商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

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【王女と皇女編】

第8話 木ノ葉は流れを選べない ①

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「は?」
 国王からの使者を前にしていながら、カロスタークは間抜け顔になった。
 書状を三度は読み返したが、理解が追いつかない。

「フィオーラと婚約したばかりですよ?」
 正式に公表して祝賀会も開いたばかりだ。
 それなのに、書状には別の女性のことが書かれている。

「両国の緊張緩和に最適な策だと」
 使者が表情筋を一筋も動かさずに言葉をかけた。

 言いたいことはわかる。
 色恋の問題ではない。
 国家間の外交問題なのだ。

 しかも、影響を受けるのは当事者二人と、その周辺だけ。
 デメリットは少なく、メリットはデカい。
 国王にとっては楽な判断、決断だったことだろう。

 決断。
 そう。
 書状には『提案』は書かれていなかった。
 書かれていたのは『結論』。
 決定事項だ。

 つまり、結婚することは規定路線。
 変更は効かない。

「マジかよ」
 カロスタークは頭を抱えた。

 貴族なのだ。
 愛のない結婚は想定内。
 しかし、国家規模とか勘弁してほしい。

「こういうのは普通、王族が担うものではないのか?」
「そうなると、事が大きくなりすぎるのです。貴方ぐらいがちょうどいい」
 ニタッ。
 不慣れなことが丸わかりの笑みを浮かべて、使者が言う。

 王族だと、何かあったときに切り捨てられない。
 具体的には開戦となったとき、相手を処刑するなどがやりにくくなる。
 だが、侯爵であっても貴族止まりであれば、どうとでもできるとの判断だ。

「それに、お相手とも面識がある。適任でしょう」
「面識ね」
 ものは言いようだ。

 顔は合わせたが言葉を交わしてはいない。
 それなのに、この言いようだ。

「わかってはいたけど・・・」
 いざとなれば、『使い捨て要員にする』と言われていることになる。

「いろいろな女性と結婚できるのです。多少のリスクは付き物ですよ。いや、うらやましい」
 ちっとも『うらやましくない』顔で、使者が言う。
 事実、いいことなんて然程ないのだ。

 気に入った女性を側室にするのとはわけが違う。
 いわくのある女性を押っつけられている。
 これでは面倒事が増えるだけ。

「頭が痛い」
 カロスタークは天を仰いだ。

 ◇

「悪くないわ」
 報告を聞き、豪華なドレスを着た女が笑い声を上げた。

「あの役立たずに、こんな使い道があったとはね」
 末の妹を、どこかの貴族に嫁がせる案はあった。
 ただ、クセが強すぎて誰も娶ってくれなかったのだ。

 どうしたものかと思っていたところで、この話だ。
 反対する理由なんてなかった。
 中級官吏の発案らしいが、目端の利く者もいたのだと感心する。

「あの子なら、なにかあっても惜しくないわ」
 目障りなレッドルア侯爵との接点づくりをする踏み台にちょうどいい。

「忙しくなるわよ」
 レッドルア侯爵と繋がりを持ち、弱みを握る。
 そのための政略結婚だ。
 能無しの妹で、王国きっての出世株を釣れるなら安いもの。

「奪われた領地は必ず奪い返してみせるわ。どんな手を使ってもね」
 鼻息荒く宣言した。
 末の妹を連れて行くついでに、自分の魅力で王国の出世頭を篭絡してやろう。

「領地を取り返して、私が帝国を継ぐのよ。帝国初の女帝。悪くない響きだわ。アハハハハ!」

     ◇

「今度は帝国か」
 北王国関連の挨拶攻勢が一段落したと思っていたカロスタークは、深々と息を吐いた。
 ヒルデガルドとの結婚が噂になった途端、帝国側の関係者からの面会申請が増加している。
 国境地帯の警備が間に合わなくなる盛況ぶりだ。

 なにを急いでいるのか知らないが、ヒルデガルドは数日中にも送られて来るらしい。
 嫁入りというより、これでは捧げものだ。

 そんな状態なので、ヒルデガルドがリューイン州の領主館に到着したときも大げさなパーティーなどはなかった。
 当然だろう。
 地域全体が北王国出身者で固められつつあるのだ。
 帝国の皇女にとっては敵地——とまでは言わなくてもアウェイなのは間違いない。

「あの。よろしく、お願いします」
 初顔合わせで、ヒルデガルドは深々と頭を下げてきた。

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