182 / 261
【フィオーレ編】
第9話 あるべき自分と、届かない自分 ④
しおりを挟む「あからさますぎますね」
側に来たセザールも呆れからか溜息を吐いた。
無警戒で出した輸送隊が襲撃されたが、死者は0。
奪われた物資も少し離れた場所に放置されているのを見つけたばかりだ。
あとは襲撃者だが・・・。
実を言うと、ここ数日。
セザール騎士団に対して嫌がらせが立て続けに起きていた。
洗濯して干していた軍服が投げ散らかされて土や砂まみれにされたとか、騎馬の飼葉に水を掛けられていたとかの稚拙なものだ。
実害は大したことないが、積み重なると精神的に参る程度のものである。
これまでなかったことだ。
それが突然起きた。
原因は?
考えて分からないほど、カロスタークは鈍くない。
「間違いなくアウラだよな?」
他にいない。
「でしょうね。しかも、一人ではできそうにないことも多いので、部下に手伝わせています。ただ・・・」
「ただ?」
「部下の人たちの心情に変化が見られます」
「と言うと?」
心情の変化なんて、どうすれば見えるのか?
「最初は・・・言い方が変になりますが真面目に嫌がらせをしていました」
確かに、変だなとカロスタークが頷く。
真面目に嫌がらせとか変過ぎだ。
「ところが最近はなんというか投げやりで、雑なんです。前は丁寧だったのに、今はやっつけ仕事感が半端なくなってます」
「丁寧な嫌がらせってのも、表現がおかしいな」
言いたいことはわかるので、ちょっと笑いが入った。
「バカなことを——」
カロスタークは、力なく首を振った。
せっかく義勇兵を率いるまでになっていたのに。
自分からその資格を捨てたようなものだ。
負けた悔しさで嫌がらせに走ったことは推測できる。
部下をも巻き込んだことも。
一人では嫌がらせにもならないからだ。
三千を超える集団に一人では太刀打ちできるものではないから。
そのため、部下を巻き込んだのだろうが——。
本人も言っていた。
義勇兵に所属している者たちは祖国奪還のみを胸に働いている。
そんな彼らに、共に戦うべき一団への嫌がらせをさせているのだ。
こんなことをするために従ったわけじゃないぞ?
こんなことをしていて祖国奪還なんてできるのか?
こんなことをして何になる?
疑問が湧くのは当然だ。
結果、求心力が激減しているのだと考えられた。
だから、やる気が無くなっているのだと。
このままでは部下に離反され、アウラは孤立することだろう。
「なにか対策でも?」
考え込むカロスタークの顔を覗き込むセザール。
「ちょっと気は早いが、情報を少しリークするとしよう」
そう言って、カロスタークは数人の護衛を伴って北王国ゆかりの商人たちがいる商館へと向かった。
◇
数日後。
「え? なに? なんで?」
アウラは一人、町の外で立ち尽くしていた。
義勇兵たちの集合場所にいるはずだった。
いつも、ここで訓練をしていたのだ。
なのに、誰も来ない。
訓練の時間はとうに過ぎているのに。
「なぜ?」
呟くアウラの全身が震えはじめる。
この誰もいない光景には覚えがあった。
騎士団長の父が討ち死にしたとの知らせが入った後にも見た光景だ。
もう価値がない。
そう思われて見放された少女の頃。
あのとき見たのと同じ光景だ。
自分はまた見限られた。
協力する理由がないと思われたのだ。
「っ!」
血の気が失せた顔で、アウラは膝から崩れ落ちた。
前のときは自分ではどうしようもないことだった。
力を持っていた父の消失が原因だったから。
今回は違う。
自分の愚かさのせいだった。
わかっている。
屈辱を処理できず、逆恨みしての嫌がらせ。
大儀なんてない子供じみた仕返し。
始めは理解を示してくれた部下たちからも、度重なるごとに理解の色が消えていくのを感じていた。
限界を超えてしまったのだ。
もうついて行けないと思われた。
立ち直ってくれると待ってくれていた部下たちの期待を裏切ってしまった。
これは、その結果。
「ぅ、うぁああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
アウラは、声を上げて泣き叫んだ。
幸いなことに、ここには誰もいない。
誰も来ない。
いくらでも泣きわめくことができる。
義勇兵たちの離反に拍車をかけたのは、商人たちの間で流れた噂だった。
フィオーレ姫とカロスタークの婚約内定の噂だ。
ダンスパーティーでのことが広まり、北王国の軍事的支柱がカロスタークになることが半ば定まった。
そうなると、何ら実績のないアウラに従う理由は多くない。
義勇兵たちが離反した所以だ。
こうなると、カロスタークの部下が北王国兵を統率することも可能な空気になる。
北王国義勇兵団は、セザール騎士団へと一時編入されることとなるのだった。
その後はフィオーレの直属となるだろう。
0
あなたにおすすめの小説
老婆令嬢と呼ばれた私ですが、死んで灰になりました。~さあ、華麗なる復讐劇をお見せしましょうか!~
ミィタソ
恋愛
ノブルス子爵家の長女マーガレットは、幼い頃から頭の回転が早く、それでいて勉強を怠らない努力家。さらに、まだ少しも磨かれていないサファイアの原石を彷彿とさせる、深い美しさを秘めていた。
婚約者も決まっており、相手はなんと遥か格上の侯爵家。それも長男である。さらに加えて、王都で噂されるほどの美貌の持ち主らしい。田舎貴族のノブルス子爵家にとって、奇跡に等しい縁談であった。
そして二人は結婚し、いつまでも幸せに暮らしましたとさ……と、なればよかったのだが。
新婚旅行の当日、マーガレットは何者かに殺されてしまった。
しかし、その数日後、マーガレットは生き返ることになる。
全財産を使い、蘇りの秘薬を購入した人物が現れたのだ。
信頼できる仲間と共に復讐を誓い、マーガレットは王国のさらなる闇に踏み込んでいく。
********
展開遅めですが、最後までお付き合いいただければ、びっくりしてもらえるはず!
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします
森 湖春
恋愛
長年の夢である世界旅行に出掛けた叔父から、寂れた牧場を譲り受けた少女、イーヴィン。
彼女は畑を耕す最中、うっかり破壊途中の岩に頭を打って倒れた。
そして、彼女は気付くーーここが、『ハーモニーハーベスト』という牧場生活シミュレーションゲームの世界だということを。自分が、転生者だということも。
どうやら、神々の悪戯で転生を失敗したらしい。最近流行りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生出来なかったのは残念だけれど、これはこれで悪くない。
近くの村には婿候補がいるし、乙女ゲームと言えなくもない。ならば、楽しもうじゃないか。
婿候補は獣医、大工、異国の王子様。
うっかりしてたら男主人公の嫁候補と婿候補が結婚してしまうのに、女神と妖精のフォローで微妙チートな少女は牧場ライフ満喫中!
同居中の過保護な妖精の目を掻い潜り、果たして彼女は誰を婿にするのか⁈
神々の悪戯から始まる、まったり牧場恋愛物語。
※この作品は『小説家になろう』様にも掲載しています。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
靴を落としたらシンデレラになれるらしい
犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。
突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー)
私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし…
断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して…
関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!?
「私には関係ありませんから!!!」
「私ではありません」
階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。
否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息…
そしてなんとなく気になる年上警備員…
(注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。
読みにくいのでご注意下さい。
【連載版】婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
短編では、なろうの方で異世界転生・恋愛【1位】ありがとうございます!
読者様の方からの連載の要望があったので連載を開始しました。
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
※連載のためタイトル回収は結構後ろの後半からになります。
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる