160 / 261
【ロチェス編】
第1話 辺境伯のお仕事 ①
しおりを挟む『人事』。
帝国の領地を奪って一年が過ぎた。
カロスタークは19歳となり、なんと側室が増えた。
『グリトリアン』子爵の妹である。
正式に『辺境伯』への昇爵が公表された日。
王宮内での戦勝祝賀会で申し込まれ、受けた形だ。
グリトリアン子爵家も地政学的な理由で、辺境伯の傘下に入ることが定まっている。
より強い繋がりを持つことは双方にとって悪くない。
こちらから要求するつもりは皆無だったのだが、向こうから是非にと言われて拒絶できる話ではなかった。
もちろん、表向きの理由ばかりではなく、裏の理由——帝国との繋がりを王家に知られたくない子爵からの口止めという側面――もあることは承知の上だ。
だからこそ、断れなかったとも言える。
断って子爵を追い詰めれば、焦ってバカなことをしでかしかねない。
受け入れて安心してもらわないと、こっちが不安になりそうだった。
高度に政治的な判断だ。
「えーっと。リュゼの担当はグリトリアン子爵領ね。お兄さんをうまくコントロールして欲しい。問題が起きたら相談すること。何とか解決策は探すから」
子爵の性格を初顔合わせで理解したカロスタークは、王都の邸宅に引っ越してきたリュゼにまずはそう告げた。
風向きと強さしだいで、どっちに流れるかわからない危うさが目に付いたのだ。
あの凧は糸をしっかり握っていないとどこに飛ぶかわからない。
そんな危機感がそうさせた。
「あー、善処します?」
なぜに疑問形?
問い質したい発作が起きるが、カロスタークは耐えた。
断言できないのも当然と思えてしまったから。
セザールやフランソワの反応は極めてドライだった。
一度裏切った上で側にいる子たちなので、いまさら独占欲とかはなく、嫉妬という感情もわかないらしい。
これは第三夫人のアンヌも同様だ。
むしろ、そんな資格はないのだと悟りを開いた菩薩の顔で泰然としていた。
穏やかなのに、なぜかコワかったとは夜のお勤め後のカロスタークの言葉である。
——だけではない。
「これは絶対です!」
珍しいことに、セザールが真顔でカロスタークに詰め寄った。
セザール騎士団に、絶対に入れなければならないメンバーが現れたのだ。
幸いなことに、その人物は金を要求してはいなかった。
無償で働いてくれる。
唯一の条件は「カロスターク様のモノになること」だ。
名前を、エルザ・フォン・シエルアージュ。
カロスタークの三番目の婚約者だった女である。
婚約破棄後、とある修道院で清廉な生活を送っていたはずだった。
この『清廉な生活』が重大な結果をもたらしていた。
なんと、清らかな魂になり過ぎたらしく『聖女』を顕現させたのだという。
人体の部分損壊をすら元通りに癒す極級治癒魔法の使い手となったのだ。
そしてついさっき、セザール騎士団が警備する捕虜収容所で『奇跡』を起こしたばかりだった。
荷馬車を囮に使った作戦で、最初の魔法による一撃で吹き飛ばされた司令官の治療だ。
右足は付け根から、左足は膝から、右手は肩と肘の間から、左手は人差し指と中指を残して他三本、千切り飛ばされていた女司令官の完全治癒を行ってのけていた。
治癒能力の高さに目を見開いたセザールは、是非にも欲しいとカロスタークに直談判に来ていた。
味方の損耗——それも命の——を最小とするにはぜひとも欲しい人材だった。
そして、それはカロスタークにとっても同じである。
「あー。うん。側室なら、問題ないかな」
夫人にするのはハードルが高いが、側室にする分には制限がない。
法と慣習がそう言っている。
妨げになるとすれば、夫人と現在の側室たちの反応となるが・・・。
第三夫人が何かを言うはずはなく、側室のまとめ役的存在のセザールの推薦だ。
どこにも問題はない。
「シエルアージュ侯爵に話を通してみよう」
諸手を上げて同意してくれるだろうけど。
カロスタークの予想は当たった。
シエルアージュ侯爵は予想を上回る歓迎ぶりで、娘がいいところに片付いたと喜びしきりだった。
次期当主の兄も、何かを期待する顔で賛成を表明してくれたものだ。
領内の農地開拓の件だろうなと、カロスタークは当たりを付けている。
順調に進んでいると聞いたが、加速させられればさらにいい。
そんな風にでも考えているのだと思われた。
大したことの無い話だ。
力添えをするぐらいのことはできる。
間を置くことなく、カロスタークは資金援助を行った。
教会にも寄付を送っている。
恒久的に定額を納める旨の約定を交わしたのだ。
他にも帝国人であるネルケ、マーガレットも顔を揃えている。
いまさら、帝国へは帰れないのだ。
