49 / 261
【カトリーヌ編】
第5話 目があっても見ず、耳ありて声を聞かず ~前編~
しおりを挟む「で? この女はどこの娼館から買ってきたの? あ。ごめーん。そんなお金ないわよね? 拾った? さらったのかしら?」
興が乗って来たのか、義姉は嬉しそうにセザールの顔を覗き込んでそんなこと言ってきた。
「わたしの婚約者です。失礼なことはしないでくださいよ」
自分をバカにする分には『一応家族』ということで大目に見てもいい。
だが、セザールに失礼を働くとなると話が違う。
太めの釘を刺した。
「婚約者? ハン! どうせ平民でしょ? 『男爵令嬢』でないならどうでもいいんだけど?』
くっだらないと、鼻で笑われた。
「頑張って着飾ってるけど、背伸びしたところでたかが知れてるっての!」
「ぁ」
自分を見下ろしたセザールが、ちょっと声を上げた。
今日の彼女は、一言で表すと中途半端な服装だった。
『男爵令嬢』というには地味過ぎ、『平民』というには気合が入り過ぎている。
『失敗した』と思ったようだ。
元鞘には収まったが、妻ではなく『側室』になることが決まっている。
あまり目立たないようにしようという心遣いが、裏目に出ていた。
「あ、ちょっ——」
カロスタークが慌てて腰を浮かせた。
義姉がセザールのイヤリングをひったくったのだ。
「ふーん。一応は本物なのか」
光にかざしながら、そんなことを呟いている。
光の屈折でガラス玉か宝石かを判定しているのだろう。
だけど、どうやら鑑定眼はないらしい。
硝子とダイヤの区別はつくが、ダイヤの等級を見極める目はないのだ。
そうでなければ、粒は小さいものの最高品質のダイヤを床に捨てたりはしないだろう。
どうせ安物と、侮っているのだ。
「名前は言える? お嬢ちゃん」
完全にバカにしている口調。
「っ!」
さすがに黙ってはいられない。
問答無用で帰ろうと、腰を浮かしかけたカロスタークだったが、その動きはすぐに止まった。
止められた。
セザールが裾を掴んでいたのだ。
「くっ」
なにをするのかと問おうとしたカロスタークは慌てて目を逸らした。
極限まで細められた目の奥で、炎が揺らめいている。
「聞こえてるぅ? お名前はなんでちゅかぁ?」
「セザール。セザール・フォン・モンモラシーです」
氷を吐き出しそうなほど、冷たく澄んだ声が撃ち出された。
パーン!
直後。
乾いた音が響いた。
義姉がセザールの頬を平手打ちしたのだ。
「ふざけないで。それはここの領主。男爵様の娘さんの名前。あんた程度が騙っていい名前じゃないの」
本気の怒気をぶつけられる。
頬は紅くなっていく。
「・・・・・・」
怯むことなく、見つめ返すセザール。
無表情に。
無感動に。
「な、なによ。気持ち悪い子ね!」
怯えも怒りもなく、冷めきった瞳を向けられた義姉は顔を歪めた。
「もう一度聞くわよ。名前は?!」
「セザール・フォン・モンモラシー」
答えが変わるはずもない。
冷めた目と澄んだ声が、横にいるカロスタークをも寒々しい気持ちにさせた。
怖すぎる。
「あ、あんたねぇ——」
怖いという点では、面と向かっている義姉の方が上だっただろう。
引き攣った顔で、セザールを睨みつけた。
ニマァ!
その顔が、ぐにゃりと崩れる。
なにか、とんでもないことを思い付いた顔だ。
「その態度、後悔させてあげる!」
捨て台詞を吐いて去っていった。
0
あなたにおすすめの小説
老婆令嬢と呼ばれた私ですが、死んで灰になりました。~さあ、華麗なる復讐劇をお見せしましょうか!~
ミィタソ
恋愛
ノブルス子爵家の長女マーガレットは、幼い頃から頭の回転が早く、それでいて勉強を怠らない努力家。さらに、まだ少しも磨かれていないサファイアの原石を彷彿とさせる、深い美しさを秘めていた。
婚約者も決まっており、相手はなんと遥か格上の侯爵家。それも長男である。さらに加えて、王都で噂されるほどの美貌の持ち主らしい。田舎貴族のノブルス子爵家にとって、奇跡に等しい縁談であった。
そして二人は結婚し、いつまでも幸せに暮らしましたとさ……と、なればよかったのだが。
新婚旅行の当日、マーガレットは何者かに殺されてしまった。
しかし、その数日後、マーガレットは生き返ることになる。
全財産を使い、蘇りの秘薬を購入した人物が現れたのだ。
信頼できる仲間と共に復讐を誓い、マーガレットは王国のさらなる闇に踏み込んでいく。
********
展開遅めですが、最後までお付き合いいただければ、びっくりしてもらえるはず!
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします
森 湖春
恋愛
長年の夢である世界旅行に出掛けた叔父から、寂れた牧場を譲り受けた少女、イーヴィン。
彼女は畑を耕す最中、うっかり破壊途中の岩に頭を打って倒れた。
そして、彼女は気付くーーここが、『ハーモニーハーベスト』という牧場生活シミュレーションゲームの世界だということを。自分が、転生者だということも。
どうやら、神々の悪戯で転生を失敗したらしい。最近流行りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生出来なかったのは残念だけれど、これはこれで悪くない。
近くの村には婿候補がいるし、乙女ゲームと言えなくもない。ならば、楽しもうじゃないか。
婿候補は獣医、大工、異国の王子様。
うっかりしてたら男主人公の嫁候補と婿候補が結婚してしまうのに、女神と妖精のフォローで微妙チートな少女は牧場ライフ満喫中!
同居中の過保護な妖精の目を掻い潜り、果たして彼女は誰を婿にするのか⁈
神々の悪戯から始まる、まったり牧場恋愛物語。
※この作品は『小説家になろう』様にも掲載しています。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
靴を落としたらシンデレラになれるらしい
犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。
突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー)
私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし…
断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して…
関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!?
「私には関係ありませんから!!!」
「私ではありません」
階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。
否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息…
そしてなんとなく気になる年上警備員…
(注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。
読みにくいのでご注意下さい。
【連載版】婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
短編では、なろうの方で異世界転生・恋愛【1位】ありがとうございます!
読者様の方からの連載の要望があったので連載を開始しました。
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
※連載のためタイトル回収は結構後ろの後半からになります。
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる