商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

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【歴史の礎編】

第12話 針を隠すなら藁の中、人を隠すなら? ③

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「副官殿!」
 副官が消火現場に向かうと、すでに部下たちが片付けを始めていた。

「どうした?」
 なにか慌てた様子の部下たちに近づきながら、問いを投げた。

「おかしいんです! こんなことはあり得ない!」
 部下の一人が、炭化した荷台を指差している。
 どうしたのかと目を向けるが、炭となった板ぐらいしか見えるものはない。

「なにがだ? なにもないじゃないか」
「そうです! なにもないんです!」
「?」
「あーっと!」
 会話が噛み合っていないと感じた部下が、もどかしげに頭を掻き毟った。

「落ち着け。順を追って説明してくれ」
「俺は平時には町で消防団に所属しています」

「火災現場での経験があるということだな。それで?」
「食糧の倉庫火災に出場したこともあります。だから、知っているんです。麦は燃え尽きたりしません!」

「なに?」
「確かに、表面は燃えてしまうこともあるでしょう。ですが、袋に詰められた麦が燃え尽きることはない。炭化はしても跡形もなく消えることはない!」
 言われて気が付く。荷台の上がキレイすぎる。
 燃え残りがまったくない。

「これではまるで、荷馬車が空だったかのようではありませんか!」
 あり得ない! と部下が首を振る。
 副官はもう聞いていなかった。
 くるりと踵を返して、走り出していた。

   ◇

「エルウィン様!」
 全力疾走してきた副官の目に、愛用の大長刀を振り上げる上官が映る。

「お待ちください!」
 間に合ってくれ!
 必死に叫んだ。

 エルウィンがゆっくりと大長刀を下ろす。
 その刀身に赤い染みがないことを確認して、副官は安堵の息を吐いた。
 間に合ったのだ。

「どうした、なにがあった」
 静かに問うエルウィンの目に不審の色があった。
 兵が苦しまないように、早く済ませようとしているのに、なぜ長引かせようとするのかと。

「運が悪かったのではないかもしれません! はめられた可能性があります!」
 副官に事情を聞かされたエルウィンから表情が消えた。

「それはあれかい? 補給部隊の誰かが荷馬車を空にするほど食糧を横流しして、気付かれるのを避けるために荷馬車を燃やした。とでも言いたいのかい?」
 副官は首が外れそうなほど、激しく頷いた。

「兵を集めな! 荷馬車を全部調べるんだ。あんたの言うとおりなら、他の荷馬車にも空のがあるかもだからね!」
「はいっ!」
 近くにいた他の将軍をも巻き込んで、エルウィンは全ての荷馬車を調べさせた。
 その結果・・・。



「なんてこった」 
 呟きに力がない。
 巻き込まれた将軍は、言葉もなく震えている。

 荷馬車の全てで空箱や砂の詰まった袋が見つかった。
 あると見ていた食糧の、実に七割以上が幻であることが判明したのだ。
 もっとかもしれない。

「ど、どうします?」
 同僚が聞いてくるのに、エルウィンは首を振った。

「どうするもこうするもないよ。あたいらだけでなにかができる話じゃない」
「では、ベルーノ様に報告を?」
「それしかないね。お前たち、補給部隊のヤツらを監視しておきな。気付かれてもいい。逃がすんじゃないよ」
 副官に顔を向けて、エルウィンはそう指示を出した。

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