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【エマ編】
第2話 見下ろした池には自分が映るもの ②
しおりを挟む「今を時めく侯爵様にエスコートしてもらえるなんて光栄ね。お願いしていいのかしら?」
チラリと視線がセザールに向けられた。
「問題ない。なにしろ、トラブルのたびに出世する男とその女たちなのでね」
社交界の好餌になるぐらいのことは何とも思わない。
「ありがとう。お願いします」
◇
『次に』などと言っていたが、機会はすぐに来た。
翌日にはどこかの貴族が開くお茶会があったのだ。
王国中から貴族が集まっている今のうちにということだろう。
各家が盛大にイベントを催しているらしい。
当然ながら、『今を時めく侯爵』であるカロスタークにはほぼ全てから招待状が来ている。
そのうちのひとつからの招待状がエマにも届いていたというわけだ。
『どこかの』、『そのうちのひとつ』と言うのは、関心がないからの表現だ。
フィオーレのこともあり王国の端っこに引きこもることが確定している身。
正直、他の貴族との親睦を深めることに興味はない。
なので、エマに付き添うという理由がなければ、多忙を理由にどこのイベントも不参加になっていたはずだ。
どこの誰が主催しているか?
集まる者の顔触れは?
そんなことは無視してエマが招待されたものへと参加する。
「さて、行くか」
レッドルア邸から乗って来た馬車を下りた。
アンヌを横に、セザールを後ろに従えて歩き出す。
当たり前だが、エマは昨日の話が終わったあとは家に帰った。
迎えに行くのも妙なことになるから、現地で待ち合わせているのだ。
入り口の辺りで待っているはずだった。
「あらー、エマじゃありませんこと? お久しぶりねー」
と、妙に耳障りな高い声が聞こえてきた。
どこぞの夫人が並んで立っているのが見える。
その奥には、もう一人誰かいるようだ。
「しばらく見ないうちに随分と装いが変わりましたわねー?」
「貢がせていた男たちに捨てられちゃったの―?」
嫌味な声がステレオで聞こえてくる。
内容と相まって気持ち悪くなりそうだ。
「あららー。節操なしに手を出すから捨てられるのよー?」
「飽きられただけかもだけど―?」
ケラケラと笑い声が上がった。
この場にいるのだから貴族なのだろうに、場末の酒盛り女も驚く下品さだ。
「ち、ちが、わたし、そんなことしてないっ」
二人の向こう側から怯えているのか震え声が上がる。
エマだ。
「あ、そういえば今は宿場町で客を取ってるんだっけ?」
「やだー、似合い過ぎなんですけど―?」
宿場町に出入りしていることを揶揄しているのだろう。
管理しているだけなのに、そこで働いているかのように言って貶めている。
仕事という意味では、『そういうこと』をしている人も尊重されるべきだ。
職業に貴賎などない。
しかし、貴族家の夫人にこの言い方は完全アウトの暴言だった。
「その言い方は感心しないね」
女たちの壁を回りこみ、ようやくエマの下へたどり着いたカロスタークが口を挟んだ。
「は?」
「誰よ!」
滅多に社交界へ顔を出さないカロスタークのこと、誰だかわからないのだろう。
二人の女は眉を顰めてる。
「カロスターク様」
エマが、心細そうな顔に、ほんの少し安堵を滲ませてカロスタークの顔を見上げた。
「すまない。もう少し早く来るべきだったな」
こんな早い段階で攻撃されるとは予想外だった。
もう少し時間が経って、ある程度酔いが回ってからのことだと勝手に思い込んでいたのだ。
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