商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

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【ロチェス編】

第9話 蜥蜴は尻尾を落とし、烏賊は墨を吐く ③

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『絶対命令』から半年が過ぎた。
 大きな変化が産まれている。

 些細な変化から上げれば、カロスタークの居所が王都からリューイン州に移った。
 北方方面軍の開設と運営を、王都でやるのは無理だからだ。

 当然ながら、側女も移ってきている。
 ただし、例外としてフランソワは残っていた。

 王都の自宅も空にはできないからだ。
 第三とはいえ『夫人』のアンヌが留守を預かり、フランソワがその補助をする。
 フランソワはリュゼやエルザと交代で王都とリューインを行ったり来たりするこになるだろう。
 護衛を勤めるセザールだけが、常駐することになる。

 で、大きいところはとなるのだが。
 曖昧だった窓口が形となったことで、北王国関係者がレッドルア辺境伯領へ集まることになった。
 知らぬ間に人口が増えていく。
 何もしていないのに州都には大きな商館がいくつも建ち、州全体に活気が生まれた。
 いいことのようにも見えるが、活気が生まれたのと同じタイミングで治安が悪化した。

 経済効果を最大限利用して不満の捌け口を作り、事なきを得ているが大変なのも事実だ。
 それでも、領内の政治と経済はなんとか良好な状態で維持できている。

 問題は——。

「王国軍務省より派遣された監察官の『ロチェス』だ。通常は参謀府付きだが、この場においては軍事司令官としての権限も与えられている。女だからと軽く見ない方がいいぞ」
『北方方面軍』の開設が公表されるのと時を同じくして派遣された人物の存在だ。

 漆黒の髪と紺の瞳が凛とした佇まいで挨拶の場を魅了し、一瞬で周囲の耳目を奪う勢いがあった。
 野外での軍事訓練中だったのだが、シャリィアがかすむ勢いで存在感を示している。

『軍務省から』ということを裏付けるように、生え抜きらしい精鋭が100名ほど後ろに控えてた。
 眼光鋭く睨みつけられて、カロスタークは引き気味だった。
 数字が相手なら臆しはしないが、肉体言語で話す相手は苦手なのだ。

「国王陛下に司令官として任命されたそうだが、軍のことは知らないだろう。私がみっちり教えてやる。黙ってついてこい!」
「は、はい?!」
 寝耳に水だったが、差し出された書類は正規のもので文句のけようがない。
 受け入れるしかないものだった。

 辺境伯に任せるだけでは不安だったのか、面子が潰れると思ったからか。
 軍務省から監察官が送り込まれたというわけだ。

 自由裁量権を与えられているはずなのだが、一方で軍務省の下に置かれることになるらしい。
 簡単に言えば、お目付け役が付いた格好だ。
 軍上層部他からの干渉がひどくなるものと予想される。

「大変そうだ」
 他人事のように呟いて、カロスタークは乾いた笑い声をあげた。
 とりあえず、笑うぐらいしかできることがなかったから。

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