商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

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【女将軍編】

第6話 目を閉じて虚言を聞く。鼠は乗る船を選ぶ ~後編~

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 敵の存在を知らぬまま、下士官以上の者たちが先行していく。
 彼らが騎馬であるからと、後続のために速度を緩める気づかいをしないためだ。
 休憩を入れもしない。
 
 歩兵は引き離され、期せずして騎馬部隊——第三軍の中核部隊——は孤立した。
 そこへ、敵の伏兵が襲い掛かる。

 その付近には、浅いながら窪地があった。
 兵が身を隠すのに充分なだけの窪地が。
 一般兵はそれを知っていたが、偵察を舐めた下士官以上の者は知らずにいた。

 完璧な奇襲。
 第三軍の中核は一瞬にして瓦解することになる。


 「だと思っていたよ!」
 これを遠視した一般兵たちは、踵を返して振り返ることなく、逃げた。
 『優秀な』、士官たちに殿を任せて。

 
 この戦いで、敵に叩きのめされたのは全体の1割強。
 三千ほどだった。
 下士官以上の中核五千のうち半数以上ということになる。

 シャリィア司令以下、軍の中枢ばかりだ。
 大多数の一般兵は、彼女、彼等に放置されていたおかげで助かったことになる。
 
 
 「負けた?!」
 伝令からの報告を聞き、カロスタークは目を剥いた。

 国軍が出撃して行ってまだ十日も経っていない。
 移動や陣立てなどを考えるに、一戦しただけの頃合いだ。
 にもかかわらず、いきなり負けただと?
 あれだけ大口叩いておいて、だ。

 「国軍は総崩れ。全軍上げて敗走中であります!」
 万が一に備え、後をつけさせていた偵察部隊からの報告だ。
 保険のつもりだったのだが、ここまで役立つことになるとは予想外である。

「役に立たぬやつ!」
 吐き捨てるように叫んで、カロスタークは怒りを発散させた。

 まずは冷静にならなくてはならない。
 第三軍は総崩れ、新たに援軍が来るには時間がかかる。
 早くて十日後といったところか。
 宰相の言っていた第二陣が来るのが、だ。

 宰相の考えでは合わせて6万あれば大丈夫と考えていたはず。
 それが、第一陣が総崩れでは話にならない。
 第二陣。第四軍だろうが、これが第三軍よりましな軍である保証もなかった。


「ミヌミエーラ男爵に連絡。第三軍の兵士を可能な限り救出。自軍に取り込めとな!」
 兵は数だ。
 全滅させずに吸収して軍を再編成する。
 そのうえで、逆撃を加えて撤退に追い込む。
 これしかない。

 「はっ!」
 伝令が走っていく。

 国軍に頼り過ぎたことで時間を無駄にした。
 もう、救援も避難も間に合わない。
 ここで迎え撃つしかない。

 この町を奪われたら、被害は甚大。
 取り戻すことは困難となる。
 カロスタークは覚悟を決めた。

 「町中に触れを出せ。非常事態を宣言する。全ての物、人をかき集めて防御を図る。急げ!」
 民間人を徴収してでも、この地で決戦を。
 そして勝つ。

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