商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

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【歴史の礎編】

第21話 開戦前 

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 歴史上、類を見ない戦いが始まる。

 本隊から先行すること二日。
 帝国軍の先駆けが、事実上の王国との国境に近づいていた。

 両国の間を流れる大河だ。
 事実上の国境であるため、いつしか『ライン川』の名が定着している。
 もともとの名がなんであったかは、人々の記憶から絶えて久しい。

 その『ライン』川が見えてくる。
 川幅が広いのと川霧でモヤッとしているため、向こう岸を見通すことはできない。
 だが、別の物が目に入ってきた。

「なんだ、ありゃ?」
 予想外の物が目に入った。

 橋だ。
 木製の橋である。
 幅が二十メートルはありそうな浮き橋が五本、川に掛かっている。

 真新しいものではない。
 どの橋にも、何万人という人間が歩いたと思しき形跡があった。
 だとすれば、数ヶ月前からあったのだと見ることができる。
 20日間で40万人が渡った事実を知らなければ、そういう結論になるのだ。
 偵察兵は首を傾げた。

「いったい、なんのための橋なんだ?」
 帝国との国交はほぼ停止中だ。
 エルフの隊商が行き来するだけなら、一本か二本あれば充分。
 五本は多すぎる。

 これも、20日間で40万人を北王国領に送り出すためだと知らなければ、わけがわからなくて当然だ。

「アートルダムとの交易でも始めたんじゃねぇか?」
 相方が興味なさそうに一つの可能性を提示した。
 商業が発展している都市国家がある。
 経済力で独立を維持している小国家だ。

 このアートルダム国も川のこちら側にある。
 王国国内を移動するのに通行税がかかることを考えれば、いったん国外に出るという選択肢はありだ。

「そうかもな」
 それにしては規模がでかすぎると思わなくはないが、王国人の考えたことだ。
 帝国人の自分に理解できなくてもしょうがない。

「ともかく、これならすぐにも攻め込める。楽でいいな」
 橋がなければ、武装したまま泳ぐか船を調達するか。
 または、自分たちで作るかだ。
 橋があるのなら、そのまま攻め込める。
 食糧不足で減量支給の現状を鑑みれば、到着したらすぐに国境を越えられるのはありがたい。

「ともかく報告だ」
「ああ」
 橋を渡ってみよう、そんな考えを彼らは持っていなかった。
 危険は雑兵に押しつけ、安全に美味しいとこだけ手にするのが理想。
 無理はしないのだ。
 渡ったところで、見つかるものもありはしなかったのだが。


「橋が掛かっているのか?!」
 先行部隊の報告を聞き終えたベルーノは、歓喜の声を上げた。

 雑兵どもを一気に送り込める。
 王国のヤツらは間抜けにも、期せずして敵を歓迎するものを用意していたのだ。
 これが最近造られたものだとなれば罠を疑うレベルのものだが、どうやらそうではないようだ。
 だとすれば、これは好機以外のなにものでもない。

「二日後、ライン川に到着しだい。雑兵どもを押し込め! 好きに略奪していいと言って突っ込ませるんだ! 町が落ちたら、我々も進駐しようぞ!」
「おおお!」
 こうして、帝国軍の力押しが決定した。

   ◇

「帝国軍、来たらしいわよ」
 三時のおやつに聖女エルザがケーキを切り分けているところに、セザールが入ってきた。

「偵察に来てたらしいわ」
「川は渡ったのか?」
 赤茶の湯気をアゴに当てながら、カロスタークが聞く。
 セザールはフルフルと首を振った。

「渡らないで引き返したみたい。少し戻って、そのまま動かなくなったって」
「そうか。もしかしたら渡ってくるかもと思ってたんだけど、考え過ぎだったかもな」
 迎撃の仕掛けを見られたくなくて、準備を進めずにいたのだが無用だったようだ。
 カロスタークは立ち上がってベランダに出ると、待機していた『翼人族』に声を掛けた。

「迎撃部隊に準備を始めてって伝えて」
「伝えるよ」
 フワッと浮いて、ミーランを勝気にしたような『翼人族』の女が飛んでいく。

「迎撃部隊、ですか」
 困ったような笑みで、セザールが呟いた。

「なにか違う気がしますよね」
 フランソワも似たような笑みだ。

「全然違うでしょ!」
 アンヌは思い切りツッコんだ。

「いやいやいや。なにを言うかな。ちゃんと敵兵力に打撃を与える部隊なんだから、間違ってないよ?!」
 カロスタークも全力で否定する。

「間違ってないと正しい。言わんとするところは同じでも、同一ではないのね」
 眉を寄せて、うんうんと頷いて見せるのはエルザである。

「私はカロスターク様に同意です」
 まったく違うぞ、とラヴァル。
 鋭くなった視線が義弟に突き刺さっている。

「違うのは金のかかりかたですがね」
「あー。それはそうかも」
 確かに金はかかりまくる。そこは認めざるを得ない。
 商人としては苦言を呈したくもなるだろう。

「なんにせよ、開戦まであと二日を切った。追い込みにかかるよ」
「はい!」

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