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【ミーラン編】
第13話 毒と薬は別物に見えて、本質は同種たらん ⑩
しおりを挟む数時間後。
「完成だぜ」
ふいーっ、とライアンが腕で汗を拭く仕草をして見せた。
実際は汗なんて掻いていないので、気分的なものだろう。
木のトレイに一人分ずつまとめられたのは『レバーとホラソンの炒め物』、『リモールの果肉とテラルのスープ』、『塩を混ぜ込んだホットワイン』、『リモールの皮とホラソンのサラダ、イルミーナソース添え』、というものだった。
見た目はそれほど派手さもなく、普通の料理だ。
仕入れの値段も、銀貨が数枚だったのでそんなに高くはないと思う。
たぶん!
長宅のホールには長テーブルと椅子が並べられ、ミーランをはじめとした翼人族が着座して待ち構えている。
「翼人族の皆さん、お待たせいたしました。これから食べていただきますのは、健康を維持することを目的とした特別な食事となります。もちろん、完成ではなく試作の段階ですので食べてみてざっくばらんに意見をいただくことで、よりよいものを作る叩き台としたいと思っております」
進行はセザールがしている。
「見た目は良さそうだが」
「問題は、体調不良に効くかどうかだろ」
「こんなものがか?」
翼人族の面々が不審そうに料理をフォークでつつきながら、眺めている。
「そんなに不味くはないよ」
そんな中、平然ともぐもぐという咀嚼音と共に言葉を吐いたのはミーランだ。
ぎょっとした目を向ける重鎮たちには目もくれず、食べ物を口に運んでいる。
その様子を凝視していた重鎮たちが何かに気が付いた顔で頷き、食事を開始した。
「・・・ふむ。なるほどな、何となくだが力が湧く感触がある」
ホットワインを口に含んで、呟いた。
「うまい。体が求めているのを感じられる味だ」
さらにレバーの炒め物などにも手を伸ばしていく。
一口ごとに、自分の体と会話をするかのように間をあけながら、噛みしめる。
やがて、結果は出た。
翼人族の前には、空になった器が並んでいる。
誰もが完食していた。
味は良かったということだろうか。
緊張で足が震えそうになりながら、カロスタークは重鎮たちを見た。
目をつぶり、腕を組んで何やら考えている様子の顔を。
やがて、ゆっくりと口が開かれた。
「結論は出さぬ。まだその時ではないと思うのでな。だが、この食事はよくできていると思う。なんと言うか・・・手応えを確かに感じたからだ。体調は回復するかもしれん」
よしっ!
カロスタークは内心でガッツポーズをかました。
管理栄養士がまだ到着していない段階で、この答えがもらえるなら現段階では充分だった。
これから、もっと精度を上げていく予定なのだから。
「『亜人の町』では翼人族のために、このメニューを朝から夕までの間であればいつでも提供できる態勢を維持していく。力が出ないと思った時、いつでも食べに来ていただきたい」
町で食事を提供し、栄養状態を管理する。
まず、目指すべきはそこだろう。
「了解した。一族の者には伝えておこう」
そういうと、重鎮たちは立ち上がり、仲間たちを連れ立って飛び去っていった。
◇
数週間後。
『翼人族』の体調不良は払しょくされた。
ほぼ全員が健康体になったのだ。
『ほぼ』なのはファルケを始めとする数人が、頑なにカロスターク提案の食事を食べようとしなかったからだ。
結果、その者たちはどんどん衰弱していった。
皮肉にも、そのことが『食事管理の是非』をハッキリと示す結果となる。
ミーランが一族の総意で族長となり、カロスタークとの交渉役と定められた。
――という体で、実を言えば陰ではカロスタークの子を、との思惑があった。
ミーランが、カロスタークに恋心を感じていると知ってのことだ。
だが、彼女自身はまだその感情に名前をつけていなかった。
ただ、彼の隣にいると、胸の奥が少しだけ温かくなる――
それだけのこと。
それでも、年長者たち――特に伴侶や子を持つ女性――には未来が透けて見えるほど、はっきりしていた。
まだ幼い恋心を、そっと背中から押してやりたい。
そんな気持ちが、年長の女たちの間に静かに広がっていた。
男たちにはもっと政治的な意図があった。
領主の子を次代の族長に戴けるならば、一族は安泰。
そんな腹積もりがある。
この時にはもう、カロスタークの領地に併合されることが決定しており、土地の主との関係を密接なものとするに憚ることなしとなったからだ。
ミーランにその気が全くないなら、もちろん無理強いするつもりなどない。
だが、その気があるなら、一族を上げて後押しをする。
そんな合意がなされていた。
そして、ファルケだが・・・。
「さっき見てきた。鶏ガラみたいになってた」
ミーランが力なく首を振る。
骨と皮だったということだ。
嫌われていた姉とはいえ、身内がそれで嬉しいはずはない。
「鶏肋だってもう少し肉があるよ」
そう言ってミーランは息を吐き、二度と姉の話をすることはしなかった。
しょんぼりと下げられた肩を、カロスタークは優しく抱き寄せる。
後ろではその様子を見守るセザールの姿があった。
「よしよし」
小さく頷いたその目は、まるで何かを見届けたような、どこか寂しげな色をしていた。
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