公式には戦死扱いとなっているが、商人の情報網を使って家族へは安否を知らせてある。
基本的には『死んだものとする』、『王国で健やかに暮らせ』という返事が返ってきているようだ。
こんな感じで、カロスターク陣営は人材を増やしていた。
0
あなたにおすすめの小説
老婆令嬢と呼ばれた私ですが、死んで灰になりました。~さあ、華麗なる復讐劇をお見せしましょうか!~
ミィタソ
恋愛
ノブルス子爵家の長女マーガレットは、幼い頃から頭の回転が早く、それでいて勉強を怠らない努力家。さらに、まだ少しも磨かれていないサファイアの原石を彷彿とさせる、深い美しさを秘めていた。
婚約者も決まっており、相手はなんと遥か格上の侯爵家。それも長男である。さらに加えて、王都で噂されるほどの美貌の持ち主らしい。田舎貴族のノブルス子爵家にとって、奇跡に等しい縁談であった。
そして二人は結婚し、いつまでも幸せに暮らしましたとさ……と、なればよかったのだが。
新婚旅行の当日、マーガレットは何者かに殺されてしまった。
しかし、その数日後、マーガレットは生き返ることになる。
全財産を使い、蘇りの秘薬を購入した人物が現れたのだ。
信頼できる仲間と共に復讐を誓い、マーガレットは王国のさらなる闇に踏み込んでいく。
********
展開遅めですが、最後までお付き合いいただければ、びっくりしてもらえるはず!
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします
森 湖春
恋愛
長年の夢である世界旅行に出掛けた叔父から、寂れた牧場を譲り受けた少女、イーヴィン。
彼女は畑を耕す最中、うっかり破壊途中の岩に頭を打って倒れた。
そして、彼女は気付くーーここが、『ハーモニーハーベスト』という牧場生活シミュレーションゲームの世界だということを。自分が、転生者だということも。
どうやら、神々の悪戯で転生を失敗したらしい。最近流行りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生出来なかったのは残念だけれど、これはこれで悪くない。
近くの村には婿候補がいるし、乙女ゲームと言えなくもない。ならば、楽しもうじゃないか。
婿候補は獣医、大工、異国の王子様。
うっかりしてたら男主人公の嫁候補と婿候補が結婚してしまうのに、女神と妖精のフォローで微妙チートな少女は牧場ライフ満喫中!
同居中の過保護な妖精の目を掻い潜り、果たして彼女は誰を婿にするのか⁈
神々の悪戯から始まる、まったり牧場恋愛物語。
※この作品は『小説家になろう』様にも掲載しています。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
靴を落としたらシンデレラになれるらしい
犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。
突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー)
私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし…
断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して…
関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!?
「私には関係ありませんから!!!」
「私ではありません」
階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。
否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息…
そしてなんとなく気になる年上警備員…
(注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。
読みにくいのでご注意下さい。
【連載版】婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
短編では、なろうの方で異世界転生・恋愛【1位】ありがとうございます!
読者様の方からの連載の要望があったので連載を開始しました。
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
※連載のためタイトル回収は結構後ろの後半からになります。
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる