商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

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【王女と皇女編】

第10話 木ノ葉は流れを選べない ③

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「ね―、私だったらよかったって思わない?」
 上目で媚びるように聞いてくる。

「どうでしょうね?」
「あー。選択する余地もなく決められたから、拗ねちゃってる?」
「そんなことはありませんが」
「でも、こうして並べば一目瞭然じゃない?」
 ヒルデガルドとカロスタークの間に、無理やり入り込んでくる。
 どちらかと言えば、カロスタークに食い込むようにして。

「私が当たりくじなら・・・この子は粗品でしょう?」
 ヒルデガルドを指さして聞いてくる。

 なるほど、とカロスタークは内心で頷いた。
 ヒルデガルドがこんな格好なのは、ビクトリアの引き立て役に使われているからだ。

「レッドルア侯爵。あなたほどの人なら、私が嫁いであげてもよいのですよ?」
「嫁いで来られるのですか?」
 婿に来いというつもりかと思っていたカロスタークは、つい素で訊き返していた。

「条件次第ではね」
 人差し指を上げ、ウィンクのおまけつきで躱された。
 重要なポイントをついたようだ。

 求められる条件がエグイのだろうと推測する。
 考えられるのは、領地ごと帝国に寝返らせるとかだろうか?
 北王国関係者が大量に入り込んできているのだから、絶対に無理な話なのに。

「お、お姉さま、それは無理が——」
 ヒルデガルドも気が付いたようで、そっと止めに入った。

「は? そんなのあなたに言われる筋合いはないの。何もできないんだから、黙って座ってなさいよ」
 ハッキリと侮蔑するビクトリア。
 全てを失っているヒルデガルドは、項垂れて沈黙した。

「ねぇ? どう? こんな素敵な私が嫁に行ってもいいと言っているんだから、もっと喜びなさい」
 言いながら、身を寄せてくる。
 体温が感じられる——というレベルではない。
 完全に触られていた。
 肩や腕を。

「あの。触らないでいただけますか? 勝手に距離を縮めてこられるの嫌なんですけど」
「いやいや。照れているのよね? ボディタッチされて恥ずかしいんだー。可愛い」
「いや、本当にやめてください。言ってることわからないですか?」
 仕方ないので、実力行使で遠ざけながら言葉でも突き放す。

「それと、あなたは別に素敵な女性ではないですよ? むしろ、ヒルデガルドのほうが何倍も素敵な女性だと思いますけどね」
「な、何ですって?!」
「それなりの顔をメイクで盛り、補正下着で必死に体形を作って、ドレスとアクセサリーで自分にない輝きを付与、それでも自信持てなくて真逆の状態に落としたヒルデガルドを引き立て役にして言い寄る。そんなのでよく、私は素敵な女性だなんて言えますね。恥ずかしくないですか?」
「あ、あんた。目、腐ってるの? 私よりこの子が素敵なんてことあるわけないでしょ?!」
「小狡くて破廉恥、なら確かにあなたの方が上ですね」
「な、なによ、それ。ふざけんなっ!」
 バシャ!
 通りすがりの給仕からひったくられたワインが、顔に飛んできた。
 見事な反射神経で、グラスをひっつかんで中身を投げつけてきたのだ。
 中身だけで、グラスの方はちゃんと握っているあたり。
 ギリギリで理性が仕事をしたようだ。

 高飛車で性格が悪く、こちらをスペックでしか見ない。
 お嬢様やお姫様を拗らせまくった女は、席を立って消えた。
 誘惑に失敗したなら、用はないってことだろう。

「皇女様が夜の蝶を気取っても、ねぇ?」
 夜の酒場で客をもてなす女性たちの妖艶な手際に比べると、稚拙に過ぎた。
 カロスタークは商談相手とよく通ったので、彼女たちの洗練された言動を知っている。

 素人で、たぶん乙女。
 ビクトリアの媚など、鼻で笑えたのだ。

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