127 / 261
【ミーラン編】
第12話 毒と薬は別物に見えて、本質は同種たらん ⑨
しおりを挟む『翼人族』の居留地は森の中の空き地にあった。
何年か前の山火事の跡地だ。
森の中に突然開けた土地があり、そこに木の枝や干し草で簡易の家が建てられている。
簡易とは言うが、しっかりと作られており牧歌的な村という雰囲気があった。
「ここ。ファルケの家」
その村の真ん中にあって、ひときわ大きな家に案内された。
族長の長女ということで、かなり優遇を受けているようだ。
「使い道もないのに、無駄に広い」
ミーランの評価は辛らつだった。
定住するわけでもない居留地の簡易の家。
必要のない部屋なんて労力と資材の無駄というわけだ。
確かにそうなのだろうとは思うけど、とカロスタークは肩をすくめた。
商人としては納得できるし同意もするが、貴族としての見地に立つと一族を束ねる者にはそれ相応の権威が必要だという考えもわからなくはない。
「えっと。とりあえず、誰か呼んでお姉さんに連絡を入れた方が——」
「いらない」
——いいのでは?
言いかけた言葉をさえぎって、ミーランはずんずんと歩いていく。
「私たち目がいい。森の中に居ても『亜人の町』から来る人影を見分けるくらい簡単。だから、ファルケはとっくに私がここに来ること知ってる。知ってて迎も出さない、止にも来ない。これ、来るなら勝手に来いってこと」
「あー。そうなのか」
歓迎はしないが、一族の仲間たちへの手前無下に追い返すわけにもいかない。
こういう対応になるわけだ。
長宅に戻ったらさっそく仕込みだ。
ライアンの音頭でミイラ族のメイドたちが肉を切り、湯を沸かし、野菜を洗って皮を剝く。
生活戦争最前線での戦いが始まることになる。
◇
ミーランの足は、家の中に入っても緩まなかった。
ずかずかと奥へ入っていく。
ついていくカロスタークは気が気でない。
背中が変な汗で湿っている。
奥のままでいきつくと、ファルケがいた。
部下らしい女性に脚の爪の手入れをさせているらしい。
どう見ても、客を迎える態度ではない。
「鳩と木実鳥の番いか、似合い過ぎててウケる」
そして、ミーランとカロスタークを見た途端、そんなことを言う。
なにを言われたのかわからず、ポカンとするカロスタークの横でミーランが顔色を変えた。
「ファルケの羽なし!」
すさまじい剣幕で怒鳴る。
ファルケも目を剥いた。
呼び捨てにされるとは思わなかったらしい。
「妹のくせに!」
生意気な!
目を怒らせるが、怒っているのはミーランも同じだ。
「族長候補のくせにお客に——ううん、違う——土地を治める領主にそんな口を利くような愚か者に言われる筋合いない!」
感情的に暴言を吐いた姉に対し、妹はきっちり論理を展開した。
族長たるもの、一族以外の者との交渉事は必ずある。
その時に、相手とどう接するかは確かに重要だ。
カロスタークには、未だ言われたことの意味が解っていなかったけれど。
「なぁ。どういう意味だったんだ?」
瞬殺で論破され、思考停止と言語麻痺に陥っているファルケを横目に、カロスタークは問いかけた。
それがわからないと、どんな態度でいればいいかさえ判断できない。
「あー。そか。わかんなかったのか」
キョトンとした顔になったあと、ミーランはバツが悪そうに苦笑いした。
「鳩っていうのは私を指した言葉。鳩は鳥の中で特に物覚えが悪いって言われてるんだ。だから、わたしのことをバカって言ったことになる。木実鳥っていうのは言葉の通り木々の実をついばむ鳥ってことなんだけど——。身軽で同じく木の実を食べる猿のことを表すものでもあるのね。つまり、『バカとサルが連れ立ってきた、似合い過ぎてて笑える』ってこと」
「なるほど。そういう意味だったのか」
なにを言われたのかと驚いたが、聞けばありがちな悪口だ。
気が抜けそうなほどレベルが低い。
——とすると。
『羽なし』は、察するに『役立たず』とか『知恵なし』って意味かな。
「妹のくせに何て言い草だ!」
と、ファルケが再起動した。
再起動したが、言っているのは相変わらず「妹のくせに」だけ。
語彙力があまりないらしい。
どっちが鳩なのかって思ってしまう。
「一族の命運がかかった大事な集まりがある。それに招待に来たんだけど・・・来る?」
答えはわかってるけど、礼儀上聞いてあげる。
そんな態度でミーランが確認した。
「いかねぇよ!」
イラ立ったように叫ぶファルケ。
申し訳ないが、人の上に立つ態度じゃないなとカロスタークは思った。
爪の手入れをしてくれていた女性の顔を踏みつけている。
妹に負けた腹癒せということだろう。
見ていて心愉しいものではない。
