商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

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【クロエ編】

第8話 撃ち放たれた矢は飛び続けることは叶わず、戻ることもない~後編~

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 「で? 謝罪は?」
 事情がいろいろと判明したところで、話が戻された。

 「伯爵家とはいえ妾腹の子が、男爵家とはいえ当主を殴った。タダで済むとお思いですか?」
 カロスタークを除く全員の顔色が変わった。
 同じ貴族という枠内ではあるが、立場が違い過ぎる。
 
 『貴族院』や『王家』が認めれば、カロスタークは不敬罪を適応できるかもしれない。
 つまり、ジョルジュを断頭台に送れるということだ。

 「いや。これはもう、詫びてどうにかなる状況じゃないと思う」
 「私たちという証人がいる以上、なかったことにはできませんわ」

 「お前らが黙ってりゃいいだけだろ!」
 命の危機。
 必死の形相でジョルジュが怒鳴るが、声が大きいだけで張りも勢いもない。

 「僕らが黙っていても意味はないさ」
 「なんでだよ!」
 「アンヌが言っただろ? 宰相が繋がりをもちたい相手を呼んだんだって。そして、この部屋に入るのに賄賂が有効だったと」
 「だからなんだ?!」
 「カロスターク君のことを気にかけていないわけがないんだよ。そうでしょう?」
 ニコラは誰とはなく、部屋の外を意識した問いかけを放った。

 「よくお気づきになられましたな」
 静かに壁が開いて、カロスタークや他の者たちを部屋へ案内した執事が現れた。
 隠し部屋で様子を窺っていたらしい。
 あるいは監視だろうか?
 
 「ことのあらましを主に報告せねばなりません。主はなかったことにはしないでしょう」
 「主って誰だよ!」
 予想はできる。
 予想はできているが、問わずにはいられなかった。
 ジョルジュの命運を握る人物だからだ。

 「宰相閣下です」
 その答えを全員が無言で受け入れた。

 『うん。知ってた』、と。



 パーティーは予定通り開かれた。
 数十を数える参加者がダンスや食事を楽しみ、談笑している。

 そんな中、カロスタークたち6人は壁際に寄り、ピリピリとした雰囲気で話をしていた。
 異様な雰囲気のせいで、誰も近寄れないでいる。
 
 といっても、6人が固まっているわけではない。
 4人と2人に分かれていた。

 「呼び出されるのを待つか、自主的に行くか、だな」
 呼び出されないということはないだろう。
 カロスタークとの間に何かしらの繋がりを作ろうとしているのであれば、このトラブルも好機と捉えるだろうからだ。
 
 「カロスターク様は、どう思われますか?」
 なんであれ、中心は貴方でしょうとアンナが問いかけた。

 「全員が揃って行けるのなら、こっちから出向くのがいいと思う。時間を置くと、宰相閣下はきっと事を大きくして、政治問題化するに違いない」
 「ああ・・・」
 「それは——」
 「あり得ますわね。確かに」
 宰相の手腕を知る者たちから、ため息が漏れた。

 「それなら、明日にでも行く?」
 「オレは問題ないよ」
 「私もよ」
 「僕もだ」
 四人は全員行けそうだ。

 となると・・・。
 残りの二人に視線が集まった。


 「ってことなんだが、君らはどうかな?」
 放ってもおけないので、全員で確認に行った。
 
 パーティー会場の一隅で6人が輪を作る。
 ムダに目立つが、これは仕方がない。

「ふ、不敬罪で首を刎ねるの?!」
 そんなことは許さないと、クロエがカロスタークに嚙みついた。
 声量はかろうじて抑えているが、刺々しさはむしろMAXだ。

「冗談。首なんて貰っても銅貨一枚の得にもならないよ。とはいえ、宰相は慰謝料の支払いだけでは納得しないだろうな。何か考える必要がある。でも、首なんていらないってのはハッキリ言える」
「なら、いいわ。ね?」
「あ、ああ。それなら明日一緒に行くよ」
 いろんな意味で、ゾンビのようになったジョルジュも同意した。

 明日、宰相府を訪問することが決まったのだ。

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