商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

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【フィオーレ編】

第9話 あるべき自分と、届かない自分 ④

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「あからさますぎますね」
 側に来たセザールも呆れからか溜息を吐いた。

 無警戒で出した輸送隊が襲撃されたが、死者は0。
 奪われた物資も少し離れた場所に放置されているのを見つけたばかりだ。
 あとは襲撃者だが・・・。

 実を言うと、ここ数日。
 セザール騎士団に対して嫌がらせが立て続けに起きていた。

 洗濯して干していた軍服が投げ散らかされて土や砂まみれにされたとか、騎馬の飼葉に水を掛けられていたとかの稚拙なものだ。
 実害は大したことないが、積み重なると精神的に参る程度のものである。

 これまでなかったことだ。
 それが突然起きた。

 原因は?
 考えて分からないほど、カロスタークは鈍くない。

「間違いなくアウラだよな?」
 他にいない。

「でしょうね。しかも、一人ではできそうにないことも多いので、部下に手伝わせています。ただ・・・」
「ただ?」
「部下の人たちの心情に変化が見られます」
「と言うと?」
 心情の変化なんて、どうすれば見えるのか?

「最初は・・・言い方が変になりますが真面目に嫌がらせをしていました」
 確かに、変だなとカロスタークが頷く。
 真面目に嫌がらせとか変過ぎだ。

「ところが最近はなんというか投げやりで、雑なんです。前は丁寧だったのに、今はやっつけ仕事感が半端なくなってます」
「丁寧な嫌がらせってのも、表現がおかしいな」
 言いたいことはわかるので、ちょっと笑いが入った。

「バカなことを——」
 カロスタークは、力なく首を振った。
 せっかく義勇兵を率いるまでになっていたのに。
 自分からその資格を捨てたようなものだ。

 負けた悔しさで嫌がらせに走ったことは推測できる。
 部下をも巻き込んだことも。
 一人では嫌がらせにもならないからだ。
 三千を超える集団に一人では太刀打ちできるものではないから。

 そのため、部下を巻き込んだのだろうが——。
 本人も言っていた。
 義勇兵に所属している者たちは祖国奪還のみを胸に働いている。

 そんな彼らに、共に戦うべき一団への嫌がらせをさせているのだ。
 こんなことをするために従ったわけじゃないぞ?
 こんなことをしていて祖国奪還なんてできるのか?
 こんなことをして何になる?

 疑問が湧くのは当然だ。
 結果、求心力が激減しているのだと考えられた。
 だから、やる気が無くなっているのだと。
 このままでは部下に離反され、アウラは孤立することだろう。

「なにか対策でも?」
 考え込むカロスタークの顔を覗き込むセザール。

「ちょっと気は早いが、情報を少しリークするとしよう」
 そう言って、カロスタークは数人の護衛を伴って北王国ゆかりの商人たちがいる商館へと向かった。

      ◇

 数日後。

「え? なに? なんで?」
 アウラは一人、町の外で立ち尽くしていた。

 義勇兵たちの集合場所にいるはずだった。
 いつも、ここで訓練をしていたのだ。

 なのに、誰も来ない。
 訓練の時間はとうに過ぎているのに。

「なぜ?」
 呟くアウラの全身が震えはじめる。

 この誰もいない光景には覚えがあった。
 騎士団長の父が討ち死にしたとの知らせが入った後にも見た光景だ。

 もう価値がない。
 そう思われて見放された少女の頃。

 あのとき見たのと同じ光景だ。
 自分はまた見限られた。
 協力する理由がないと思われたのだ。

「っ!」
 血の気が失せた顔で、アウラは膝から崩れ落ちた。
 前のときは自分ではどうしようもないことだった。
 力を持っていた父の消失が原因だったから。

 今回は違う。
 自分の愚かさのせいだった。

 わかっている。
 屈辱を処理できず、逆恨みしての嫌がらせ。

 大儀なんてない子供じみた仕返し。
 始めは理解を示してくれた部下たちからも、度重なるごとに理解の色が消えていくのを感じていた。

 限界を超えてしまったのだ。
 もうついて行けないと思われた。

 立ち直ってくれると待ってくれていた部下たちの期待を裏切ってしまった。
 これは、その結果。

「ぅ、うぁああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
 アウラは、声を上げて泣き叫んだ。
 幸いなことに、ここには誰もいない。
 誰も来ない。
 いくらでも泣きわめくことができる。



 義勇兵たちの離反に拍車をかけたのは、商人たちの間で流れた噂だった。
 フィオーレ姫とカロスタークの婚約内定の噂だ。
 ダンスパーティーでのことが広まり、北王国の軍事的支柱がカロスタークになることが半ば定まった。

 そうなると、何ら実績のないアウラに従う理由は多くない。
 義勇兵たちが離反した所以だ。

 こうなると、カロスタークの部下が北王国兵を統率することも可能な空気になる。
 北王国義勇兵団は、セザール騎士団へと一時編入されることとなるのだった。
 その後はフィオーレの直属となるだろう。


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