商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

文字の大きさ
85 / 261
【エルザ編】

第7話 花は待てども風は吹かず

しおりを挟む
 

 「お久しぶりね」
 時は流れて、ある日のディナーにエルザがいた。

 「どういう風の吹き回しですか?」
 心境の変化でもあったのかと訊ねるカロスターク。

 「業務連絡よ」
 固い表情と声で答えるエルザ。

 「業務連絡?」
 「五日後に園遊会があるの。あの人の家主催でね。参加するから用意しておいて」
 「一人で行けばいいんじゃないか?」
 「婚約者を連れて行くからこそ焦らせられるの! 一人で行ったんじゃ、何も変わらないでしょう?!」
 バカじゃないの? って言わんばかりの反応が返ってきた。
 
 やっぱり意味が解らない。
 カロスタークは理解しようと努力することを諦めた。

    ◇エルザ視点◇

 「……本当に、これでいいのかしら?」

 部屋に戻ると、エルザはほんの少し顔を曇らせた。

 「さぁさぁ、お嬢様。ドレスの手直しが済みましてございます。こちらで合わせてみてくださいな」
 幼いころから付き従っているメイドに、慣れた手つきで鏡の前へと引き寄せられた。
 エルザのすべてを知っている相手なので、燃え親代わりどころか自分の体の一部とすら思える時がある。

 「だけど、貴族の娘としてはおかしなことなのではなくて?」
 エルザは鏡の前でドレスの裾を整えながら、背後の老メイドに問いかけた。

 他の令嬢たちと自分に何か『ズレ』があるのではないか?
 そんな不安がある。

 「そんなことはございません。誰でもしていることでございます。皆さん隠すのがお上手なのです。私のようなものが何人もついておりますから」
 お嬢様には、わたくし目が一人だけだから、『ズレ』て見えおるのだと解説してくれた。

 しまいには「私が至らないばかりに―――」と泣きだされたので宥めるのが大変だった。
 これ以上、不安な態度を見せると厄介なことになりそうだ。

 「えっと。ともかく、このドレスを着て園遊会に行くのね」
「ええ。行かねばなりません。今こそ、あの方に想いを伝える最後の機会です」

「でも……カロスターク様を連れて行くのは、さすがに失礼ではなくて?」

「お嬢様。あの方は“婚約者”です。連れて行くのが当然でございます」

「でも、彼は……」

「“彼”ではなく、“あの方”に見せつけるのです。お嬢様がどれほど素晴らしい方かを」

 老メイドは静かに、しかし確信を持って言い切った。

「男というものは、失って初めて気づくもの。お嬢様が他の男と並んでいる姿を見れば、きっと心が揺らぎます」

「……そう、かしら」

「ええ。あの方は、きっとお嬢様を迎えに来てくださいます」

 エルザはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。

「わかったわ。連れて行くわ。カロスターク様を」

 その声には、どこか不安と決意が入り混じっていた。

 老メイドは静かに微笑んだ。

「よろしゅうございます。すべては、お嬢様の幸せのために」

 下げた頭の影で、ガラス玉のような目が光り、唇が三日月のように細く、禍々しいほど吊り上がっていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

老婆令嬢と呼ばれた私ですが、死んで灰になりました。~さあ、華麗なる復讐劇をお見せしましょうか!~

ミィタソ
恋愛
ノブルス子爵家の長女マーガレットは、幼い頃から頭の回転が早く、それでいて勉強を怠らない努力家。さらに、まだ少しも磨かれていないサファイアの原石を彷彿とさせる、深い美しさを秘めていた。 婚約者も決まっており、相手はなんと遥か格上の侯爵家。それも長男である。さらに加えて、王都で噂されるほどの美貌の持ち主らしい。田舎貴族のノブルス子爵家にとって、奇跡に等しい縁談であった。 そして二人は結婚し、いつまでも幸せに暮らしましたとさ……と、なればよかったのだが。 新婚旅行の当日、マーガレットは何者かに殺されてしまった。 しかし、その数日後、マーガレットは生き返ることになる。 全財産を使い、蘇りの秘薬を購入した人物が現れたのだ。 信頼できる仲間と共に復讐を誓い、マーガレットは王国のさらなる闇に踏み込んでいく。 ******** 展開遅めですが、最後までお付き合いいただければ、びっくりしてもらえるはず!

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします

森 湖春
恋愛
長年の夢である世界旅行に出掛けた叔父から、寂れた牧場を譲り受けた少女、イーヴィン。 彼女は畑を耕す最中、うっかり破壊途中の岩に頭を打って倒れた。 そして、彼女は気付くーーここが、『ハーモニーハーベスト』という牧場生活シミュレーションゲームの世界だということを。自分が、転生者だということも。 どうやら、神々の悪戯で転生を失敗したらしい。最近流行りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生出来なかったのは残念だけれど、これはこれで悪くない。 近くの村には婿候補がいるし、乙女ゲームと言えなくもない。ならば、楽しもうじゃないか。 婿候補は獣医、大工、異国の王子様。 うっかりしてたら男主人公の嫁候補と婿候補が結婚してしまうのに、女神と妖精のフォローで微妙チートな少女は牧場ライフ満喫中! 同居中の過保護な妖精の目を掻い潜り、果たして彼女は誰を婿にするのか⁈ 神々の悪戯から始まる、まったり牧場恋愛物語。 ※この作品は『小説家になろう』様にも掲載しています。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。 突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー) 私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし… 断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して… 関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!? 「私には関係ありませんから!!!」 「私ではありません」 階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。 否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息… そしてなんとなく気になる年上警備員… (注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。 読みにくいのでご注意下さい。

【連載版】婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
短編では、なろうの方で異世界転生・恋愛【1位】ありがとうございます! 読者様の方からの連載の要望があったので連載を開始しました。 シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます! ※連載のためタイトル回収は結構後ろの後半からになります。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...