「行こう。話しにならない」
ミーランが、寂しげな顔を一瞬だけ見せて踵を返した。
目元がキツクなって、並々ならぬ意思が窺える。
姉はダメでも、他の重鎮には来てもらわないと、との使命感が漲っていた。
0
あなたにおすすめの小説
老婆令嬢と呼ばれた私ですが、死んで灰になりました。~さあ、華麗なる復讐劇をお見せしましょうか!~
ミィタソ
恋愛
ノブルス子爵家の長女マーガレットは、幼い頃から頭の回転が早く、それでいて勉強を怠らない努力家。さらに、まだ少しも磨かれていないサファイアの原石を彷彿とさせる、深い美しさを秘めていた。
婚約者も決まっており、相手はなんと遥か格上の侯爵家。それも長男である。さらに加えて、王都で噂されるほどの美貌の持ち主らしい。田舎貴族のノブルス子爵家にとって、奇跡に等しい縁談であった。
そして二人は結婚し、いつまでも幸せに暮らしましたとさ……と、なればよかったのだが。
新婚旅行の当日、マーガレットは何者かに殺されてしまった。
しかし、その数日後、マーガレットは生き返ることになる。
全財産を使い、蘇りの秘薬を購入した人物が現れたのだ。
信頼できる仲間と共に復讐を誓い、マーガレットは王国のさらなる闇に踏み込んでいく。
********
展開遅めですが、最後までお付き合いいただければ、びっくりしてもらえるはず!
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします
森 湖春
恋愛
長年の夢である世界旅行に出掛けた叔父から、寂れた牧場を譲り受けた少女、イーヴィン。
彼女は畑を耕す最中、うっかり破壊途中の岩に頭を打って倒れた。
そして、彼女は気付くーーここが、『ハーモニーハーベスト』という牧場生活シミュレーションゲームの世界だということを。自分が、転生者だということも。
どうやら、神々の悪戯で転生を失敗したらしい。最近流行りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生出来なかったのは残念だけれど、これはこれで悪くない。
近くの村には婿候補がいるし、乙女ゲームと言えなくもない。ならば、楽しもうじゃないか。
婿候補は獣医、大工、異国の王子様。
うっかりしてたら男主人公の嫁候補と婿候補が結婚してしまうのに、女神と妖精のフォローで微妙チートな少女は牧場ライフ満喫中!
同居中の過保護な妖精の目を掻い潜り、果たして彼女は誰を婿にするのか⁈
神々の悪戯から始まる、まったり牧場恋愛物語。
※この作品は『小説家になろう』様にも掲載しています。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
靴を落としたらシンデレラになれるらしい
犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。
突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー)
私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし…
断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して…
関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!?
「私には関係ありませんから!!!」
「私ではありません」
階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。
否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息…
そしてなんとなく気になる年上警備員…
(注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。
読みにくいのでご注意下さい。
【連載版】婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
短編では、なろうの方で異世界転生・恋愛【1位】ありがとうございます!
読者様の方からの連載の要望があったので連載を開始しました。
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
※連載のためタイトル回収は結構後ろの後半からになります。
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる