商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

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【フィオーレ編】

第1話 亡国の姫2 ①

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 時はしばし遡る。
 カロスタークを連れたフィオーレが、国王と謁見した数日後のことだ。


 フィオーレが自身の居所としている館へ戻ると、ちょうど北王国出身者の下へと出かけていた部下も戻ってきたところだった。

「状況は?」
「かなり混乱していますね。昨年の帝国への逆進で盛り上がった者たちが露骨に騒いでいます」

「馬鹿なことを」
 思わず批判する言葉が漏れた。
 
 いったい何を考えているのか。
 騒ぐだけで何もなさない。
 それば暴徒でしかない。
 
 エネルギーと時間の浪費にしかならないというのに。
 それで得をするのは帝国だけだ。

 「まさか、自分たちが騒いでいれば王国が動くと思っているわけでもないでしょうに」
 「そんな考えはないでしょう。ただ、迸る熱意を発散させているだけというのが真実かと」
 そんなところだろう。

 フィオーレはゆっくりと階段を上った。
 自室も執務室も二階にあるからだ。

 一階には何もない。
 襲撃があった時には放棄して、二階で迎え撃つことになっている。
 そのため、一階は防火対策を施した壁と、燃え草となるものを極力排した空間となっていた。

 帝国の情報部が思い出したように暗殺者を差し向けてきたり、このまま平穏に過ごしたい北王国ゆかりの人間が襲撃に来たりするからだ。
 騒乱の種には、消えてほしいということだろう。

 今すぐにでも帝国へ攻め込もうという愛国派がいる一方で、もう北王国のことは忘れて生きていこうという未来派もいる。
 そのどちらでもない穏健派などなど。
 同胞も一枚岩ではない。

 執務室に入ると、手紙が届けられていた。
 椅子に座り、封を切る。
 フィオーレの眉が寄った。

 「どうかなさいましたか?」
 「騎士団長が兵を集め出したらしいわ」
 手紙は密偵からのものだった。

 北王国関係者の中でも一番の過激派を見張らせている者からの報告だ。
 最後の騎士団長を父に持つ娘だ。
 再興の兵を挙げるなら、先頭は自分でなくてはならないとの強迫観念にとらわれている。
 
 「心意気は買いたいのだけど・・・」
 「時ではないときに動かれるのは困りますな」
 下手に動いて警戒されたりすれば、できることもできなくなる恐れがある。
 戦意は貴重だが、度を過ぎると厄介だ。

 帝国敗退と聞き、機運が高まったと見る者は多い。
 再興を夢見る者たちのヴォルテージは臨界に近づいている。
 今はまだ抑えられているが、このままなら二か月ともたないだろうとの報告だった。

 過激派は厄介だが、実際に再興の兵を挙げたいと考えたときには頼れる兵士でもある。
 無駄に減らしたくはない。
 手綱を抑える必要があると、フィオーレは思った。

 王国に直談判したくせに。

 カロスタークなどは言いたくなるだろうが、相手を利用すべく強引な手は打とうとも、フィオーレは感情で暴走はしない。
 常に、計算高い思慮を働かせている。

 一見、ムチャに見える言動は過激派のガス抜きという側面がある。

 「馬車を用意しなさい。私が説得に出ます。長旅の用意を」
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