商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

文字の大きさ
166 / 261
【ロチェス編】

第7話 蜥蜴は尻尾を落とし、烏賊は墨を吐く ①

しおりを挟む
 

「少し見ぬうちに手強くなっておるな」
 姫とカロスタークが退室すると、国王は深い溜息を吐いた。

 あの姫も、八年前は可愛らしいは少女だった。
 幼い弟を懸命に守ろうとする健気な少女。

 それゆえに、言葉が滑ったのだ。
 力付けようとしたばかりに、「北王国を取り返す」などと確約してしまった。
 あのときの甘さが、現在の苦みとなっている。

「知恵を授けている者が居るやもしれませぬな」
 国を失っていても王族。
 近付いてくる有象無象に事欠くことはないだろう。
 なかには、耳触りの良い言葉で歓心を買い、取り入っている者もいるに違いない。

「余計なことをするものだ」
 無知なままでいれば、平穏に人生を全うさせてやれるものを。

 滅びた国の再興など、生き延びた王族が背負える荷物ではない。
 かつての国民たちの精神的支えとして存在し続けるだけで役割は充分。
 そう割り切れれば、楽に生きられるだろうに。


「あら? 難しい話は終わったのではありませんの?」
 コロコロと笑い声を上げながら、一人の女性が入ってきた。
 王の私室であることを考えれば、これ以上ないほどの無礼だ。

 だが、この女性に関して言えば無礼には及ばない。
 王の私室はつまり、この女性の私室でもあるからだ。

 王妃である。
 国王の妻なのだ。

「なに。年頃の娘の行く末を憂いていただけよ」
 十代半ば。
 滅びた国の王族などというものになっていなければ、楽しい盛りの年頃だ。
 だというのに、頭にあるのは『国の再興』だけとは不憫なものだ。

「あらあら、自分の娘は放置しているというのに。他所の娘にはお優しいこと」
「誰のせいだと思っているのだ?」
 王妃の牽制に、国王が心底呆れたと眉をしかめた。

 国王には娘が何人かいるが、どれも正妻の——王妃の——子供ではない。
 そのため、かまおうとすると機嫌が悪くなるので、距離を置いているのだ。

「それなら、嫁に出せばよろしいですわ」
「なに?」
「年頃なのでしょう? よさそうな貴族の殿方に当てはございませんの?」
「男をあてがえばいいと?」
 随分と下世話な考えだと、王が眉を顰める。

「ええ」
 その通りだと、王妃は自信たっぷりに頷いた。

「旦那さまや我が子に夢中になっていれば、政治や軍事に興味を持つ暇なんてなくなりますわ」
「それは・・・そうかもしれんが——」
 夢中にさせられるほどの男などいただろうか?
 並の女ではない。
 気位も知識も一流の、王族の女だ。
 そこいらの貴族のボンボンなど相手になるまい。

「悪くない考えかもしれません」
 王と王妃の会話だからと、控えていた宰相が口を挟んだ。

「当てがあると申すか?」
「当てと言いますか、この場合一人しかいません。先ほど本人が連れてきた男です」
「レッドルア辺境伯——か」
「軍事の才を見せたことで、姫も関心を寄せています。そこから関係を強めていければ――いけるのではないですかな? 幸い辺境伯には第三から上が空白のままでもありますし」
 枠が空いている、と付け加える。
 貴族の有力な者たちはすでに埋まっている枠がだ。

「関係を強める、か」
「手はあるか?」
「ございます」
 ニヤリと笑みを浮かべ、宰相は王の耳に囁いた。
 国王は破顔し、王妃も楽し気な笑い声を洩らす。
 カロスタークの知らぬところで、彼の立場が変わろうとしていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

老婆令嬢と呼ばれた私ですが、死んで灰になりました。~さあ、華麗なる復讐劇をお見せしましょうか!~

ミィタソ
恋愛
ノブルス子爵家の長女マーガレットは、幼い頃から頭の回転が早く、それでいて勉強を怠らない努力家。さらに、まだ少しも磨かれていないサファイアの原石を彷彿とさせる、深い美しさを秘めていた。 婚約者も決まっており、相手はなんと遥か格上の侯爵家。それも長男である。さらに加えて、王都で噂されるほどの美貌の持ち主らしい。田舎貴族のノブルス子爵家にとって、奇跡に等しい縁談であった。 そして二人は結婚し、いつまでも幸せに暮らしましたとさ……と、なればよかったのだが。 新婚旅行の当日、マーガレットは何者かに殺されてしまった。 しかし、その数日後、マーガレットは生き返ることになる。 全財産を使い、蘇りの秘薬を購入した人物が現れたのだ。 信頼できる仲間と共に復讐を誓い、マーガレットは王国のさらなる闇に踏み込んでいく。 ******** 展開遅めですが、最後までお付き合いいただければ、びっくりしてもらえるはず!

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします

森 湖春
恋愛
長年の夢である世界旅行に出掛けた叔父から、寂れた牧場を譲り受けた少女、イーヴィン。 彼女は畑を耕す最中、うっかり破壊途中の岩に頭を打って倒れた。 そして、彼女は気付くーーここが、『ハーモニーハーベスト』という牧場生活シミュレーションゲームの世界だということを。自分が、転生者だということも。 どうやら、神々の悪戯で転生を失敗したらしい。最近流行りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生出来なかったのは残念だけれど、これはこれで悪くない。 近くの村には婿候補がいるし、乙女ゲームと言えなくもない。ならば、楽しもうじゃないか。 婿候補は獣医、大工、異国の王子様。 うっかりしてたら男主人公の嫁候補と婿候補が結婚してしまうのに、女神と妖精のフォローで微妙チートな少女は牧場ライフ満喫中! 同居中の過保護な妖精の目を掻い潜り、果たして彼女は誰を婿にするのか⁈ 神々の悪戯から始まる、まったり牧場恋愛物語。 ※この作品は『小説家になろう』様にも掲載しています。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。 突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー) 私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし… 断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して… 関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!? 「私には関係ありませんから!!!」 「私ではありません」 階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。 否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息… そしてなんとなく気になる年上警備員… (注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。 読みにくいのでご注意下さい。

【連載版】婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
短編では、なろうの方で異世界転生・恋愛【1位】ありがとうございます! 読者様の方からの連載の要望があったので連載を開始しました。 シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます! ※連載のためタイトル回収は結構後ろの後半からになります。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...