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【王女と皇女編】
第6話 死体を掘り起こしたのは誰なのか
しおりを挟む「——うまくやれている感じがしない」
控室でフィオーラは、力なくソファに身を預けていた。
頑張っているつもりだ。
祖国再興のため、少しでも力になろうと必死なのだ。
なのに、何かがうまくいたという手応えがない。
全てが空回りしている。
そんな嫌な空気を感じていた。
「すぐに効果が出るというものではないのです。長い年月をかけて培われた伝統を取り戻すため一歩を踏み出したばかりなのですよ?」
ストリクシオが寄り添うように声をかけた。
「だけど——」
カロスターク・カロ・レッドルア侯爵を——夫となる相手を——下に見るような言動をしていることに、罪悪感が募っていた。
自分は何もしていない。
すべてがカロスターク——様——の努力の成果の上に成り立っている。
なのに、自分が全てを支配しているかのように振舞わなければならない。
正直、疲れていた。
こんなはずではなかった。
カロスターク侯爵を支えるつもりでいたのだ。
北王国の王族という身分を使って、手助けしている。
そのはずなのに――。
北王国再興が成れば、確実に公爵になる。
それまでに、身分に相応しい人物になってほしい。
フィオーラはその一心だった。
目的のため、どうするべきかを元典礼省高官のストリクシオに尋ね、実践してきたというのに。
「自信をお持ちください。貴女は北王国王位継承権二位フィオーラ姫なのですから!」
「それはそうですが——」
王位継承権なんてあっても、何かできるわけではない。
名前は立派だが、中身が伴わないのだ。
「私がかつてお仕えしていた王女殿下は、もっと堂々としておられましたぞ!」
「——え?」
ストリクシオの言葉が、フィオーラの中で引っかかった。
なにかおかしなことを聞いた気がしたのだ。
「あははは!」
なにがおかしかったのだろう?
考えを巡らせようとしたフィオーラの耳に笑い声が届いた。
扉の向こう側に誰かいるらしい。
「誰だ!」
血相を変えたストリクシオが扉を開けて凄むのを聞きながら、フィオーラは立ち上がった。
慌てはしない。
笑い声を聞いた瞬間に、相手が誰かはわかっていた。
「いや。盗み聞きするつもりはなかったのだが、ノックをしようとしたら聞こえてしまってね」
クックックっ、と喉で笑いながらカロスタークが入ってきた。
婚約者の控室だ。
遠慮はいらない。
寝室なら話が変わるが、控室なので問題なかった。
「まさか。自分から正体を明かすとは思わなかったよ。付け焼刃ははがれやすいね」
正体?
フィオーラは足を止めた。
「何のことだ?!」
「おやおや。設定を忘れてしまったのかな?」
「は?!」
「胸元のさらしはきつくないかと聞いたのさ」
「っ?!」
慌てたようにストリクシオが胸元を抑えた。
だが、さらしは緩んでおらず見た目に胸は目立っていない。
「な、なぜ——?」
胸に晒しを巻いているとバレたのか?
ストリクシオは顔面蒼白になりながらも聞いた。
聞かねばならなかった。
「別に、胸を隠していると気が付いたわけじゃないよ。君が自分で胸があると教えてくれただけさ」
「は?」
それこそあり得ないと、ストリクシオはカロスタークを睨みつけた。
「北王国では、王族に仕える者は同性と決まっているの。変な噂が立つことや事故防止のためにね」
震える足に力を入れて、フィオーラが答えを明らかにした。
『王女』に男性が仕えることはあり得ないのだ。
引っかかりはこれだった。
「ちなみに、典礼省で催事を執り行っていた『スクリクシオ』は男性だよ。催事は国王の主催で行われるからね」
王は男性だった。女王ではない。
つまり、主催者に仕える者も男性でなくてはならなかったのだ。
「さて。君は誰だい? 元典礼省高官の『スクリクシオ』でないことは確かなわけだけど? あと、帝国の工作員であることも間違いないことだけど?」
そして、王女の誰かに仕えていた女なのも確かなのだろうけれど?
「くっ! もはやこれまで!」
どこからか出したナイフを、『スクリクシオ』——を名乗っていた女——が振りかざした。
「バカだな。一人で来るはずないだろうに——」
息を吐いて、カロスタークは首を振った。
女の胸には、生えたかのようにナイフの柄が埋まっている。
そして、カロスタークの背後には、メイド服姿の三人の女がいた。
「——殺してしまって、よかったの?」
気落ちしたらしい弱弱しい声が問いかけた。
どんな態度を取ればいいのか、フィオーラには判断ができなかったのだ。
とりあえず、何か話さなければと考えて出たのがこの言葉だった。
「殺すしかなかったんだよ」
カロスタークの指が、名前も知らない工作員の顔を指さす。
「え?」
口から、紫色の得体が知れないモノがあふれていた。
「近づくな。毒だ!」
「毒?!」
慌てて飛び退くフィオーラ。
「ナイフは偽装だ。わざと躱せる動きで動いて見せ、こちらが余裕で躱した瞬間。口から毒霧を吐いて道連れにする。任務に失敗した暗殺者がよく使う手らしいよ?」
「暗殺——クッ、そんな奴に・・・」
拳を握り、歯を食いしばるフィオーラをカロスタークは優しく抱きしめた。
「重圧に押しつぶされていたんだね。ごめんよ。もっと気遣うべきだったな」
王都に長くいすぎた。
不安にさせた自分の落ち度だと、カロスタークが詫びる。
「いえ。私が浅墓だったのです。こうも容易く操られてしまうとは、我がことながら情けない」
王族の矜持が無かったら、このまま泣き崩れてしまいそうだ。
「あー。でも、結果は悪くないよ?」
「え?」
どういうこと?
「北王国出身の有力者がみんな、頼るべきはレッドルア侯爵だ、そう言ってくれている。君ではなく、ね」
不思議そうなフィオーラに、カロスタークは下手なウィンクをかました。
破壊工作に乗せられて言動がおかしくなっていたフィオーラではなく、ということだ。
北王国出身者——フィオーラ姫派——はカロスタークを中心に据えて活動するとの機運が短い間に醸成されようとしている。
「ああ。そういうことね」
フィオーラは薄く笑い、肩を回した。
肩の荷が下りたとばかりに。
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