商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

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【フィオーレ編】

第2話 亡国の姫2 ②

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 説得は失敗した。
 正確には説得自体が無意味だった。
 王国がとんでもない方針を発表したのだ。
 
 『北方方面軍』開設。
 司令官は対帝国の英雄カロスターク・カロ・レッドルア辺境伯。
 リューイン州を本拠地として、王国軍第三軍を軸とした軍が駐留する。

 帝国を刺激するからと、軍を動かすことに消極的だった王国が動いた。
 本拠地となるのは旧北王国のすぐ隣の州。
 自分たちだけででも突撃を、などと口にする過激派が反応しないわけがない。
 動きを鎮静化するための説得など、聞くはずがなかった。

 だから、フィオーレは発表を耳にしたところで馬車を引き返させていた。
 盛り上がるに決まっている波の中に自分がいれば、熱狂は留まるところを知らず暴走することになる。
 最悪は自分を担ぎ上げての帝国突撃だ。
 それは避けなければならない。

 王国には、彼女自身が『ソレ』を迫ったわけだが実行はされないという読みがあってのムチャぶりだった。
 それが、まさか現実にされるとは。
 予想外に過ぎる。

 ただし、騎士団長の娘とは話をしなければならない。
 姫は大きめの町で馬車を止めさせ、使者を出した。
 居宅までは戻らず、中間地点に滞在することを選んだのだ。


 蠟燭の炎が、宿屋の寝室を照らしている。
 王族が泊まるような高給宿ではない。
 せいぜい少し稼ぎのいい商人が泊まるような、その程度の宿屋である。

 フィオーレは、騎士団長の娘から送られてきた手紙の封を切った。
 秘密裏に会いたいと伝えさせた使者が持ち帰ってきたものだ。

 内容は簡潔だった。
 こちらとしても早急にお会いしたい。すぐに立つというものである。
 
 それから、使者の報告を聞く。
 会いたいと言ってくれているのならと期待していたが、すぐにフィオーレの目から輝きは失せた。

 「祖国を取り戻せとの気運は留まることを知らず盛り上がり続けていました。ことによると例の娘にも抑えきれないように見受けられます」
 説得すべき相手すらも、制御不能となりつつあると、そういうことだ。

 私が表に立つしかない?
 その覚悟が必要かもしれない。

 騎士団長の娘でだめなら、過激派を制御できるのは自分しかいなくなる。
 能力なんてない、血筋だけの小娘でしかない自分が動くほかない。
 できるのだろうかと、気弱になりそうだ。

 無意識に指先に髪を絡ませ、いじりながら考えた。
 自分にできることが何かあるだろうかと。

           ◇

 白いシーツの中で、清らかな少女は目を覚ました。
 昨夜、待ち人が本日到着するとの連絡を受けている。
 望んだ対面とはいえ、久しぶりであるし状況が緊迫してもいるのだ。

 気が張っていたのだろう。
 わずかな締め付けも煩わしく思えて、一糸も纏わぬ全裸で眠りについていた。
 完成しきれていないしなやかな肢体が、ベッドの上で波打つ。

 眠れはしたものの、あまり眠った気がしない。
 微睡んだだけという感覚だ。

 騎士団長の娘に余計な言質は与えられない。
 いずれは祖国再興の兵を挙げる意思があるから、失望されるのも困る。
 これ以上の燃料は与えず、過激派の熱量を下げるが下げ過ぎてもいけない。
 難しい舵取りが必要だ。

 できるだろうか?
 弱気になりかけた自分に気合を入れるため、両手で頬を叩いた。

 「わたしは、北王国王位継承者二位のフィオーレ・ノルアゴロ!」
 自分が誰なのかを再認識する。
 王位継承権のない妾腹の娘ではもうないのだと。

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