商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

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【ロチェス編】

第1話 辺境伯のお仕事 ①

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『人事』。

 帝国の領地を奪って一年が過ぎた。
 カロスタークは19歳となり、なんと側室が増えた。
『グリトリアン』子爵の妹である。

 正式に『辺境伯』への昇爵が公表された日。
 王宮内での戦勝祝賀会で申し込まれ、受けた形だ。

 グリトリアン子爵家も地政学的な理由で、辺境伯の傘下に入ることが定まっている。
 より強い繋がりを持つことは双方にとって悪くない。
 こちらから要求するつもりは皆無だったのだが、向こうから是非にと言われて拒絶できる話ではなかった。

 もちろん、表向きの理由ばかりではなく、裏の理由——帝国との繋がりを王家に知られたくない子爵からの口止めという側面――もあることは承知の上だ。

 だからこそ、断れなかったとも言える。
 断って子爵を追い詰めれば、焦ってバカなことをしでかしかねない。
 受け入れて安心してもらわないと、こっちが不安になりそうだった。
 高度に政治的な判断だ。


「えーっと。リュゼの担当はグリトリアン子爵領ね。お兄さんをうまくコントロールして欲しい。問題が起きたら相談すること。何とか解決策は探すから」
 子爵の性格を初顔合わせで理解したカロスタークは、王都の邸宅に引っ越してきたリュゼにまずはそう告げた。
 風向きと強さしだいで、どっちに流れるかわからない危うさが目に付いたのだ。

 あの凧は糸をしっかり握っていないとどこに飛ぶかわからない。
 そんな危機感がそうさせた。

「あー、善処します?」
 なぜに疑問形?
 問い質したい発作が起きるが、カロスタークは耐えた。
 断言できないのも当然と思えてしまったから。

 セザールやフランソワの反応は極めてドライだった。
 一度裏切った上で側にいる子たちなので、いまさら独占欲とかはなく、嫉妬という感情もわかないらしい。

 これは第三夫人のアンヌも同様だ。
 むしろ、そんな資格はないのだと悟りを開いた菩薩の顔で泰然としていた。
 穏やかなのに、なぜかコワかったとは夜のお勤め後のカロスタークの言葉である。

 ——だけではない。

「これは絶対です!」
 珍しいことに、セザールが真顔でカロスタークに詰め寄った。

 セザール騎士団に、絶対に入れなければならないメンバーが現れたのだ。
 幸いなことに、その人物は金を要求してはいなかった。
 無償で働いてくれる。

 唯一の条件は「カロスターク様のモノになること」だ。
 名前を、エルザ・フォン・シエルアージュ。
 カロスタークの三番目の婚約者だった女である。
 婚約破棄後、とある修道院で清廉な生活を送っていたはずだった。

 この『清廉な生活』が重大な結果をもたらしていた。
 なんと、清らかな魂になり過ぎたらしく『聖女』を顕現させたのだという。
 人体の部分損壊をすら元通りに癒す極級治癒魔法の使い手となったのだ。

 そしてついさっき、セザール騎士団が警備する捕虜収容所で『奇跡』を起こしたばかりだった。
 荷馬車を囮に使った作戦で、最初の魔法による一撃で吹き飛ばされた司令官の治療だ。
 右足は付け根から、左足は膝から、右手は肩と肘の間から、左手は人差し指と中指を残して他三本、千切り飛ばされていた女司令官の完全治癒を行ってのけていた。

 治癒能力の高さに目を見開いたセザールは、是非にも欲しいとカロスタークに直談判に来ていた。
 味方の損耗——それも命の——を最小とするにはぜひとも欲しい人材だった。
 そして、それはカロスタークにとっても同じである。

「あー。うん。側室なら、問題ないかな」
 夫人にするのはハードルが高いが、側室にする分には制限がない。
 法と慣習がそう言っている。

 妨げになるとすれば、夫人と現在の側室たちの反応となるが・・・。
 第三夫人が何かを言うはずはなく、側室のまとめ役的存在のセザールの推薦だ。
 どこにも問題はない。

「シエルアージュ侯爵に話を通してみよう」
 諸手を上げて同意してくれるだろうけど。

       

 カロスタークの予想は当たった。
 シエルアージュ侯爵は予想を上回る歓迎ぶりで、娘がいいところに片付いたと喜びしきりだった。
 次期当主の兄も、何かを期待する顔で賛成を表明してくれたものだ。

 領内の農地開拓の件だろうなと、カロスタークは当たりを付けている。
 順調に進んでいると聞いたが、加速させられればさらにいい。
 そんな風にでも考えているのだと思われた。

 大したことの無い話だ。
 力添えをするぐらいのことはできる。

 間を置くことなく、カロスタークは資金援助を行った。
 教会にも寄付を送っている。
 恒久的に定額を納める旨の約定を交わしたのだ。

 他にも帝国人であるネルケ、マーガレットも顔を揃えている。
 いまさら、帝国へは帰れないのだ。

 公式には戦死扱いとなっているが、商人の情報網を使って家族へは安否を知らせてある。
 基本的には『死んだものとする』、『王国で健やかに暮らせ』という返事が返ってきているようだ。

 こんな感じで、カロスターク陣営は人材を増やしていた。
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