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【戦場にて】
第16話 乗る船が同じでも、行先まで同じとは限らない ①
しおりを挟むさて、この時。
作戦を遂行中の帝国軍はどう動いていたか?
実を言うと大きく二つに分かれていた。
兵站部隊の荷馬車は3桁に及ぶ数だ。
これを一カ所にまとめて動かしたのでは、明らかに異常。
罠だと警戒されてしまう。
罠と気付かせないよう数は抑えなければならないのだ。
そして、効率というものもある。
帝国軍にも偵察兵はいるが、偵察兵というのは相手の動きを知るための手段であると同時に、自分たちの情報が敵に知られるリスクでもある。
よって、王国軍に悟られないよう、このときは活動数を減らしていた。
活動する偵察兵が少ないということは何が起こるか?
王国軍の居場所などが掴みづらくなる。
『だいたいこの辺りからこの辺りの範囲』としか言えなくなるのだ。
罠を張る場所をピンポイントで指定するのが困難となる。
そこで、『エサ』を二つ用意していた。
作戦に投入された全軍を二つに分けたのだ。
『東側に大きく寄って移動する隊』、『西側に大きく寄って移動する隊』だ。
これにより、王国軍が罠に気が付きやすくなり、襲いやすくなる
各部隊の数はおよそ五万。
レッドルア軍とほぼ同数。
敵より多くの兵を集めて当てよという兵学上の常識を軽んじる暴挙なのだが、そこは罠に嵌める前提であることで無視されている。
そして、この二つの部隊はさらに二つずつ四個の隊に細分化される。
荷馬車に重装歩兵を載せた『囮部隊』。
囮部隊の後ろについて進み、敵の攻撃があれば即座に展開して敵を包囲する『包囲部隊』。
この二つだ。
◇
『囮部隊』の場合。
「勘弁してほしいぜ」
一人の兵士が、愚痴をこぼした。
座りっぱなしの尻が痛い。
完全武装なので尻の下には鉄の感触、その下は剥き出しの木製荷台だ。
尻と腰への負荷がすごいのだ。
狭い場所に詰め込まれているせいで息苦しい。
そして、暑い。
荷馬車に載せられている兵なのである。
荷馬車に詰め込まれてすでに十時間は越えていた。
汗が出ていた。
何時間もの車上待機で、作戦の性質上外へ出ることは許されない。
手足を伸ばすこともできず、生理現象の欲求があった場合は我慢か垂れ流ししかない。
鼻を衝く臭いからして、すでに決壊させたものも何人かいるだろうと思われた。
もはや、敵の襲撃を今か今かと待つ心境だった。
戦闘が始まれば死ぬ可能性も高まるが、今はとにかく外へ出たかった。
「クソっ、敵の野郎。早く来いよ。エサだぞ!」
「中身は俺たちだけどな」
「俺なら食わねぇ」
「それだとずっと出れねぇぞ!」
「死ぬよりはマシだ」
「あんだと、ごら!」
あちらこちらから次々に言葉が出る。
愚痴が広がっていく。
会話を楽しもうというのはない。
ただ、何か言わずにはいられないだけだ。
不満や不安、ストレスが極限に達しかけている。
言葉に、声にして吐き出さないと精神がパンクしそうなのだ。
「クッソ―。さっさと攻撃してきやがれ!」
荷馬車に載せられた兵たちの、それが切実な願いとなっていた。
◇
『包囲部隊』の場合。
「ちっ。『囮』のやつらは楽でいいよな。座ってりゃいいんだからよっ!」
口に入った砂とともに、不満を吐く兵がいる。
地べたに這いつくばるようにして進んでいるのだ。
荷馬車の群れという『エサ』を用意し、しかも無防備に見せることで敵の襲撃を誘う。
それが『罠』である以上、彼ら『包囲部隊』は決して敵に見られてはいけない。
気付かれてはいけないのだ。
だから、目視で確認されないよう、身体を低くして這うように進むほかない。
馬に乗っている隊長クラスは、部隊の中央に列を作っている。
部隊の真ん中付近にいるモノはそれでもいいが、端の方にいる兵たちは立つこともできない苦しい行軍を続けていた。
姿勢を低く保ち、草の茂みに身を隠すように進む。
この体勢だと、ちょっとした風で舞い上がった砂が目や口に入りやすい。
嫌気も差そうというものだ。
「俺、もう膝が笑ってて力が入んねぇんだけど?」
「誰だって同じだよ!」
「こんなんで、いざ戦えって言われても・・・走れるかな?」
「無理じゃね?」
「誰だよ。こんな馬鹿な作戦立てたの?!」
「「「「「言うな。わかり切ったことを、言うな」」」」」
思わず叫んだ兵士に、周囲の全員が揃って答えた。
バカバカしい作戦なのは、みんな知っている。
用兵学なんてものとは縁のない末端の兵でさえも。
軍隊とは数だ。
その数をわざわざ分けて、敵と同数にしている。
罠を仕掛けるためとはいえ、リスクが高すぎた。
いわば、これはギャンブルだ。
兵士の命をチップとして大量に盤上へ積み上げてのギャンブル。
とんでもない愚行である。
敵の補給が止まっているのなら、何も賭けをする必要はない。
ただ待てばいいだけだ。
飢え始めたところで攻める。
あるいは、食糧を奪おうと攻め込んでくるのを迎え撃つ。
それなら楽に勝てただろうに。
「これ、勝てると思うか?」
「どうかね?」
「補給を断たれてるって情報が正しいかどうかが決め手かな?」
「本当は断ててない?」
「ここは王国領だからな」
王国の南西部からの補給とか、方法はいくらでもある・・・かもしれない。
「はぁ、まったく。おのお姫様はロクなことをしねぇよな」
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その気遣いがいらない第五皇女なら、親として接することができるわけだ。
「なんにせよ。俺たちはオモチャってことさ」
「違いねぇ」
諦めたような笑いが広がっていく。
兵士は消耗品。
いくらでも代えの利く道具。
そんなことは、兵士たち自身がよくわかっている。
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