商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

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【歴史の礎編】

第6話 使えるなら敵とも手を結ぶ ①

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 かくて、領主たちとミーラン、ミザーリとフランソワが会議室を出て行った。
 代わりに、元帝国軍将校のネルケ、マーガレットらに連れられて入ってくる者たちがいる。

 先頭はフィオーラ姫が信じられる相手と認めて、声を掛けた北王国の要人たち。
 そして・・・。

「あ! あなたは!」
 セザールが腰を浮かせて叫んだ。
 リュッゼも息を呑んでいる。

 現れたのは女の商人たちだった。
 ラヴァルである。

 かつて、王国三軍の兵站を利権欲しさに破壊しようと暗躍した商人だ。
 随分上から目線で暴言を吐いたもので、カロスタークの身近にいる者たちからの覚えはかなり悪い。

「あー、セザール。彼女は私が呼んだんだ。あんまり責めるな」
「呼んだ? なぜですか?!」
 中でも、兄の嫁になろうとしていたことで、セザールからは嫌われている。

「もちろん、必要だからさ」
「むぅ!」
 納得できない! と腕組みをして睨みつけるセザール。
 それでも、吠えかかるのはやめて着席している。

 今ではレッドルア商会会頭、つまりはカロスタークの兄に嫁いでいる。
 カロスタークの『義姉』となっているのだ。
 あまり強くも出られない事情がある。

「久しぶり」
 カロスタークは気軽に声を掛けた。
 『義姉』にではない。

 その後ろに控えている茶髪の商人だ。
 こちらも嫌われているのだが、ラヴァルと比べると影が薄い。
 名は、パドックというそうだ。

「お久しぶりでございます。声をかけていただきありがとうございます」
 丁寧に、パドックは頭を下げた。
 セザールが意外そうに目を見開く。

「帝国からも王国からも取引停止を言い渡されて、商売ができずにいるんだってね」
 帝国からすれば『戦犯』の一人、王国からすれば敵対者であり裏切者。
 干されもする。

「その通りです。あのときの小麦は元軍務卿に買い戻していただきましたが、それ以降は商売をさせてもらえず。正直に言いまして虫の息でございます」
「すまなかった。今回、貴方が得意としている仕事を頼みたくて探してもらうまで、そんなことになっているとは知らなかったのだ」
 探したのはラヴァルだ。
 虫の息というだけあって、誰も居場所が分からなくなっていたから。
 商人の情報網を駆使してもらわなくてはならなかった。

 彼女が、ここにいる。
 それが理由だ。

「仕事をさせていただけるのですか?」
 前のめりになって、パドックが確認の問いを投げた。
 期待する眼差しが、カロスタークに向けられている。

「是非、頼みたい。うまくやってくれれば、謝礼として金貨百枚も約束する」
「なんなりとやらせていただきます。ですが、私には商売しかできませんが」
「心配しなくていい。頼みたいのはまさに商売だ。ただし、相手が少しばかり特殊だけどね」
「と言いますと、誰を相手にせよと仰せになりますので?」
 カロスタークは一呼吸置いて、はっきりと答えを口にした。

「帝国軍」
 パドックが目をぱちぱちさせた。
 意外ではあっても驚きはなさそうである。

 当然か。
 知り合った時の逆をするだけだ。
 だから、彼に白羽の矢を立てたというのもある。
 帝国へのささやかな意趣返しだ。

「帝国軍となにを取引なさいますので?」
「軍需品全部。だけど最重要なのは糧食だ」
  それを聞いて、パドックの目が鋭さを増した。

「もしや、補給兵に横流しをさせるおつもりでは?」
「さすがだね。まさに、それをやってほしいんだ」
「そのための金、というわけですか」
 アゴに手を当ててしきりに頷く。
 さっきまでの会議を別室で聞かせていたので、飲み込みが早い。

「そうだ。金に糸目はつけない。手段も問わない。可能な限り買い取れ」
「確かに、わたしの得意とする仕事です。ですが、実行には高いハードルがありますな」
「わかっている。資金を現地に運ぶ方法と、買い取った糧食の運搬だろう?」
 パドックが、その通り、と頷いた。

「資金については、『蛇足族』の運搬人が君のところまで順次運んでくれる。頼めるな?」
 部屋の片隅にいるライアンに声をかけた。
 セザール騎士団の料理人にして、『蛇足族』のとりまとめもしている男だ。

「やらせるぜ。なに、あいつらには大した苦労でもねぇさ」
 取りまとめ役に指名してくれたミザーリにいいとこを見せてやる。
 意気込んで鱗のある腕をガシャンガシャン打ち合わせるのが頼もしい。

「で、運搬はこちらの方々に手を打っていただく」
 こちら、と示された人たちが、驚いたように身じろぎをした。
 北王国でそれなりの地位にいた者たちだ。

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