、強制的に『学院』に入れられるまで会ったこともなかったのだ。

 いきなりやってきて父親だと言われるまで、てっきり死んだんだと思っていたくらいだ。
 事情を聴いても、カロスタークに親子の情なんて湧かなかった。
 心が冷えていく感覚しかなかったものだ。

 学院への入学には貴族の推薦があればいい。
 入学金や授業料が無料なので、費用負担もしてもらっていなかった。
 支度金はもらったが、あとで聞いた話ではその出どころは当時のモンモラシー男爵。セザールの父親だ。
 レッドルア家からはなにももらっていない。

 運用に使っていた金はモンモラシー男爵からの支度金と、もう会えないとの予感があったのか母が渡してくれた全財産だ。
 予感が当たったということなのか、在学中に母が他界。
 さぞや懇ろに弔ってくれたものと思っていたが、実際は『穴を掘って埋めた』ぐらいの素っ気なさで葬ったらしい。
 カロスタークはかなり後になって知らされて、死に顔を見ることすらできなかった。

 報せを受け、とにかく墓参りだけでもしようと墓を探したら、墓地の隅に転がった石を指さされて『これだ』と言われたことは生涯忘れない。
 どこをどう探しても、レッドルア家から何かをしてもらったという事実はなかった。

 あ。いや。
 一つだけあるか。
 セザールと婚約させてくれたことには感謝しよう。
 それだけ。
 だからこそ、『王都で店を開くための後ろ盾。それさえ与えておけば文句は言わないし言わせない』となる。

「もう、あなたに価値なんてないの」
「なら、もう帰った方がよいのでは?」
 価値がない、いないものと思っている。
 それなら、別に報告する意味はない。
 さっさと帰らせてもらうだけだ。

「だから! かってにはやれないんだっての。お父様と旦那に私が怒られるでしょうが。血縁者を差し措いて、私がやるわけにはいかないの。夫を立てるのが『妻』でい続ける秘訣よ」
 堂々と言い切られた。
 間違っているとは言わないが、すごく歪んでいるなぁとカロスタークは思う。

「世間体ってものがあるからね。今夜は泊っていくといいわ。明日からはもう二度と食べれないような、ごちそうを食べさせてあげる。最後の晩餐ってやつね」

「そうですか」

「言っておくけど、金に困ったからって泣きついてきたりしないでよね。役立たずにくれてやる金なんて銅貨一枚たりともないんだから。なぜなら、私たちはもう他人なのよ」

「そうですか」

「学院を卒業したからには一人前の社会人。自分のことは自分で責任を果たさないといけないの。血の繋がりがあるとはいえ、別の家。別々の道を歩むのだから当然じゃない?」

「そうですね」

「もちろん、心の底から応援しているわよ? でも、うまくいかないのはあなた自身の才能と運のせいなの。他人を頼ってはいけないわ。わかるわよね?」

「ええ。よくわかります」

 明日からは一人前の人間として独立した商人。
 実家は頼らずがんばれ。
 支援なんて一切しないが、それは意地悪ではなく試練だ。
 うまくいかなかったときは、勝手に野垂れ死ね。
 ようは、そういうこと。

 カロスタークはもう、適当に合の手を入れるだけにした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

老婆令嬢と呼ばれた私ですが、死んで灰になりました。~さあ、華麗なる復讐劇をお見せしましょうか!~

ミィタソ
恋愛
ノブルス子爵家の長女マーガレットは、幼い頃から頭の回転が早く、それでいて勉強を怠らない努力家。さらに、まだ少しも磨かれていないサファイアの原石を彷彿とさせる、深い美しさを秘めていた。 婚約者も決まっており、相手はなんと遥か格上の侯爵家。それも長男である。さらに加えて、王都で噂されるほどの美貌の持ち主らしい。田舎貴族のノブルス子爵家にとって、奇跡に等しい縁談であった。 そして二人は結婚し、いつまでも幸せに暮らしましたとさ……と、なればよかったのだが。 新婚旅行の当日、マーガレットは何者かに殺されてしまった。 しかし、その数日後、マーガレットは生き返ることになる。 全財産を使い、蘇りの秘薬を購入した人物が現れたのだ。 信頼できる仲間と共に復讐を誓い、マーガレットは王国のさらなる闇に踏み込んでいく。 ******** 展開遅めですが、最後までお付き合いいただければ、びっくりしてもらえるはず!

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします

森 湖春
恋愛
長年の夢である世界旅行に出掛けた叔父から、寂れた牧場を譲り受けた少女、イーヴィン。 彼女は畑を耕す最中、うっかり破壊途中の岩に頭を打って倒れた。 そして、彼女は気付くーーここが、『ハーモニーハーベスト』という牧場生活シミュレーションゲームの世界だということを。自分が、転生者だということも。 どうやら、神々の悪戯で転生を失敗したらしい。最近流行りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生出来なかったのは残念だけれど、これはこれで悪くない。 近くの村には婿候補がいるし、乙女ゲームと言えなくもない。ならば、楽しもうじゃないか。 婿候補は獣医、大工、異国の王子様。 うっかりしてたら男主人公の嫁候補と婿候補が結婚してしまうのに、女神と妖精のフォローで微妙チートな少女は牧場ライフ満喫中! 同居中の過保護な妖精の目を掻い潜り、果たして彼女は誰を婿にするのか⁈ 神々の悪戯から始まる、まったり牧場恋愛物語。 ※この作品は『小説家になろう』様にも掲載しています。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。 突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー) 私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし… 断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して… 関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!? 「私には関係ありませんから!!!」 「私ではありません」 階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。 否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息… そしてなんとなく気になる年上警備員… (注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。 読みにくいのでご注意下さい。

【連載版】婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
短編では、なろうの方で異世界転生・恋愛【1位】ありがとうございます! 読者様の方からの連載の要望があったので連載を開始しました。 シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます! ※連載のためタイトル回収は結構後ろの後半からになります。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...